MENU

よくわかるエレベーターと建物のこと

駆動方式から振り返る
エレベーター技術の進歩(前編)

人や荷物を載せたかごを上下させるエレベーターですが、かごを動かす仕組みは、既に使われなくなったものを含め意外と多くの方式があります。今回はエレベーター駆動方式に着目し、前後編に分けてさまざまな方式それぞれの特色を紹介するとともに、駆動技術の進歩について見ていきます。

エレベーターの起源は紀元前にまでさかのぼる

人力で駆動されていた古代エレベーター

 エレベーターの起源は意外と古く、紀元前200年頃にはすでに滑車を使ってかごを上下させる装置が用いられていたとされています。古代ギリシアでは紀元前235年頃にアルキメデスがエレベーターを発明、荷物の運搬に利用したということです。紀元前1世紀頃になると、古代ローマの闘技場、コロッセオにライオンなどの猛獣を剣闘士のところへと運ぶためのエレベーターが設置されるなど、広く使われるようになりました。
 これらのエレベーターは主に人力でロープが巻き上げられていました。動力源で分類すると「人力エレベーター」ということになります。他にも動物力や水力でかごを持ち上げる「動物力エレベーター」や「水力エレベーター」なども用いられていたようです。

コロッセオの地下施設。現在はむき出しになっているが、かつては床が張られ、闘技場の下から人力エレベーターで剣闘士や猛獣が登場した

出所:Panoramic photographs of Colosseum’s interior
ThePhotografer, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ロープ式に加えて油圧・ネジ式など多彩な駆動方式が登場

 近代に入ると、次々と新たなエレベーター駆動方式が登場します。1793年にロシアの発明家、イワン・クリービンが作ったエレベーターは、椅子を長いネジに固定した「ネジ式エレベーター」。ネジを回すことで椅子が昇降する仕組みで、サンクトペテルブルグの冬の宮殿(現エルミタージュ美術館)に設置されました。
 1835年には、動力源として蒸気機関を用いるエレベーターも登場しました。しかし蒸気エレベーターの速度は遅く、実用品というよりもアトラクション的な設備として使われていたようです。
 しかし、こうした状況は蒸気機関に比べて格段にスピードアップした電動式エレベーターや油圧エレベーターの登場で一変します。さらに1852年には落下防止装置が発明されたことで安全性も大きく向上、エレベーターの普及が一気に進みました。1890年に完成した浅草凌雲閣(通称浅草十二階)に設置されたエレベーターも電動式でした。1900年代に入ると超高層ビルが次々と建設されるようになりますが、この頃にはエレベーターはビルに不可欠な設備となっていました。

エレベーター駆動方式の分類

現在のエレベーター動力はほぼ電力駆動

 エレベーターの動力をみていくと、古代の「人力」を使ったエレベーターから始まり、あわせて「家畜など動物力」「水力」などが利用される時代が長く続きました。18世紀に入ると「蒸気機関」「電力」なども使われるようになりましたが、現在ではほとんどのエレベーターが電力で駆動されています。
 古くから使われている舞台のセリ上がり装置や荷物の上げ下げなど、昇降装置の一部には人力による駆動が残っています。しかし、こうした装置は法的にはエレベーターに分類されないため、現在使われているエレベーターはほぼ電力による駆動とみることができます。

セリを上下させる装置

出所:出石永楽館

現在、昇降機構の主流はロープ式エレベーターのマシンルームレストラクション式

 一方、エレベーターの昇降機構は、「ロープ式」「油圧」「ネジ式」「リニアモーター」など現在も複数の方式が用いられています。さらにロープ式は「トラクション式」と「巻胴式」に、油圧エレベーターは「直接式」「間接式」「パンタグラフ式」などに細分化できます。
 ロープ式のうち、トラクション式エレベーターはかごと釣合おもりをバランスさせたもので、現在最も広く使われている方式で、以前は昇降路の一番上に巻き上げ機を設置するための機械室が必要でした。しかし、東芝エレベータは1998年に小型化したギアレス巻上機を昇降路内に設置した国内初のマシンルームレスの規格型エレベーターを発売。これを機に従来の機械室ありエレベーターからのリプレースを含めてマシンルームレスエレベーターの普及が一気に進んでいきました。
 もう一つのロープ式エレベーター、巻胴式は釣合おもりを持たず、ロープを巻き取っていくことでかごを昇降させます。この方式は古代のエレベーターから用いられていたシンプルな方式で設置も容易なのですが、釣合おもりがないことで電力消費が大きいこと、高層ビルでは巻き取らなければいけないロープが長くなってしまうことなどから、採用は個人住宅用など小規模のエレベーターにとどまっています。

エレベーター駆動方式の分類
トラクション式エレベーター
巻胴式エレベーター

油圧エレベーターは3つに分類される

 一方、油圧エレベーターは「直接式」「間接式」「パンタグラフ式」の3つに分類されます。
 直接式は、油圧ジャッキとかごを直結し、ジャッキの動きがそのままかごに伝達されるものです。間接式はジャッキに取り付けられた滑車のロープを介してかごを上下させるもの、パンタグラフ式はかごの下に取り付けられたパンタグラフ状のアームを油圧ジャッキで操作するものです。
 油圧エレベーターの特徴は、重量物の運搬が可能なこと、建物上部に機械室が不要なこと、建物上部に荷重がかからないことなどです。しかし、マシンルームレスのロープ式エレベーターの登場で油圧エレベーターを採用するメリットが小さくなったことから、マシンルームレスエレベーターへのリニューアルも進んでいます。

直接式油圧エレベーター
間接式油圧エレベーター
パンタグラフ式油圧エレベーター

ネジ式やリニアモーターなど駆動方式は他にもあるが

 ネジの回転でかごを上下させる「ネジ式エレベーター」は、駆動部をかごに搭載することができるため、既存建物の極端に狭いスペースへの後付け設置など、ごく限られた状況で採用されます。
 リニアモーター駆動のエレベーターは、かごと釣合おもりをロープで結んだ従来型のエレベーターをリニアモーターで駆動するもの、ロープを使わずリニアモーターを使って上下左右自在にかごを動かすものに分類できますが、前者はマシンルームレスエレベーターと比較した場合さほど大きなメリットがなく、後者はまだ研究段階で実用に至ってはいないのが現状です。

マシンルームレスエレベーターの構造:駆動部

主流となっているロープ式エレベーターも技術の改良が進められている

 駆動方式として主流となっているロープ式エレベーター・トラクション式ですが、初期のものと現在のものでは技術に大きな違いがあります。次回、「駆動方式から振り返るエレベーター技術の進歩(後編)」では、ロープ式エレベーターを中心に、駆動方式の進歩についてみていきたいと思います。

次回は「駆動方式から振り返るエレベーター技術の進歩(後編)」です。
乞うご期待!