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シリーズレポート「BIMが切り開く未来の街」 第2部

築地市場跡地の新たな可能性

汐留から眺めた旧築地市場と浜離宮恩賜庭園の一部

いよいよ第2部!
第1部で出されたアイデアも一部活かしながら、
itaru/taku/COL.(https://www.itarutakucol.com)の
共同代表である稲垣拓さん、山本至さんのお二人に、
旧築地市場の跡地を想定した未来の街を提案していただきます。

稲垣 拓(いながき たく)さん

稲垣 拓いながき たくさん
itaru/taku/COL. 共同代表
1987年千葉県生まれ。2010年東京大学工学部建築学科卒業。2011年リスボン工科大学留学。2013年東京大学大学院修了。2013〜17年山下設計に勤務。2017年itaru/taku/COL.を設立。

山本 至(やまもと いたる)さん

山本 至やまもと いたるさん
itaru/taku/COL. 共同代表
1987年神奈川県生まれ。2011年慶應義塾大学卒業。2014年東京大学大学院修了。伊東建築塾 NPOこれからの建築を考える、山本理顕設計工場を経て、2016〜18年首都大学東京特任助教。2017年itaru/taku/COL.を設立。現在、東京大学博士後期課程。


水辺空間と都市

水辺空間は、都市の中でも特別な意味を持つ空間だ。河川であれ港湾であれ、水辺空間は水運に支えられた産業とインフラの場として、都市に欠かすことができないものであった。ロッテルダムやハンブルク、ケルン、ロンドン、上海や横浜といった都市たちは、この強みを最大限に活かして発展してきた街だ。

歴史を紐解くと、近現代以降、多くの水辺空間が産業や都市構造の変化に伴って開発の憂き目にあうようになる。例えば、ソウル中心部を流れる清渓川(チョンゲチョン)は、高度経済成長を後押しするためと、当時スラム化が進んでいた状況に歯止めをかけるために暗渠化され、跡地には高架道路が建設された。東京でも同時期に、オリンピックに合わせた大量輸送を可能にする首都高速が、河川網の上に被さる形で建設されている。ハンブルクやニューヨークなどにおける港湾工業地帯も、産業の移転に伴う空洞化が見られ、土壌汚染なども相まって跡地利用がなかなか進まないといった事態に陥っていた。こういった事例は枚挙にいとまがなく、世界を見渡せば都市開発によって水辺が失われた事例は多く見つけることができる。

しかし、1990年代から徐々に、失われた水辺に再びフォーカスを当てる動きが出てくる。アメリカやヨーロッパを皮切りに、経済合理性に重きを置いた開発から、市民の生活や街のアイデンティティのためにウォーターフロントを復活させようという運動が、各所で生まれる。例えば、ハンブルクでは、市民の参加を促す形でブラウンフィールド(工業跡地を指す)の開発が行われたし、ソウルの清渓川は暗渠から市民の憩いの場としての河川に再生された。

家族や観光客が憩う川辺の親水空間(ケルン)

パビリオンやテラス席で賑わうテムズ川(ロンドン)

豊かな水辺空間の維持には確かに手間がかかる。水質が悪化すれば衛生や匂いが問題になるし、災害時のコントロールや安全確保でも多くの労力を要するだろう。しかし、ウォーターフロントが空間に豊かさをもたらすことに人々が気づきさえすれば、こういったプラクティカルな側面の先にある都市の理想像やアイデンティティを、人々が共有するきっかけを生み出すこともできる。ウォーターフロントには、そんな力が秘められている。

今回私たちが、築地市場跡地を舞台として提案するのも、東京におけるウォーターフロントのあり方を、東京オリンピック・パラリンピックによる近年の臨海部開発のあり方と築地市場移転を受けて再考する格好のタイミングに思えたからだ。


築地の歴史的背景

私たちが提案する舞台「築地」とは、そもそもどういった土地なのだろうか。

築地は江戸、明治、そして現代に至るまで、多くの歴史的背景が集積された興味深いエリアだ。元をたどると、1657年の明暦の大火が築地を築くきっかけとなる。明暦の大火によって江戸の多くが消失し、その中には西本願寺の別院も含まれていた。復興計画の中で湾岸部が埋め立てられ、西本願寺別院が築地本願寺として再建されたことが、この地の発祥といえるだろう。また、周辺には寺院や墓地が多く集積し、寺町のような様相を呈していたという。

その後、江戸時代を通じて武家地が隣接するエリアに集積し、松平定信の下屋敷および庭園(現築地市場跡地)、甲府藩下屋敷の庭園(現浜離宮恩師庭園;以下、浜離宮)などが広がる地域となった。

築地市場の跡地内には、寛政の改革で知られる松平定信の庭園「浴恩園(よくおんえん)」がかつて存在した。
出典:小沢圭 写『江戸浴恩園全圖』(1884年)
(国立国会図書館デジタルコレクションより/ http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9367513

時代は変わり、幕末・明治になると、東京において外国人居留地の整備が明石町を中心に始まり、洋館やホテル、ミッションスクールといった建物が多く見られる地域になった。キリスト教系の学校である雙葉学園、青山学院、立教学院や、聖路加国際大学などが明石町を発祥の地としており、今でも街を歩くと、至るところにゆかりを謳う石碑を見つけることができる。

しかし、こうした時代も長くは続かず、関東大震災(1923年)によって、築地を含めた東京全域が再び壊滅的な被害を受けることになる。その中で、江戸東京の食生活を支えてきた日本橋魚河岸が焼失し、その移転先に築地が選ばれたことで、私たちが知る築地市場が生まれたのだ。


築地市場跡地のポテンシャル

築地市場跡地は約400m×500mの整形地で、周辺半径1キロ圏で見ると、西には浜離宮、東には場外市場および築地本願寺、北には銀座、南には隅田川と、多様な周辺環境がコンパクトに集積している。また、先述した外国人居留地のゆかりを感じさせる明石町や多くの外国人観光客で賑わう場外市場など、徒歩で楽しめるスポットが数多く存在している。

水辺に目を向けると、隅田川は水上バスや小型クルーズなどの往来があり、多くの船着き場が川沿いに点在していることから、水上交通のポテンシャルが大いにあるといえるだろう。

築地市場跡地に隣接して港湾局と河川局の管轄境界がある。これは、築地市場に面しているエリアが東京湾と隅田川という2つの水域に接していることを意味する。そのため、船を使えば、東京湾から晴海・豊洲・お台場に出ることができるし、隅田川を上流に向かえば両国、浅草、日本橋といったエリアに出ることもできる。

ただし、隅田川に沿って設けられた高い護岸壁によって人が水辺に近づくことができず、現在の都市空間からウォーターフロントを感じることは難しい。

【築地市場跡地とその周辺エリア】

都心エリアに近接し、様々な施設が集積しているだけでなく、東京水系への玄関口として機能するポテンシャルも持つ。赤の実線で囲まれた黄色の円は地下鉄の駅を示す。
出典:国土地理院発行1万分の1地形図を加工して作成/ PDFをダウンロード


築地市場跡地を利用したウォーターフロント

このような立地にある築地市場跡地にどういった都市空間をつくればよいだろうか。

ここでは、「都市に接するウォーターフロント」「水上の祝祭空間」「水上交通の拠点」という3点を軸として、案を説明したい。

■ 都市に接するウォーターフロント

この提案の最も特徴的な点といえるのが、隅田川・東京湾の水を引き込み、水辺空間を街に近づけるというものだ。もともと、築地市場の川に向かって閉じられたつくりから水際が都市の裏側になってしまっていた。そこに水を引き込むことで、都市の賑わいが現れる表側に転換しようとする試みだ。

敷地の南西側に大きく引き込まれた水際に沿って、様々なアクティビティが繰り広げられる建物群、プロムナード、屋形船などのための船着き場を設ける。地下鉄「築地市場駅」を降りて目の前に広大なウォーターフロントが広がるさまは、江戸東京がかつて水都と呼ばれた理由を感じるきっかけになるのではないだろうか。

引き込まれた水域には、たくさんのパビリオンやステージが用意され、イベントや憩いの場として水上に賑わいをもたらす。演劇、シアター、コンサートやスポーツ対戦といった様々なイベントが行われ、囲まれた建物やプロムナードから人々がそれらを鑑賞することができる。

対岸には、ブリッジでつながれた浮島をつくる。水は2か所で湾とつながり、水位や船の往来をコントロールできる。豪雨に伴って隅田川の水が汚濁した際に、水質を保つために水の流れをシャットアウトすることも可能だ。

この浮島は水深が浅いと入れない船のための船着き場として機能し、東京湾や隅田川を巡るフェリーがここに立ち寄っていく。また、遮るものがない開けた眺望と浜離宮の緑によって、気持ちのよいプロムナードとしても使うことができるだろう。

長谷工 建設部門 建設BIM推進部 部長の原英文(はら ひでふみ)さん

築地エリアには、国立がんセンターや聖路加国際病院などの病院がいっぱいあるので、病院の屋上からも楽しめる、こうした豊かな空間があるのはいいと思います。

そうなんです。ウォーターフロントは、ゆとりや安らぎの空間をもたらす大切な場所ですよね。(稲垣談)

■ 水上の祝祭空間

築地にとって、波除(なみよけ)稲荷神社の存在は大きい。築地の埋立工事が荒波によって難航を極めた際に建立されたこの神社は、「災難を除き、波を乗り切る」といわれ、約360年にわたって築地とともに歴史を歩んできた。年に1回の「つきじ獅子祭(まつり)」は、築地の町会が総出で行う一大祭事で、毎年多くの見物客で賑わう。特に3年に1度の本祭は、より盛大に行われている。

ウォーターフロントが都市に近づくことによって、よりドラマチックで新鮮な祝祭の場として、活用できるのではないだろうか。

豊洲市場水産仲卸・築地場外市場 魚河岸「京富」の門井直也(かどい なおや)さん

波除神社の祭りを築地−浜離宮まで広げられる空間になるといいなと思いますね。

なるほど。築地−浜離宮までお神輿が往復するときの観覧席にもしたいな。(稲垣談)

左に写っているのが「京富」の門井直也さん

■ 水上交通の拠点

東京の水上交通は、観光客向けのフェリーや、屋形船を除けば、決して充実しているとはいえない。しかし、水上交通には、多くのメリットがある。場所によっては地上交通網より効率よく行き来することができるし、移動中は開けた眺めと風を楽しみながら過ごすことができる。

例えば、船で羽田空港から東京湾を渡って東京の東側に行くことができれば、多くの人が利用するのではないだろうか。前述したとおり、隅田川と東京湾のちょうど境に位置する築地市場跡地は、こういった広域の水上ネットワークを将来的に構築するにあたって、絶好の立地にあるといえる。

また、AIやIoTといった新しいテクノロジーによって後押しされた、様々なサービスや空間のあり方も考えられる。例えば、自動運転。一般的に自動運転といえば自動車のことを思い浮かべる人が多いだろうが、船舶の自動運転も開発が活発に進められている分野である。2017年に閣議決定された「未来投資戦略2017」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2017_t.pdf)においても、2025年までに自動運航船の実用化を目指すことが謳われている。衛星通信、AIの技術を活用した障害物回避や、遠隔操作技術が進めば、水運は陸上交通以上に便利な交通手段になる可能性もあるのだ。

長谷工 エンジニアリング事業部 BIM推進室 チーフの中野達也(なかの たつや)さん

水上交通と陸上交通をIoTで結びつけ、例えば、自動運航船に乗って到着した先に自動運転車が待っているようになると、水運と陸運を融合することができて面白いのではないでしょうか。

そうか!水上交通と陸上交通の融合が進めば、船の運航を妨げる橋の数が減らせるかもしれない。
新しいテクノロジーは、水辺空間の景観をより豊かにする可能性も秘めているんだな。(稲垣談)

【提案をまとめた見取り図】

緑の破線で囲まれたL字形のエリアが、船着き場、プロムナードとして機能する浮島。
出典:国土地理院発行2,500分の1地形図を加工して作成/ PDFをダウンロード

【提案のイメージパース】


ウォーターフロントの価値を見直す

私たちがこれから生きる時代は、東京を含む日本にとって縮小の時代であり、スプロールからコンパクトシティへと移行していく時代でもある。それはすなわち、都市において、経済合理性に裏づけられた「広さ」や「量」以上に、生活や空間の「質」に重きを置かなければいけない時代ともいえるのではないか。だからこそ、都市内の敷地を前にした時、どういった空間をつくれば都市の「質」を上げることができるだろうか、という観点を忘れてはならないように思える。

私たちが今回提案した築地構想案は、とても大がかりで、すぐに実現できるような内容ではないだろう。しかし、築地という特異な場所において、ここでしか生み出せない価値は何なのか、何を将来に残せばよいのかという問いに対して、この案が少しでもヒントになるのではないか。私たちはそれを期待している。

<文・図:稲垣拓・山本至>

-COLUMN-

今回の提案を聞いて

原英文さん


船は現在、ほぼ観光用途でしか使われていませんが、東京にはもともと運河が張り巡らされていて、通勤、通学などの日常用途でも船の方が楽というケースは少なくありません。今回の提案は、築地を水運の起点に変えるというもので、生活や文化をも変える起爆剤になる可能性を秘めていると思います。

門井直也さん


企画としてはとても面白いですが、東京都の坪単価の高い土地をあえて水で埋めてしまうのは現実的に難しいかもしれませんね。個人的には季節ごとに変わる特別展を行うイベント会場や美術館になるといいな。海と川が入り混じっているところなので、どんな水辺になるのかな?

中野達也さん


現在、東京には、川べりに親水空間が結構ありますが、陸地のはじになってしまっているのが実情です。しかし、築地が水運と陸運をつなぐ拠点となったら陸地のはじではなくなるわけで、川を中心とした新しい人の動線が広がっていく可能性があると思います。

次回は、「今春から商用サービスが始まる5Gで街が変わる可能性」をご紹介します。
乞うご期待!

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