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若手建築家BIMトークセッション vol.03

BIMの未来と活かし方

若手建築家BIMトークセッション

この座談会では、組織設計事務所やBIMコンサルティング会社に在籍する若手建築家が、
設計事務所におけるBIMの現状・課題からBIMが描く未来までを3回にわたって展望します。
3回目は最終話として、海外におけるBIMの活用事例やBIMが描く将来像など、幅広いトピックを議論します。

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稲垣 拓(いながき・たく)さん

稲垣 拓(いながき・たく)さん
itaru/taku/
COL. ファウンダー
(モデレーター)

家原 憲太郎(いえはら・けんたろう)さん

家原 憲太郎(いえはら・けんたろう)さん
(株)山下設計 設計本部 設計開発室/
デジタルデザイン室 主任

石原 隆裕(いしはら・たかひろ)さん

石原 隆裕(いしはら・たかひろ)さん
シンテグレート

松井 一哲(まつい・かずあき)さん

松井 一哲(まつい・かずあき)さん
(株)日建設計 設計部門 設計部

※組織設計事務所・・・設計専業で、在籍者数が多い建築設計事務所のこと。


海外にみるBIM化の流れ

稲垣:

これまで日本におけるBIMの活用状況を見てきたけれど、海外では状況がまったく違います。例えば、シンガポールでは、2015年から5000m2を超える建物の「意匠設計」「構造設計」「設備設計」の確認申請にBIMを使うように義務づけているし、2016年からは、国土全体をBIMモデル化する「バーチャル・シンガポール」というとんでもないスケールのプロジェクトを進行させていました。現在では設計プロセスにBIMを使わざるをえない状況を作り出しているので、設計自体がBIMと一体化しているといえるかな。

「バーチャル・シンガポール」プロジェクト
「バーチャル・シンガポール」プロジェクト

「バーチャル・シンガポール」プロジェクトで再現されたシンガポールの街並み 出典:ダッソー・システムズ

「バーチャル・シンガポール」関連動画(英語) 出典:ダッソー・システムズ

石原:

今のシンガポールの話を受けて話すと、中国のアリババという大手IT企業が、現実世界にあるものをサイバー空間内に再現した「デジタルツイン」を都市レベルで作っていると聞いたことがあります。デジタルデータにしてしまえば、コンピューターの解析対象になりますから、デジタルツインを作ると、例えば流通やエネルギーなどの場合は、どこにどれだけの量を流すと最適で無駄がないか、コンピューターでシミュレーションできちゃう。食料品の場合は、売れないところで売っていても仕方がないので、食料品の在庫をどこにどれだけ置いておくとちゃんと売れるか、コンピューター上で検討しておく。そうすれば、食品廃棄物を減らすことができるんです。

稲垣:

ロジスティックやインフラまで包括的に扱える、と。

石原:

まさに。建築物がすべてBIMモデル化されると、建設段階でのムダが減っていくでしょうし、デジタルツインを使って、都市機能を効率よく運用できるようになるのかなと思います。

稲垣:

都市スケールでBIM的なプラットフォームを活用する日もそう遠くないかもしれないね。サービスはもちろん、防災や健康といった様々な分野での活用も考えられそう……。

石原:

BIMモデルのデータがすべて揃っていれば、あらゆる建物の築年数と位置をマップ上で把握できます。例えば、このデータを地震シミュレーションのデータと重ね合わせると、倒壊する建物の割合が多いエリアを示したり、一見すると安全そうだけど、実は地震が起きるとすごく危険なエリアを示したりできるのではないでしょうか。今は、行政が木造密集地域の情報を持っているけど、さらにあらゆる種類の建物のデータを集約できるようになると、より詳細なハザードマップを作成できる。ほかにも、日常生活にその情報が活かされるようになるなど、新しい未来が拓けてくるのかなという気がします。

「ET City Brain」のサイト

アリババが推進している「ET City Brain」のサイト(https://www.alibabacloud.com/et/city)。 コンセプト動画もある。

石原 隆裕(いしはら・たかひろ)さん

他分野との連携でより活きてくるBIMデータ

稲垣 拓(いながき・たく)さん

稲垣:

シンガポールに話を戻すと、まさに彼らは都市のすべての情報をBIMというプラットフォームで統一して、それを広域で活用しようと考えているんじゃないかな。これは日本では簡単にできないと思うけど、こんな野心的なプロジェクトを可能にする社会的な背景は何だろう?

石原:

シンガポールはまさに、先ほど話をしたような、BIMモデルのデータを使って災害・生活サービスのシミュレーションなどをやりたがっている。そして、それを可能にしているのが、都市国家という政治体制だと思います。シンガポールが確認申請にBIMデータの提出を義務づけられた理由は、その窓口を政府に一元化できていることなのです。

稲垣:

日本で同じことをやろうとしたら、大混乱になるだろうね。

石原:

日本では、国土交通省が建築行政のトップになっているけど、実際に判断しているのは所管の各行政庁の主事です。項目によっては主事が独自の判断で運用しているため、地方ごとに微妙に指導が異なる部分がある。だから横並びで電子化されてしまうと各地で大変なことになるので、やりたくないというのが正直な気持ちじゃないですかね。

稲垣:

そういう意味では、地域ごとの行政制度に合わせてBIMの導入度合いや活用の仕方が異ってくるんじゃないかな。日本でも、地域をまたぐ広域なサービスや機能については横並びで運用して、細やかな生活ニーズに対しては地域ごとにカスタマイズする活用の仕方があればおもしろい。BIMという大きなプラットフォームの中で、その情報をどう活用するかは地域ごとに工夫できる柔軟な仕組みづくりが可能ならば、全国のまちづくり活動やストック活用といった個別ニーズにも対応できる可能性を感じるね。

ところで、BIMを用いることでつながっていく分野としては、都市や土木がまず頭に思い浮かぶけど、組織設計事務所では、都市計画をはじめとする他分野とのコラボレーションでBIMを活用することは議論されているのかな?

松井:

個々のプロジェクトレベルでは、都市データを用いて、モデル上での景観検討や効果的なサイン設置位置の検討、VRによるプレゼンテーションなどを行っています。ただ、BIMプロジェクトのストック数がまだまだ少ないため、それを群としてまとめて扱い、組織だって活用していくというレベルについては、現状まだビジネスモデルを確立できていません。3Dの形態情報だけでなく、環境性能などのライフサイクルマネジメントにも活かせる属性情報も入力していければ、今後IoTなどにもつながっていくと思います。このような将来を見越して、社内ではIoT推進室が設立されました。

稲垣:

かなり先まで見越した、野心的な部署だね。

松井:

2017年からはソフトバンク(株)と業務提携をし、環境センサーや人感センサーによるデータ解析も用いて、新しいワークプレイスのデザインを進めています

※プレスリリースとして発表された時点の情報です。その後予告なしに変更となる場合があります。

松井 一哲(まつい・かずあき)さん

「建築」の可能性を拡げるBIM

稲垣:

3回にわたって語り合い、BIMの課題から可能性までをひととおり眺めた上で、最後にBIMの未来について、提言や展望を一言ずつもらえます?

石原:

私個人の近い将来に関する展望をお話しすると、今、建築の専門家は建築家以外に、構造設計者、機械設備設計者、電気設備設計者など設計に関する様々な専門家がいます。しかし、将来はこれらの専門家に加えて、建築情報担当者が、建築業界の中でも専門技術者として位置づけられるようになるといいなと思っています。

家原 憲太郎(いえはら・けんたろう)さん

家原:

BIMというと、効率化、合理化の話がどうしても前面に出てしまいますが、建築設計をやっていると、そうした話だけではつまらないと思います。これまで建築デザインと人との関わりについては、建築家が「建築はこうあるべきだ」という信念のもと、あくまでサービスとして提供していたんですよ。ビジネスになっていなかったというか……。しかし、BIMを使えば、先ほど話に出たようにハザードマップを詳細化したり、IoTとの連携で人とのつながりを明確にしたりできるようになり、今後はそれがきちんとしたビジネスとして成り立っていくのではないか。そんな方向に進んでくれるといいですね。

松井:

これまで手描きもCADも、共通言語は「図面」でした。「図面」は3次元の建築をハンドリングの容易な2次元の紙に記録し伝達できる、1000年以上かけて洗練化したツールといえます。BIMはその「図面」を介さずに、3次元を3次元のまま伝えることも可能なツールです。無頓着にフォーマットどおりの図面を描くだけでなく、本当に必要な情報は何なのか、伝えるべきことを設計者が真摯に考えるべきフェーズに時代が移行したのだと思います。また、組織設計事務所の持つ職能を広げるためにBIMを活用できればいいなと個人的には思っています。従来の組織設計事務所は、建築の専門家ではあるけれども、建物の完成・引き渡しまでしか関わることがなく、もったいないと思っていました。BIM情報というアドバンテージを活用することで、その後の運用やマネジメントなどにも職能を広げていければ、建築士の職務給改善にもつながっていくのではないでしょうか。

稲垣:

都市空間に興味がある私としては、BIMが建築と都市の架け橋となってくれる可能性があるという話がとても新鮮でした。設計者は、地域性やコンテクストを感覚値に頼ってつかもうとするけれど、必ずしも読みが当たらない。だから場違いで、ニーズに合わない建築が一向に減らない。BIMによって都市像を正確に捉えられる未来が来れば、建築家はそれを活かして、よりおもしろいアイデアやコンセプトを実現できるようになるのではないでしょうか。BIMが建築家のクリエイティビティをなくすのではなく、むしろドライブする──そんな未来を思い浮かべています。

皆さま、3回にわたり、ありがとうございました。

次回からは、BIMに関する新企画がスタート!
有識者インタビューを行います。