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よくわかるエレベーターと建物のこと

駆動方式から振り返る
エレベーター技術の進歩(後編)

前編では、古代までさかのぼってエレベーター駆動方式を振り返りました。
現在主流となっている釣り合い重りを用いたロープ式エレベーターですが、初期のものと最新のエレベーターでは用いられる技術に大きな違いがあります。今回はロープ式エレベーターの技術進歩について見ていきます。

初期のエレベーターは交流モーターと直流モーターを使い分け

普及型のエレベーターに用いられた交流モーター

 モーターは用いる電源によって「直流モーター」と「交流モーター」に大別できます。交流モーターは電源の周波数によって回転速度が決まることから、スピードのコントロールが難しいのですが、構造が単純で比較的安価に設置できます。このため、初期の普及型エレベーターでは主に交流モーターが用いられました。
 交流モーターを一定速度で動かす方式を「交流一段制御」と呼ぶのですが、着床時にズレが生じないようにするために運転速度を抑える必要がありました。そこで、モーターのコア数を増やすことで高速モードと低速モードと2種類の回転速度を選択できるようにした上で、着床時に低速モードに切り替える「交流二段制御」という方式が開発されました。古いエレベーターの中には、目的階が近づいていきたところでガクンと速度が落ち、その後ゆっくりと着床するものがありますが、これが交流二段制御です。東芝エレベータは、1967年発売の乗用標準エレベーターで交流一段制御(速度毎分30m)、交流二段制御(速度毎分45mもしくは60m)の2種類の制御方式を採用していました。
 交流一段制御、交流二段制御はどちらも着床時にモーターを切り、ブレーキで止まる方式ですが、1973年頃からは着床時にサイリスタで速度コントロールを行う「交流帰還制御」も用いられるようになりました。

*サイリスタ
スイッチング機能で電流を制御することができる半導体素子。大電流に耐えられることから電力制御などに用いられる。

交流二段制御の速度曲線
交流一段制御と異なり着床前に低速運転に切り替える
1967年発売の標準形エレベーター(交流方式)

直流モーターは高速エレベーターで採用

 一方、電圧を変えることで回転速度を自在に変えることのできる直流モーターは高速エレベーターで用いられました。東芝エレベータは、虎ノ門17森ビル(1970年)に納入した高速エレベーターにワード・レオナード方式で制御されるギアレス直流モーターを採用。乗り心地の良い高速エレベーターを実現しました。
 ワード・レオナード方式は、交流電動機と直流発電機を直結し、巻上機に供給する電圧をコントロールする方式です。巻上機の直流モーターの他に交流電動機と直流発電機が必要になるため、多くの設備が必要でメンテナンスにも手間がかかるのですが、乗り心地の良い高速運転が求められる高層ビルやホテル、デパートなどで採用されました。東芝エレベータがサンシャインシティ(1978年)に納入した高速エレベーターもワード・レオナード方式でした。

サンシャイン60

 その後、大電力制御が可能な半導体開発が進んだことにより、レオナード方式はサイリスタを用いたサイリスタ・レオナード方式へと進化しました。東芝エレベータでは小田急第一生命ビルディング(1980年)で初採用。帝国ホテル(1983年)、東芝ビルディング(1984年)などの高速・超高速エレベーターでもサイリスタ・レオナード方式が用いられました。

東芝ビルディング

インバーターの登場で駆動方式は大きく進化

電車やエアコンなど広く用いられるインバーター

 インバーターとは、周波数や電圧がもともとの電源とは異なる交流電源を発生させる装置です。交流モーターの回転数は電源周波数によって決まってしまうのですが、逆に電源周波数を制御できればモーター回転数を自由にコントロールできることになります。インバーター制御により交流モーターの速度制御が容易になったことで、それまでの「普及型は交流モーター」「高性能が求められる場面では直流モーター」という使い分けが一変しました。
 インバーター制御はエアコンや電車などさまざまな場面で使われています。1981年、東芝は世界初の家庭用インバーターエアコンを開発、エアコン技術史に革命を起こしました。従来のエアコンはコンプレッサー回転速度が一定。フルパワー運転と運転停止を繰り返していたのですが、インバーターの採用で回転数を細かく制御、負荷に応じて最適に運転できるようになり、経済性と快適性が格段に向上しました。
 電車でも1982年の熊本市電8200形での採用以降VVVFインバーターが主流に。現在では新造車両のほとんどがインバーター制御となっています。
 エレベーターでは、1983年に東芝エレベータが世界初となるインバーター制御高速エレベーターを製品化。1985年には東邦ガス総合技術研究所に1号機を納入。さらにエレメイトP CerebellumVFなど規格型エレベーターにもインバーター制御が採用されるようになりました。乗り心地とともに大きな省エネ効果が得られるインバーター制御。ワード・レオナード方式や交流二段制御、油圧エレベーターからのリニューアルでは、消費電力が半分以下になる場合もあります。

*VVVFインバーター
VVVFはVariable Voltage Variable Frequencyの略。パワー半導体を用いたインバーターで、任意の周波数と電圧を発生させる。

東芝インバーターエレベーターCerebellumVF(1985年)
インバーターの働き
入力とは周波数や電圧が異なる交流を出力する

中低速エレベーターにマシンルームレスが登場

昇降路内に機器を配置することで設計自由度が格段にアップ

 エレベーターといえば、巻上機などを設置する機械室が昇降路の真上に必須。そんな常識を打ち破ったのが1998年に東芝エレベータが開発した国内初のマシンルームレスエレベーター「SPACEL」です。
 制御盤の厚みを従来の1/3以下に薄くするなど、コンパクト化した制御装置や巻上機を昇降路内に配置することで実現したマシンルームレス。「エレベーターから機械室が消えた」というキャッチフレーズは業界に衝撃を与えました。機械室が必要なくなったことで建築設計の自由度がアップ。さらに機器が昇降路内に配置されていることから建物上部に荷重がかからず、構造設計もより簡単になります。マシンルームレスエレベーターは、またたくまに業界標準となりました。マシンルームレスエレベーターはその後も2013年に回生電力機能搭載の「SPACEL-GR」が登場するなど進化を続けています。
 駆動方式が変わることで乗り心地が格段に向上したり、大きな省エネ効果が得られたりするエレベーター。最新機種へのリニューアルをお考えの方は、ぜひ東芝エレベータにご相談ください。

有償付加機能として回生電力機能を搭載できる
「SPACEL-GRII 標準型:乗用(P形)

次回は「大型マンション「ニュートンプレイス」のゆとり空間を支えるエレベーターサイネージ」です。
乞うご期待!