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よくわかるエレベーターと建物のこと

こんなに複雑!
エレベーターをとりまくさまざまな法律や規定
(後編)

エレベーターを取り巻く法律や各種規定。前編では複雑な法体系や、法律に則ったエレベーターの設置・運用を支える業界団体の活動について紹介しましたが、後編では法律で規定された特殊なエレベーターなどについて、さらに深い視点で見ていきたいと思います。

法律ではエレベーターはどう定義されている?

そもそも「昇降機」「エレベーター」っていったい何?

 前編で紹介した「昇降機技術基準の解説」では「昇降機」について「一定の昇降路、経路その他これに類する部分を介して、動力を用いて人又は物を建築物のある階又はある部分から他の階又はある部分へ移動・運搬のための設備」と解説していて、法的にはこれに基づいた運用が行われています。昇降機と似たものとして、工場などの設備に組み込まれた垂直搬送機*や自動倉庫の設備、舞台のせりあがり装置などがありますが、これらは昇降機には分類されません。また、都市内を走行するなど運航規模が大きなものは「斜行エレベーター」ではなく「ケーブルカー」に分類され、鉄道事業法や軌道法の対象になります。
 昇降機は「エレベーター」「エスカレーター」「小荷物専用昇降機」などに分類することができますが、「エレベーター」の分類基準が建築基準法と労働安全衛生法で異なることが問題を難しくしています。
 建築基準法施行令では、「かごの床面積1平方メートル超」と「かごの天井高さ1.2メートル超」、いずれかの条件を満たしたものを「エレベーター」とする一方、労働安全衛生法では両方の条件を満たしたものを「エレベーター」としています。エレベーターに分類されないものについても、建築基準法では「小荷物専用昇降機」、労働安全衛生法では「簡易リフト」と呼び方が異なっています。

*工場、作業場等の生産設備又は搬送設備として専らそれらの過程の一部に組み込まれる施設で、人が搬器への物品の搬出、搬入に直接介入せずに使用され、かつ、人が乗り込んだ状態で運転されるおそれがない構造となっているもの

人や物品を移動する機器の分類
人や物品を移動する機器の分類
労働安全衛生法と建築基準法でのエレベーターの定義の違い 出所:国土交通省提供資料より作成
労働安全衛生法と建築基準法でのエレベーターの定義の違い
出所:国土交通省提供資料より作成

さらに細かく規定されているエレベーターの種類

 昇降機の一種として定められているエレベーターですが、用途などによってさらに細かく種類が分けられています。
 私たちが最も多く目にするエレベーターは、人の輸送を主目的とする「乗用エレベーター」です。事務所ビルやホテル、商業施設などで広く使われています。戸の開き方は、一斉に乗り降りする際に効率的な中央開きの戸が多く使われています。
 一方、「人荷共用エレベーター」は、人と荷物の輸送を目的とするものです。人が乗ることから、法規上の取り扱いでは乗用エレベーターと同様に高い安全規格が定められていますが、積載荷重については運搬する荷物に合わせて大きく設定することができます。戸の開き方は、搬入出の効率に配慮し、片開き戸が多く採用されています。
 荷物の輸送を目的とする「荷物用エレベーター」は、荷扱者やエレベーター運転者以外はかごに乗ることができず、乗客が利用するエレベーターは「人荷共用エレベーター」とする必要があります。床面積に対する積載荷重は、扱う荷物の種類によって設定されます。戸の開き方は片開き式に加えて上開き式の戸を採用することができます。
 他にも「寝台用エレベーター」「自動車運搬用エレベーター」などの種類があります。寝台用エレベーターはストレッチャーや移動ベッドの搬送に考慮し奥行き方向のスペースは広く取られてます。また、寝台は面積の割に重量が軽いことから、積載荷重も緩和されています。このため、寝台用エレベーターを設置できる施設は、病院や福祉・介護施設などと建築基準法施行令で定められています。

非常用エレベーターについて

 普段利用しているエレベーターのなかに「非常用エレベーター」と記されたものがあることがあります。これは、建築基準法で高さ31mを超える建築物に原則設置が義務付けられている「非常用昇降機」です。
 非常用エレベーターは、万が一の災害時に消防士が消火や救出活動を行うためのエレベーター。見た目は普通の乗用エレベーターと大きく異なるわけではありませんが、昇降路は耐火構造の壁に囲まれ、非常用電源も設けられています。鍵を使って消防運転に切り替えることで、戸が完全に閉まりきらなくても運転することができるようになります。かご室内の大きさや定員、定格速度、エレベーターホールの大きさなどについても建築基準法による規定があります。天井の救出口も設置が義務付けられています。

非常用エレベーターには天井救出口が設けられている

種別によって適用される法律も検査機関も異なる

工場などのエレベーターで積載荷重1トン以上のものは「特定機械等」に分類される

 エレベーターは建築基準法の規制対象となっていて、国土交通省管轄の一般財団法人日本建築設備・昇降機センターが実施する昇降機等検査員講習を修了した昇降機等検査員による年1回の定期検査を行う必要があります。
 その一方、労働安全衛生法は工場などの事業所に設置されているボイラーやクレーンなど、特に危険な作業を必要とする機械等を「特定機械等」と定めています。特定機械等は、安全確保のため製造から設置、使用段階における各種検査等について細かな規制がされているのですが、これには、積載荷重が1トン以上のエレベーターが含まれます。このため、工場など、特定の人しか乗らないエレベーターについては、建築基準法とともに労働安全衛生法の適用対象となります。
 特定機械等は労働基準監督署長または厚生労働大臣の登録を受けた登録性能検査機関である、一般社団法人日本クレーン協会や公益社団法人ボイラ・クレーン安全協会などによる年1回の検査を受けなければなりませんが、こちらは「定期検査」ではなく「性能検査」と呼ばれます。性能検査を受けることで建築基準法による定期検査は免除となるため、工場や倉庫などのエレベーターは事実上検査機関の管轄が異なることになります。このため、検査済証も国土交通省管轄のエレベーターと、厚生労働省管轄のエレベーターでは異なるものが掲示されています。
 一般の方の目に触れることは少ない日本クレーン協会の検査済みステッカーですが、工場のエレベーターに乗る機会があった際には、ぜひチェックしてみてください。

昇降機等定期検査報告済証マーク
出所:一般財団法人日本建築設備・昇降機センター
検査済みステッカー
出所:一般社団法人日本クレーン協会

建築基準法に基づく検査と労働安全衛生法に基づく検査では検査済証が異なる

建物の用途変更では注意が必要な場合も

 通常、管轄する検査機関について注意する必要はないのですが、建物の用途変更を行う場合にはチェックが必要となる場合があります。それまで工場や倉庫だった建物を商業施設や事務所に変える場合、設置されているエレベーターが労働安全衛生法から建築基準法の検査対象に変わるかどうか確かめる必要があります。もちろん逆も同じで、事務所から倉庫、商業施設から工場といった変更でも注意が必要です。
 用途変更では、先に挙げた寝台用エレベーターもチェックすべきポイントになります。それまで病院だった建物を商業施設やオフィスに変更したり、介護施設を高齢者向けマンションに変更したりするような場合では、寝台用エレベーターの設置基準を満たさなくなる可能性があるため、寝台用エレベーターを乗用や人荷共用に変更するよう求められることがあります。
 今回は、エレベーターを取り巻く複雑な法体系について前後編に分けて紹介しましたが、さまざまな規定によって安全性が確保されていることがおわかりいただけたと思います。エレベーターの設置や改修、建物の用途変更などで不明な点があればぜひ東芝エレベータにご相談ください。

次回は「こんなにバリエーションが!さまざまな利用場面に対応するエレベーター」です。
乞うご期待!