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よくわかるエレベーターと建物のこと

こんなにバリエーションが!
さまざまな利用場面に対応するエレベーター

街で見かけるエレベーター、しかしよく見ると意外とその種類が多いことに気が付きます。エレベーターはどのようなニーズに基づいて作られ、どのように機種選定が行われているのでしょうか。今回はエレベーターの種類とその選定方法について掘り下げていきます。

建築設計では比較的早い段階でエレベーター周りについて考える

「エレベーター交通計算」で定員や必要な台数を決定

 建築設計の際、エレベーター機種選定はどのように行われるのでしょうか。建築家の方に話を聞くと、エレベーターのシャフトサイズは建築の躯体設計に大きな影響を与えるため、なるべく早い段階で決定する必要があるということです。設計終盤にエレベーターの必要サイズが大きくなってしまうと調整に苦労することになるため、動線計画をしっかり考えたうえで、早めにエレベーターの積載量や定員を確定していきます。
 エレベーターの大きさや速度、必要台数の計算は「エレベーター交通計算」と呼ばれます。表に示す指標がそれぞれ基準値に収まるよう、エレベーターの定員、速度、必要台数を決めていきます。乗用エレベーター以外の荷物用・人荷用エレベーターについても、台車などの移動を想定した合理的な動線計画の下、必要な運搬能力が確保できるサイズのエレベーターを選定します。

指標 指標の意味 基準となる値
5分間輸送能力 フル回転時に5分間で輸送できる乗客数をビル内在籍者数で割った値 集合住宅では5%
貸事務所ビルでは12-15%
平均運転間隔 1階からエレベーターが出発する時間間隔の平均 1台の場合は90秒以下、2台以上の場合は60秒以内が望ましい
一周時間 エレベーターが出発階に戻ってくるまでの時間平均
平均待ち時間 全階での待ち時間の平均
エレベーター交通計算で求められる主な指標と数値

※本サービス判定水準は日本エレベーター協会「昇降機計画指針」に基づいています。

施設によって異なる乗用・住宅用エレベーターのニーズ

 ひとくちに乗用エレベーターといっても、商業施設ではわかりやすい操作が求められる一方、オフィスビルでは出勤時などピーク時の輸送能力が重要となります。また、ホテルなどではフロアによって宿泊客以外のアクセスを禁止するなどセキュリティ機能が必要となる場合があり、施設によってエレベーターに求められる機能は大きく異なってきます。
 集合住宅などで採用される住宅用エレベーターでは、引っ越しの際に家具が運搬できるかご室のサイズが必要になるとともに、ストレッチャーを載せるための開閉可能なトランクの設置が求められることがあります。
 エレベーターに求められる機能は、以下に示すように多岐にわたります。

車いすや自転車がエレベーターに乗車するために必要なかご室の大きさ。
JIS規格からの寸法(弊社調べ)。
集合住宅 引っ越しの際にソファーやベッドなどの大型家具が載せられる大きさが求められる。車いすや自転車などを載せる場合には、対応したかごの大きさが必要になる
オフィスビル 出勤時や昼休みなど、ピーク時の輸送能力が重要
ホテル 宿泊客以外アクセス不可にしたい階がある場合には、カードキーによる操作などがセキュリティ機能として求められる
商業施設 急行運転の他、フロアによって営業時間が異なる場合など、柔軟な停止階コントロールが求められる
動線が複雑になるケースが多く、かごに2か所の乗降口が必要になる場合がある。また、乗降口が屋外にある場合には、エレベーター表示機器の防滴対策や、ピットへの雨水の流れ込みを避けるために建築側での対策が必要になる

荷物運搬エレベーターや寝台用エレベーターに求められる積載荷重

 主に荷物を運搬することが目的の荷物用・人荷用エレベーターには、乗用とは全く異なる性能が求められます。バックヤードで用いられるエレベーターはデザインにこだわる必要がないため、かご室の内装や乗降口の意匠はシンプルなものが主流。しかし、その一方で積載重量やかご室の大きさについては業務に合わせて細かく検討を重ねながら機種選定を行うことが何よりも重要になります。
 特に荷物を積み込む際、フォークリフトなどの機材がかご室に乗り込む運用を行う場合には注意が必要です。荷物の重量に加えて積み込みを行う機材の重さが一時的にかご室にかかることになるため、設計の際にはどのような運用を行うかについても検討する必要があります。
 また、病院や介護施設などに設置される寝台用エレベーターは、ストレッチャーやベッドを収容するためにかご室のサイズは奥行き方向に広いスペースが必要となる一方で、積載荷重は緩和されるなど、エレベーターの用途によって、求められる大きさや積載荷重は大きく異なってきます。

荷物用エレベーターは積載荷重6000kg かご内装3200mm×5000mmまで対応

多彩なニーズに応えるエレベーター

利用場面に応じてドアの開き方も最適な形が選ばれている

 エレベーターのドアは、中央開き・片開き・上開きなどいくつかの開き方があり、利用場面に応じて適した開き方が採用されています。中央開きの戸は多方向からの乗り降りに適しているため、商業ビルやオフィス、駅など多数の乗客が一斉にアクセスするような施設で多く採用されています。一方、集合住宅では片開きのドアが採用されること多いのですが、これは最小限のスペースで間口を多くとる際に有利なためです。ドア関連では、住宅用エレベーターなどを中心に、かご室を閉ざされた密室にしないための防犯窓付きドアの採用も増えています。東芝エレベータでは標準サイズ防犯窓の他に、身長の低い子どもでも視認しやすい大型サイズ防犯窓付きドアもご用意しています。
 一方、荷物用・人荷用エレベーターでは、搬入出の効率を考えて間口が大きくとれる片開きや3枚片開き、さらにスペース確保に有利な上開きも数多く採用されています。

住宅用エレベーター 防犯窓付き片開き
荷物用や人荷用では上開きや片開き3枚など普段目にしないタイプのドアの開き方もある

用途に応じてかごのデザインもさまざま

 高級住宅向けでは、かごのデザインにもクオリティが求められます。地上54階地下4階の超高層マンション「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー」はアートギャラリーや居住者用レストラン、会員制スパなど共用施設も充実。エレベーターも利用者に「ヒルズライフ」を提供するハイクオリティなデザインとなっています。
 昇降中のエレベーターから街を見下ろすことができるシースルーエレベーターも快適な乗車体験を提供します。構造上、エレベーターの構造が外部から見えることから、ロープや機器などのデザインも工夫されています。

虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー
Kurita Innovation Hub
広島JPビルディング

特殊な構造をもつエレベーターにはどんなものが?

 通常のエレベーターは昇降路1つにつきかごが1つ、ドアは1か所という形が基本ですが、施設によってはかごそのものが特殊な構造をもつエレベーターが採用されます。
 鉄道駅など動線が複雑な施設では、2方向にドアを持つエレベーターをみかけることがありますが、これは階によってドアが開く方向を変えたい場合に採用されます。乗車した戸と反対側が開く貫通型だけではなく、L字型にドアが配置されるものもあります。
 一方、かごそのものを昇降路内に2台配置したエレベーターがダブルデッキエレベーターです。2台分がひとつの昇降路内に納まるので、輸送効率の向上と省スペース化を実現します。輸送力はシングルデッキエレベーターに比べて約1.9倍。在館者が多い大規模高層ビルなどに最適です。高層ビルではエントランス階など一部の階で天井が高いことが多く、ダブルデッキエレベーター導入の妨げになっていましたが、東芝エレベータは世界初の階間調整機能を搭載、異なる階高でも運用が可能です。

 利用場面に応じて様々なバリエーションのあるエレベーターを見てきましたが、いかがでしたでしょうか。今回紹介した事例以外にもエレベーターにはまだまだ多くの種類があるので、機会を改めてまたご紹介したいと思います。

ダブルデッキエレベーターにおける階間調整機能の仕組み
ダブルデッキエレベーターは下かごが奇数階、上かごが偶数階に停止するダブル運転を基本に、上下とも各階に停止するセミダブル運転も可能

 利用場面に応じて様々なバリエーションのあるエレベーターを見てきましたが、いかがでしたでしょうか。今回紹介した事例以外にもエレベーターにはまだまだ多くの種類があるので、機会を改めてまたご紹介したいと思います。

次回は「駆動方式から振り返るエレベーター技術の進歩(前編)」です。
乞うご期待!