今や日々の生活に欠かせないエレベーター。しかし、エレベーターを安全に設置し、トラブルが起きないよう適切に維持するためには、定められた規定に基づいて製造・設置し、定められた検査を定期的に行うことが必要です。
　こうした規定ですが、「国会が制定する法律」「内閣や各省庁が定める政令・省令」「地方議会が制定する条例」「地方自治体が定める規則」「各種業界団体が作成する基準等」がピラミッド状に構成されています。まず、国会が大枠となる法律を制定し、その定めに従って細かい数値などが政令・省令で定められます。さらに、法律を超えない範囲で各地方自治体特有の状況に合わせた条例・規則が定められることもあります。業界団体がこうした法体系を整理したうえで、基準書のような形でさらに厳しい規定を定めることもあります。

　エレベーターに関する法律のなかでまず挙げられるのが建築基準法です。国民の生命・健康・財産を守ることを目的として、建物の敷地、構造、設備、用途に関して最低限度の守らなければならない規定を定めた法律で、昇降機に関しては設計・製造・設置段階における構造方法等の基準と、その後の使用・維持管理段階における検査の基準が細かく規定されています。例えば定期検査報告では、昇降機を「かごを主索又は鎖で吊るエレベーター」「油圧エレベーター」「段差解消機」「いす式階段昇降機」「エスカレーター」「小荷物専用昇降機」に分類し、それぞれについて詳細な点検項目と判定基準が設けられ、検査結果を報告することが求められています。

　複数の分野から規制がかかる状況が起きているのは、エレベーターが建築と電気、機械の世界のはざまに位置していることが一因で、複雑な法体系を網羅しているエレベーター関連法規の専門家はとても数が少ないのが現状です。このため、一般財団法人日本建築設備・昇降機センターは一般社団法人日本エレベーター協会とともに「昇降機技術基準の解説」など、関連法規を整理・解説する基準書を発行しています。日本エレベーター協会は機関誌や会報で法規の改正等最新の情報を提供するとともに、会員向けに基礎教育講座を開催、法規の普及と徹底を図っています。さらに、昇降機の機能、定格、寸法などの協会標準（JEAS）を発行しています。
　一般財団法人日本建築センターや日本建築設備・昇降機センター、一般財団法人ベターリビングなどはエレベーターにおける各種基準の情報提供を行っています。
　住宅向けのエレベーターでは、ベターリビングが優良住宅部品（BL部品）評価基準を設け、品質、性能、アフターサービス等に優れた製品を認定し、普及を図っています。また、建築基準法等で規定された建築性能基準の推進を目的に活動する一般社団法人建築性能基準推進協会では、安全装置設置済みのエレベーターにマークを表示する制度を運用しています。
　エレベーターをとりまくさまざまな法律について、今回は安全を支えるための複雑な法体系と、法に則って適切にエレベーターを設置、運用する業界団体の活動を紹介しました。次回は法律におけるエレベーターの定義や分類、その検査規定などについてさらに深く見ていきたいと思います。