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若手建築家BIMトークセッション vol.02

BIM活用の壁をどう乗り越えるか

若手建築家BIMトークセッション

この座談会では、組織設計事務所やBIMコンサルティング会社に在籍する若手建築家が、
設計事務所におけるBIMの現状・課題からBIMが描く未来までを3回にわたって展望します。
2回目は、BIMを使った具体的なプロジェクト例を引き合いに出しながら、
BIMを活用するための課題と運用手法について語り合います。

1回目はこちら

稲垣 拓(いながき・たく)さん

稲垣 拓(いながき・たく)さん
itaru/taku/
COL. ファウンダー
(モデレーター)

家原 憲太郎(いえはら・けんたろう)さん

家原 憲太郎(いえはら・けんたろう)さん
(株)山下設計 設計本部 設計開発室/
デジタルデザイン室 主任

石原 隆裕(いしはら・たかひろ)さん

石原 隆裕(いしはら・たかひろ)さん
シンテグレート

松井 一哲(まつい・かずあき)さん

松井 一哲(まつい・かずあき)さん
(株)日建設計 設計部門 設計部

※組織設計事務所・・・設計専業で、在籍者数が多い建築設計事務所のこと。


パラメトリックデザインとBIMを融合した研究所の事例

稲垣:

前回はBIMの現状を整理したけど、ここでひとつ、BIMを使ったプロジェクト例を紹介してくれる?

松井:

東京都内の住宅街で進行中の研究所の事例を紹介しますね。まず与条件として、建物内の面積効率を高め、この敷地の許容延べ床面積内で可能な限りの実験諸室の床面積を確保しよう、というところからプロジェクトがスタートしました。要望を整理してコンパクトな平面計画を進めるのと同時に、研究所というプログラムから生じる大面積のダクト・配管類を、面積消化のない外周壁面に集約しました。一方で、都内の住宅街という立地もあり、景観への配慮も必要です。クライアントは化粧品を扱う企業だったので、ブランディングとしてもネガティブなイメージが連想されてしまう工場チックなダクト・配管類の露出は避けたかった。そこでそれらをぐるっと覆う外装スクリーンの検討を進めました。素材はレンガを採用していますが、その積み方のパターン検討にBIMモデルをうまく活用できました。具体的には、設計の初期段階から設備設計者と協働して、外部のダクトや配管類をすべてBIMでモデル化・確認し、敷地周辺からそれらが見えにくい外装デザインのパターンを網羅的に検討しました。

稲垣:

人の手でパターンを検討すると膨大な数になりそうだけど、そこはどうクリアしたの?

研究所の外観

研究所の外観
画像提供:日建設計

研究所の外観

外周壁面に集約されたダクト・配管類
画像提供:日建設計

松井:

DDL(Digital Design Lab)チームの協力を得て、プログラミングを用いています。まず視点として、道路上の通行人や線路上の電車、近隣住宅の窓を想定し、敷地外から見えるダクト・配管の割合を面積に置き換えて数値化、それをどれだけ少ない数値にできるかで評価を行います。外装による目隠し機能も重要だけど、同時にコストや通風、採光等も考慮すると、レンガの密度が少ない方が望ましい箇所もある。「壁面の見え率」と「レンガ数量」をパラメーターとし、どちらの数値も小さな値となる効果的なパターンの配列はどのようなものなのか検討を進めました。プログラミングを用いることで、短い期間で1000通り近い配列パターンを自動生成できました。その後、人の手により意匠性や施工性も踏まえた調整を加え、最終的なファサードにたどり着きました。


※DDL・・・日建設計内にある一組織で、プラグインの研究開発やコンピュテーショナルデザインを駆使した設計支援を行っている。

レンガブロックによる視認性

レンガブロックによる視認性の比較検証
画像提供:日建設計

レンガブロック・パターン

レンガブロック・パターン
画像提供:日建設計

松井 一哲(まつい・かずあき)さん

稲垣:

BIMツールとパラメトリックデザインの融合だ。

松井:

そうなんです。RhinocerosとARCHICADが両方なければ検討できませんでした。ほかにも、研究者の方々へのヒアリングにもBIMを活用しています。研究所というプログラムの特性から、プランニングにおける実験台や実験機器のレイアウト検討が重要でした。BIMを用いれば、打ち合わせ中に図面上でレイアウト検討を行いながら、その場で検討案の3Dイメージを研究者の方々にも見てもらうことができます。建築の平面図を見慣れていない研究者の方でも、3次元のパースなら容易に空間を把握することができ、議論が活発になりました。結果的にクライアントの満足度の向上や設計期間の短縮にもつながったと思います。適材適所でBIMの使い方を考え、最適なツールと組み合わせることで、1つのBIMデータを幅広く活用できたプロジェクトです。

BIMによる実験台に対する要望の可視化

BIMによる実験台のレイアウト検討
画像提供:日建設計

情報統合・共有ツールとしてのBIM

情報統合・共有ツールとしてのBIM


BIM運用の課題と設計事務所の職能

稲垣:

リアルタイムで最適なバリエーションを確認できるというBIMのメリットがよく表れていたプロジェクト例だね。一方で、実際にBIMを運用していて、具体的な課題として感じたことはあるかな?

松井:

研究所のプロジェクトでは、意匠部門、構造部門、設備部門と各々でBIMデータを活用していましたが、各々のソフトもリリース元も異なっていたため、それらを総合的に活用することが難しいと感じました。重ね図のように、各々のBIMデータの「重ねモデル」を行い、干渉チェックは行いましたが、事務所全体で見ると、重ねモデルのような検討を行えているプロジェクトすら現状ほとんどありません。

稲垣:

それぞれがBIMを使っているのにもったいないと思うんだけど、どうしてかな?

松井:

統合モデルを活用するには、まずは各々元データの入力が必要ですが、1本1本ダクトや配管を入れていくとなると相当の人手がかかってくるので、設計事務所の基本設計・実施設計段階でそこまでやる価値があるのか、判断しかねている感じです。

稲垣 拓(いながき・たく)さん

稲垣:

BIMのコストメリットが見つからない限り、日本の組織設計事務所でレベル2まで浸透するのはなかなか難しそう……。本来であれば、建築・電気・衛生・空調が協働し、1つのモデルで作業を進めたいはずです。

日本と欧米の組織設計事務所が持つ職能の違い

日本と欧米の組織設計事務所が持つ職能の違い

石原:

それができないもう一つの仮説として、設計事務所の持つ職能の文化的な違いもあるのではないかと。アメリカなどでは、設計事務所が施工図まで描くという文化があるそうです。その中で設備図も、何がどこにあるかというところまで具体的に考える必要がある。ところが、日本の組織事務所の場合は、ルートや系統図の設計までなんですよ。そうした役割の違いがあるので、日本の場合、「2Dでも形を押さえていないのに、何で3Dでいきなり検証するの?」みたいな話になるんだと思います。

稲垣:

日本の組織設計事務所の職能に、本来BIMで一番活きるところが含まれていないというわけだ。

石原:

構造はBIMとの相性が一番よくて、建築図と構造図が3Dであると、過ちが少なくなる。


設計ツールとしての制約はあるのか?

稲垣:

ソフトウェアやツールとしてのBIMについても少し議論しましょうか。ひとつ気になっているのは、現状のBIMツールに、規格や標準から外れた時の制約があるので、設計の幅が狭められていないか、という点。このあたりは皆さん、どうです?

石原:

建築物は原則として工業製品の集合体、組み合わせでできているので、ほとんどのものは「ファミリー」などと呼ばれているプリセットを使って作れます。確かに、ちょっと形状が複雑になると、それを作れるプリセットはなかなかありませんが、そこだけ個別に対応すればいいだけの話です。

稲垣:

対応できない場合は他のツールと連携させる──例えば、ARCHICADはRhinocerosと連携して使うと聞いたことがある……。

松井:

確かにそうですね。ただ、実施設計段階で活用したBIM情報を含むデータをゼネコンさんにお渡ししても、施工現場の監理段階でデータが途切れてしまうことがあります。詳細な検証を行っても、後工程でフルに活用されていないという現状があり、その部分に分断を感じています。

石原:

日本の建築業界の場合、文化的な役割の観点から社会的に合わないのかも。組織設計事務所でやるべきBIMのモデリングの精度として、1つの基準がLOD200だといわれています。つまり、大体1/200の平面・立面・断面にのる程度の情報量だと労力に対するパフォーマンスが高く、それを超えると、パフォーマンスは上がらない感がある。

石原 隆裕(いしはら・たかひろ)さん

稲垣:

現状ではLOD200を基準として、様々なツールと併用することで、効率と設計の幅を最大限確保するのが正解なのかもしれないね。

BIMモデル

各フェーズで必要とされるモデルの詳細度を表すLODの概念図
わかりやすさを優先して簡略化した説明です。正確な理解のためにはBIMハンドブックなどを参照してください。


海外事務所から学ぶ運用手法

稲垣:

BIMのモデリングの精度以外に、現状では情報マネジメントがかなり難しいという点もBIMの課題ではないかと感じてるんだけど、これはどうクリアしたらいいと思う?

松井:

意匠の人たちは常にモデルを動かし続けるので、その都度、他部署の人に承認を得る時間の余裕がありません。1つのモデルでプロジェクトを進めると、「また変えたのか」という話になりかねない(笑)。このあたり、僕も気になるところです。

石原:

BIMの手法論として、私が一緒に仕事をしたことがある、あるBIMマネージャーの場合、モデルの「ステータス」で切り分けて管理していました。つまり、統合されたモデルは1つありますが、通常検討を行ったり、改変したりするモデルは別に分けてある。意匠を検討して、あっちもこっちもといろいろ枝分かれして、2週間に1回、定例会議の時に統合モデルにアップデートするわけ。このように運用で解決するのが、現状、世の中に知られているベストプラクティスかなという感じです。

家原 憲太郎(いえはら・けんたろう)さん

稲垣:

確かに、その都度メインモデルを変えると大混乱になるけど、そのアップデートのタイミングを揃えると連携がとりやすくなる。

石原:

BIMの話をする時、ソフトのオペレーションの話で止まってしまいがちだけど、本来、BIMというのは設計の手法論の話がほとんどなので、運用の仕方をどうするかという設計のための戦略がポイント。ファイルの名前の付け方から始まり、どういうタイミングで共有するのかという情報マネジメントこそがBIMの肝なんです。

家原:

石原さんが言うように、BIMを使う上では、そもそも設計のやり方を事前に整理しておく必要があります。整理せずにプロジェクトを進めると、将来、どこかで被害が生じて、「BIMは使えない」という悪い循環が起きる。それを改善するには、BIMがどうこう言う以前に、設計のワークフローをどうするかを議論しておくべきではないかと思いますね。

vol.3「BIMの未来と活かし方」