シリーズインタビュー「ICT 技術とBIM」 vol.01
情報の一元管理が
業務を変えるBIMをはじめとしたICT技術は、建築業界にどのような影響を与えるのか。
このシリーズインタビューでは、若手建築家がIT業界の識者に取材し、
ICT活用が進む建築業界の将来像を展望します。
今回は、写真・図面等の生産データの一元管理サービスを提供する
株式会社フォトラクション 代表取締役 CEOの中島貴春さん。
建築現場で作成されるデータの管理の重要性と、AIを用いた蓄積データの活用について伺います。
中島 貴春(なかじま・たかはる)さん
株式会社フォトラクション 代表取締役 CEO
<プロフィール>
1988年生まれ。2013年に芝浦工業大学大学院建設工学修士課程を修了し、株式会社竹中工務店に入社。大規模建設の現場監督に従事した後、建設現場で使うシステムの企画・開発およびBIM推進を行う。2016年3月にCONCORE’S 株式会社(現 株式会社フォトラクション)を設立。
https://www.photoruction.com/corp/
◎インタビュアー
稲垣 拓(いながき・たく)さん
建築家
itaru/taku/COL. ファウンダー
http://itaru-taku-col.strikingly.com/
あらゆるフェーズを統合したデータベースの構築
稲垣:
中島さんはBIMに関連した仕事をされていたことがあるそうですが、その頃、BIMに対してどのようなことを感じておられましたか?
中島:
設計フェーズは、建築のデザインに関する検討や積算などBIMを使うメリットがはっきりしているので、BIMが浸透している印象があります。しかし、施工フェーズでは、BIMの使用目的が曖昧だったかなと思いますね。設計から施工フェーズへのデータの受け渡しも分断されていて、設計データから施工図を作るのも大変だったので、施工図は施工図で改めて作っていた。そんなこともあり、当時は、BIMモデルの作成目的を明確にしないといけないと強く感じました。
最近は、「BIM 100%でいく」という流れも多いんですが、何のために100%を目指すのかを考えなければいけない。BIMモデルを作っても活かせないのであれば、単純にコスト増になりますよね。
稲垣:
BIMはそもそも、企画から運用まであらゆるフェーズの情報を統合して、入力の手間を合理化するためにありますよね。BIMに限らず建築現場でデータを集約して、データベースとして一元化して扱うことでメリットが生まれてくるはずです。
中島:
そう、おっしゃるとおり! もちろん、データベース化がうまくできている会社もあります。しかし、自社で同時にいくつの現場が動いていて、どの現場の利益率や工程がどうなっているのかをうまく一元管理できているところが少ないかなというのが現状です。
データベースが整備されていないのも一因ですが、データは現場の人が入力してくれないと、蓄積されない。以前の職場で現場の入退場管理システムを手がけた時に気づいたことですが、「入れてください」と現場に通達を出しても、現場の人に「使えないな〜」と判断されてしまえば、誰も入力してくれない。
稲垣:
その思いが、御社が現在提供されている、建築・土木の生産支援クラウド「Photoruction※」の開発につながってくるわけですね。Photoructionは、どういう仕組みで運用されているんでしょうか?
中島:
結構シンプル。現場写真や図面、工程表などを全部クラウドに上げてもらいます。モバイルとパソコンのどちらからでもアクセスできて、後ろでサーバーが動いている……まあ一般的なインターネットサービスです。
現場の人にデータを入れてもらうのが一番いいんですよね。便利に使えるツールを提供すれば、データは現場の人が入力してくれて、自然と集まってくる。そして、管理者や経営者の方は社内の全現場を一元管理できます。
※https://www.photoruction.com/
Photoructionの写真共有機能
現場で撮影した写真を社内でリアルタイムに共有できる
出典:フォトラクション
Photoructionの工程管理機能
工程管理表を作成し(モバイルは閲覧のみ)、関係会社との共有も簡単
出典:フォトラクション
データ入力を効率化する
稲垣:
Photoructionのユーザーインターフェースはものすごく直感的で、チュートリアルを読まなくてもわかってしまう。それが多くのクライアントに使われている理由かと。
中島:
ユーザーインターフェースはこだわって作っています。皆さん、ふだんからiPhoneやiPadのユーザーインターフェースに見慣れているので、最近はBtoBの世界でもユーザーインターフェースが良くないとサービスとして生き残れない。サポートの力も大きいかなと思っています。弊社は今、Photoructionをどのように使ったら生産性が上がるのかをこちらから提案して、レポートを出させていただく、カスタマーサクセスというサービスを提供しています。
稲垣:
具体的にどのようなサービス?
中島:
例えば、どのユーザーが今月写真を何枚撮って、どれくらい使ったのか、会社全体のアクティブ率がどれくらいなのかをレポートしています。「この現場では使えているけど、この現場では使えていない。なぜだろう?」というのを導入担当者と一緒に分析することもある。弊社は建築業界出身のスタッフが多いので、現場に行った時に、現在どのフェーズまで進んだのか、どんな課題を抱えているのかがおおむねわかります。例えば、配筋検査で困っていることがわかれば、配筋検査用のマニュアルを作って持っていくなど、フェーズごとに個々の課題解決につながるような説明をするように心がけています。
稲垣:
クライアントとの密なやり取りやユーザーインターフェースの使いやすさも相まって、データを集めることに成功していると思いますが、このノウハウをデータベース以外に活かすことは?
中島:
API(Application Programming Interface)を使って、書類作成や図面承認などの機能をもつ基幹業務システムとPhotoructionを連結させたり、BIMツールのあるボタンをポチッと押すだけで、APIを介してBIMモデルのデータをPhotoructionに取り込んだりすることができる。基幹システムで営業担当が案件を新規登録すると、Photoructionでもプロジェクトが生成されて、権限も全部連動させられる。現場の人は便利に使っていて、データが入った後に、基幹システムの方でボタンを押すと、データを吸い上げて、竣工図書まで全部自動的に作成されます。
そうそう、URLでデータを共有する機能もありますよ。例えば、協力会社さんにデータを見せたいケース。写真や図面を選択して、パスワードや有効期限を設定した共有用のURLをメールで送ると、相手方にも見えます。
Photoructionの図面管理機能
Photoructionでは、現場写真だけではなく、図面も管理できる
出典:フォトラクション
稲垣:
なるほど……。僕が会社に勤務していた時代にこの話を聞いていたら、絶対に会社に導入していましたね(笑)。
AI活用による建築の未来
稲垣:
御社で提供しているもうひとつのサービス「aoz cloud※」は、図面を認識・分析するAI(人工知能)エンジンですが、AIと建築を組み合わせる発想はどういった経緯で得られたのでしょうか?
中島:
AIで大変なのが、データを集めて処理する部分です。Photoructionは導入件数が2万5000件ほどになり、現場で便利に使っていただいているので、すでに大量のデータが集まってきていた。そこで、集まったビッグデータをAIに処理させたら、面白いことができるのではないかなと思って、大学の先生方と一緒に、建設業におけるAI活用を考える勉強会を始めました。
稲垣:
ビッグデータを集めて、AI学習の素材にする……。
中島:
例えば、Googleは無料で検索サービスを提供してデータを集め、自社のAIをどんどん賢くしてますよね。これはうまいやり方かなと思います。建築のツールだって、便利であればデータが集まり、AIの活用で作業を自動化できるのでは、というわけです。
aoz cloudは、Photoructionに登録されているデータをポンと投げるだけで解析を行える。例えば、Photoructionは工事黒板を電子化して一元管理していますが、工事写真を撮ってaoz cloudに流すだけで、コンクリート工事なのか、鉄筋工事なのかを自動で仕分けできます。
※https://aoz.cloud/
Photoructionの電子小黒板
Photoructionは工事黒板も電子化して一元管理できる
出典:フォトラクション
aoz cloud
aoz cloudは図面を認識・解析するAIエンジンだが、図面以外の解析も視野に入れて開発が行われている
出典:フォトラクション
稲垣:
aoz cloudではどのようなデータ活用を目指されていますか?
中島:
今は2つの方向性を考えています。1つはユーザー様のご要望に応じて、プロジェクトごとに解析させていただく方向。もう1つは複数の会社や大学の方々と一緒に、写真に写っているものを自動判別するなど、汎用のAIを開発する方向です。例えば、写真でボードが何%、軽鉄が何%と抽出できれば、自動で工程管理ができるのではないかなと思っている。汎用的なAIで、写っている対象の検出や認識を行い、案件ごとの取り組みで「これを自動積算したい」「これを抽出したい」などのご要望に応えられるAIを開発します。
稲垣:
AIとBIMとの組み合わせについてだと、AIを取り入れることで、BIMはさらに普及する可能性があるでしょうか?
中島:
aoz cloudの1つのゴールに、2Dの図面からの3D立ち上げがある。2D図面のどこが壁で、どこがスラブや柱かを判断できれば、自動で3Dを立ち上げられないかというわけです。
稲垣:
これまでもテクノロジーが新しく入ってくるたびに、業界が変わるという議論が起きましたが、AIの場合はどうでしょう? 設計者としては、単純作業以外の領域でAIがどのように活用されるのかが気になります。BIMなどのツールが統合され、効率化されていく中で、業界に対してはどんなインパクトを与えるでしょうか?
中島:
個人的な意見ですが、AIは単純作業の効率化以外に、最適解を見つけることも得意です。調達や品質管理など、最適解があるところから浸透していくのではないかなと思います。
稲垣:
部分部分であっても、どんどん最適化していく……。
中島:
デザインもある程度AIで自動化できるでしょうが、人が描いた図面は人の感情を動かすので、これまでどおり人が担当する部分は残るかなと思います。一方、調達、工程管理、品質管理といった部分には、今後どんどんAIが導入されていくのではないか。
Photoructionもaoz cloudも、技術者の本質的でない仕事を全部なくしたいと思って開発しています。それによって浮いた時間を、計画など、優れた建物を建てるために本来必要な作業に費やしてほしい。僕自身は、データベースの力で建設業がいい方向に変わっていったらいいなと思っています。
稲垣:
なるほど。そうなったらいいですね。貴重なお話、ありがとうございました。
次回は「第24回R&R建築再生展2019」の東芝エレベータブースで行われた
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