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シリーズレポート「BIMが切り開く未来の街」 第1部 vol.1

BIM着工100%に向けて

シリーズインタビュー「ICT 技術とBIM」 vol.01

このシリーズレポートでは、第1部でBIM・ICT活用の具体的な取り組み事例から
ICT技術が切り開く未来の街までを3回にわたって展望。
第2部では旧築地市場の跡地を想定して未来の街を提案します。
第1部は、BIMの導入・活用で最先端を走る
長谷工コーポレーション(以下、長谷工)のキーマンと、
若手建築家、ITベンチャーCEOにお集まりいただき、
その1回目では、長谷工がBIMを導入する過程で直面した課題とその解決法を中心に伺います。

原 英文(はら ひでふみ)氏

原 英文はら ひでふみさん
株式会社長谷工コーポレーション
建設部門 建設BIM推進部 部長

中野 達也(なかの たつや)氏

中野 達也なかの たつやさん
株式会社長谷工コーポレーション
エンジニアリング事業部 BIM推進室 チーフ

稲垣 拓(いながき たく)氏

稲垣 拓いながき たくさん
itaru/taku/COL. ファウンダー
http://itaru-taku-col.strikingly.com/
(モデレーター)

中島 貴春(なかじま たかはる)氏

中島 貴春なかじま たかはるさん
株式会社フォトラクション
代表取締役 CEO
https://corp.photoruction.com/

石原 隆隆裕(いしはら たかひろ)氏

石原 隆裕いしはら たかひろさん
シンテグレート
http://www.syntegrate.build/ja/home


設計施工一貫でBIM100%を目指す

稲垣:

以前、若手建築家4名が集い、組織設計事務所におけるBIMの現状・課題について議論したのですが、「ゼネコンではどうだろう?」ということで、まずは長谷工さんのBIMの導入状況に関する話をお伺いできればと思っています。

中野:

弊社がBIMを本格導入したのは、BIM推進室を発足させた2012年です。その後、2014年にBIM実施設計1号案件を手がけ、2019年1月現在、BIM案件が約30%を占めるまでに拡大してきました。今年は実施設計案件の約70%をBIMで、来年からは一般的なマンションであればBIM設計100%でやっていこうという計画を立てています。

BIM実施設計1号案件の「ブランシエラ板橋西台」
出典:長谷工コーポレーション

稲垣:

長谷工さんのBIMにはどんな特徴がありますか?

中島 貴春(なかじま・たかはる)さん

中野:

「マンションに特化」「高い設計・施工比率」「マンションに関するトータルビジネスを展開」「協力会社との連携」「工業化・標準化への取り組み」の5つが挙げられます。
まず、マンションに特化に関しては、1969年に自社施工マンション第1号を手がけて以来、これまでずっとマンションに注力してきたことが挙げられます。
設計・施工比率に関しては直近5年で95%を超えています。この比率が高いと、設計段階で作り込まれたBIMモデルが施工で使われる確率が高まりますから、設計施工一貫BIMモデルに取り組むメリットがあるということです。
マンションに関するトータルビジネスに関しては、事業計画から、設計、施工、販売、管理、リフォーム、建て替えまでをグループでビジネス展開しているので、将来的にはすべての部分でBIMモデルを活用していきたいと考えています。

協力会社との連携では、建栄会という組織があり、東芝エレベータさんをはじめとする協力会社さんに会員になっていただいています。建栄会とは、どうすれば施工しやすくなるかを長年一緒に考えてきたのですが、その取り組みの中にBIMを組み込むことができました。
工業化・標準化への取り組みに関しては、1973年に開発した「コンバス※1」以降、部材の標準化・モジュール化という考え方が脈々と受け継がれています。それらをBIMパーツとして作れば、そのままBIMのシステムになります。

※1 コンバス:標準化したユニットの組み合わせによってマンションの企画・設計・施工を行う手法で、CONdominium BUilding Systemの略。


BIMソフトをカスタマイズしたツールの活用などで生産性を向上

稲垣:

BIMを導入する過程で、どんな課題に直面されましたか?

中野:

ひとつは生産性の低下があります。弊社ではRevitを導入したのですが、最初の案件ではCADの5倍ぐらい人工(にんく)※2がかかりました。その後、人工は徐々に減ってきて、「よしよし」と思っていたら、2倍程度まで下がったあたりから減らなくなってきた。そこで、使いやすいインターフェースを備え、入力者とRevitの間を橋渡しするH-CueB※3というツールを開発しました。H-CueBは様々な機能を持っていて、例えば、BIMパーツを効率よく選択できる検索機能があります。

Photoructionの工程管理機能

H-CueBのイメージ
出典:長谷工コーポレーション

石原:

検索というのは、何か名前を打ち込むと絞り込まれるのでしょうか?

中野:

そうです。例えば、「キッチン」と入力すると、キッチンのパーツが出てくる。ほかにも、ユニットバスやキッチン、家具などを自動配置するツールも備えています。こうしたツールの効果で人工はCAD比1.6倍ぐらいまで下がってきました。

CAD作図と比較した場合の人工の推移。H-CueBの導入で設計作業時間は約20%削減され、人工も1.6倍程度まで下がってきた
出典:長谷工コーポレーション

稲垣:

ほかに作業を円滑化するツールでご紹介いただけるものはありますか?

中野:

例えば、BIMモデルを使って3D根伐り※4施工図を作成するツールがあります。これは、基礎部材を一括選択すると、根伐り底領域を自動計算して根切りモデルを生成するツールで、掘削数量をExcelに書き出すことができます。現在は、正確な設計モデルをもとに施工検討する、こうしたツールをいくつも作り始めている段階です。「BIMモデルどおりに作るからな」「BIMモデルが間違っていても、そのままできるからな」が合言葉(笑)。

根伐りモデルを生成するツール画面
出典:長谷工コーポレーション

原:

「何も考えずに、BIMモデルどおりに作るぞ」というと、設計者は真剣に考える。

稲垣:

設計者が欲しいと思うツールをどんどん開発していく土壌があれば、BIMの普及・拡大を図る上で後押しになりますね。

※2 人工(にんく):作業にかかる時間のこと。
※3 H-CueB:長谷工が構造計画研究所と共同開発したRevitのアドオンツールで、HASEKO Design&Construction utility of enhanced BIMの略。
※4 根伐り:建物の基礎を作るために地面を掘削すること。


設計図書と施工図を統合し、トータルコスト削減を目指す

石原:

BIMを導入して、作図する図面の数が減ったり増えたりすることはないですか?

中野:

図面の数はあまり変えていませんが、設計図書と施工図は合体させました。設計図書と施工図を1つのBIMモデルから切り出し、統合図と呼ぶ1つの図面にしてしまう試みです。

設計図書と施工図を一体化した統合図
出典:長谷工コーポレーション

稲垣:

設計・施工が一体であるがゆえにできることですか?

原:

設計と施工を一体化する試みで、似ていると思ったのは自動車業界です。自動車のデザインは自由にやっているように見えますが、実際には、生産性に関して工場と綿密に打ち合わせして進めているそうです。我々もこれと同じです。施工がしにくく生産性が上がらないといわれれば、生産性が上がる納まりや材料を検討するというように、協力会社さんが施工しやすいものを設計者がくみ取る素地は昔からあります。

中島:

長谷工さんがBIMを推進されているのは、CADで描くよりも人工がさらに下がるイメージがあるのか、ほかにメリットがあるからなのか、どちらですか?

原:

弊社の場合、BIMモデル作成費の一部を施工側が設計側に支払っています。施工に必要な情報を設計に入力してもらっているので、その分設計の人工は増えますが、経営トップは、会社全体で利益を上げればよいというスキームを描いていた。設計も施工も使えるモデルを作るんだと、だからお金も折半だよ、というところからスタートしたのが今に生きているのかなという気はします。

中野:

設計側に対して、労力と一緒に、フィーという形でメリットもフロントローディングしないと、設計者のモチベーションが働かないと思います。人工1.6倍という数字が見えてきた今、設計・施工で併せてペイしそうだというのが実際に見えてきているのです。また、トータルでプラスになればよいので、BIMデータを販売資料に活用するなど、設計、施工以外のプラスアルファの活用先も重要です。これについては、プラスで回収できる余地が今後さらに増えていく感じですね。

設計・施工の一体化で業務フローが改善される
出典:長谷工コーポレーション

石原:

具体的なコストに対して、現場側でどれだけカットできたかが数字でわかると、きちんとした議論ができます。設計と施工の費用負担をイメージだけで議論していても、話はまとまりません。実証的に数字を押さえられているところが素晴らしいと思います。


設計部門と建設部門の打ち合わせでBIMデータをスリム化

中野:

BIMの導入過程では、データが重くなること、施工側で使えるだけの十分な精度がないことも、課題のひとつとして出てきました。

稲垣:

若手建築家座談会でも、精度の問題などから、意匠、構造、設備の各部門がバラバラにBIMデータを活用している点が話題になりました。

中野:

弊社でも当初は、「BIMなんだから、詳細な情報をどんどん入れていこう」という“BIM神話”のもと、BIMパーツを作り込んで入れていたんですよ。そうしたらもうダメ。モデルが全然動かないことに気がつきました(笑)。そこで今度は、データをぎゅっとスリム化する方向に軌道修正しました。

原:

BIMモデルに、含める情報と含めない情報に切り分けるにあたり、社内で話し合った結果、結構含めないようにしました。例えば、設計側で情報を加えるのに2倍の労力がかかるとしたら、施工側で4倍ぐらい取り戻せる項目だけに絞り、残りは捨てるとか。入れようと思えば入れられる項目であっても、Excelの方が効率よければ外出ししています。逆に、目視でわかる実際の大きさは納まりを検討する上で重要なので、実物大の大きさで全部描いてもらうなど、再現性にこだわっています。

稲垣:

BIMには、モデルに含める情報の細かさの度合いについてLOD(Level of Detail)という考え方がありますが、長谷工さんの場合、項目によって詳細に、項目によってざっくりとやられているのですね。

中野:

そうです。入れる項目、捨てる項目をひとつひとつ決めるために、建設部門と設計部門の打ち合わせは毎週やっています。そして、この場で決めたことは、案件単位のルールではなく、会社全体のルールにしています。

原:

設計と施工とBIM設計部の3者で共通の運用ルールを更新し続けています。決まったルールは、現場だけでなく、協力会社さんからも了解をもらって運用していく。

中野:

例えば、サッシメーカーさんが相手の場合、必要な情報は何か、その中で設計の負担で出せる情報は何かを話し合い、確実にモデリングする情報をルール化して、運用しています。こうした活動を、これまで地道に積み重ねてきました。

原:

要するに、生産システムに必要ない項目は入れないということですね。何でもBIMに情報を入れなければいけないという固定観念を捨てた瞬間に、BIMワークフローは非常にうまく回り出しました。

稲垣:

ありがとうございます。設計側で作成したBIMモデルをそのまま施工側に渡せず、悩んでいる企業が少なくない中、とても参考になるお話をしていただいたのではないかと思います。次回は、ICT技術が変える建築業界という話題にまで広げて、議論していきたいと思います。

次回は、AIやICT活用に対する長谷工の取り組みやその可能性を中心にお伺いします。乞うご期待!