TRENDOOR トレンドの扉。今回のテーマは、ピックルボール

編集:有限会社バース

社会貢献活動の意義に迫った前編に続き、後編となる今回は“地域の居場所づくり”に取り組む「景丘の家」を訪ね、都会での子育て支援や多世代交流の現場を紹介します。さらに、身近なところで手軽に始められる社会貢献活動にも目を向けます。

景丘の家

https://kageoka.com/

東京のJR恵比寿駅東口から徒歩3分、かつて「景丘町」と呼ばれた場所に建つ。「子どもたちのために遺産を活用してほしい」という故・郡司ひさゑさんの遺志を継承し、2019年に「渋谷区こどもテーブル」事業を始め、あらゆる世代が交流できる施設として完成した。

景丘の家 館長

尾見紀佐子さん

Kisako Omi

profile●景丘の家の館長であり、株式会社マザーディクショナリー代表。公共施設の企画・運営を通して、人と人、人と地域をつなぐコミュニティづくりに取り組む。子どもや若者が多様な人や文化、価値観と出会い、自分らしく未来を歩んでいけるような居場所や機会を育んでいる。

● お話をお聞きしたのは

多世代が交流できる機会を提供したい

提供:景丘の家

──まるで屋根のある公園のようですね。

そうですね。子どもから大人まであらゆる世代が交流できる施設を目的に作られました。時間帯によって訪れる方の層が変わり、最近は子ども連れのお父さんも非常に多いです。地下2階から3階まであって、地下2階は音楽やダンスの練習などに使用できるスタジオ、地下1階は卓球台などがある遊び場的なスペースです。1階には日本の文化も感じられるよう囲炉裏や土間を設けました。核家族が増えて多世代での生活や交流の機会が減っている現代において、大人数で囲炉裏の火を囲もうというコンセプトです。2階は子ども食堂やワークショップを行うキッチンとダイニングフロア、そして3階は乳幼児と親御さんが過ごせる親子フロアとなっています。混雑時は区内の方優先とし、予約が必要な部屋もありますが、開館している時間帯であればどなたでも利用いただけます。詳しくは公式ホームページをご覧ください。

──どのような経緯でできたのでしょうか?

ここには以前、郡司ひさゑさんという方の邸宅があり、お亡くなりになる際に「子どもたちのために使ってほしい」と渋谷区に寄贈された場所でした。一方で、15年ほど前から全国で「子ども食堂」が注目され始め、渋谷区でも「渋谷区こどもテーブル」という取り組みを始めていました。これは、食を含め遊びや学びもできる大きな“テーブル”を地域の皆さんや子どもたちで囲もうという取り組みです。賛同する団体が増えてきたためこの場所を拠点として活用することになり、2016年にプロジェクトがスタートしました。そして2019年に郡司さんの意思を継いだ「景丘の家」が完成しました。施設全体の維持管理は渋谷区社会福祉協議会が、運営は社会福祉協議会から委託を受けた株式会社マザーディクショナリーが行っています。

小さなお子さん連れに人気の親子フロア。有名作家のアート作品なども飾られ、「小さい頃から、本物に触れる感覚も大事ですよね」と尾見館長。

今、「第3の居場所」が求められている

──学童施設としても機能しているのですか?

学童施設のようにお子さんのおあずかりはしていません。ただ、「こどもテーブル」の活動拠点ということで「子どもと食」は大事なテーマであり、子どもたちや親子のためのイベントなどいろいろと開催しています。近年は、10代の子どもたちが家庭や学校以外に社会との接点を持ち、安心して過ごせるための“第3の居場所”をつくる取り組みが、全国でも活発になってきています。

提供:景丘の家

──景丘の家で行っている子ども食堂について教えてください。

渋谷区で子ども食堂をしている数組の団体が週変わりで開催する形になっています。各団体が各々のプラットフォームで告知を行い、「渋谷区こどもテーブル」のサイトでもスケジュールを公開しているので、それらを見てお客様にお申し込みいただくという流れです。景丘の家主催でも月に一度開催しており、親子で2階のキッチンで各地の郷土料理などを作り、1階に移動して、火を入れた囲炉裏を囲んでみんなで食べます。
景丘の家で私たちが開催している子ども食堂では、食を通した人とのつながりや、子どもたち自身が料理をする体験を大切にしています。家族みんなで食卓を囲んだり、親子で一緒にキッチンに立ったりする機会が少なくなっているなかで、地域のみんなで作って、一緒に食べる時間を楽しんでもらえたらと思っています。子どもたちは料理を科学の実験のように楽しんでいて、「もっと切りたい」「もっと混ぜたい」「もっと焼きたい」と夢中になります。胡麻をすったり、鰹節を削ったり、少し手間のかかることも、みんなでやると楽しい体験になります。料理を作ること、そして誰かと一緒に食べること。その両方を大切にしています。

キッチンで作った食事を、囲炉裏の周りに運んでみんなで食べる。なぜか会話も弾んで笑顔になる。 提供:景丘の家

──さまざまな形の子ども食堂があるんですね。

近年は子ども食堂といっても、その役割やあり方はさまざまです。食の支援を必要としている方に届ける活動もあれば、地域の中で子どもや大人が一緒に食卓を囲み、人と人がつながることを大切にしている活動もあります。一方で、支援を必要としている方に確実に届けるためには、子ども食堂だけではなく、食料支援が必要な人に無償で食品を配るフードパントリーなど、さまざまな形の取り組みも必要です。景丘の家でもフードパントリーを行っています。食べ物をお渡しするだけではなく、そこから人との関係が生まれ、必要なときには適切な支援につながっていく。そうした地域のつながりも大切だと思っています。

無理なく取り組めることから社会とつながろう

──社会の一員として、個人ができることはあるのでしょうか?

例えばフードバンク、フードパントリーでしたら、どの自治体の社会福祉協議会でも行っていますので、そちらに寄付をするのも一つです。何かやってみようと意識が変わると、何かしら目にとまるようになるもので、それをご縁だと思って、無理のない範囲で始めてみるといいのではないでしょうか。
東京・渋谷のような都市では、一見すると人も情報もたくさんある一方で、地域の中で人と人が自然につながる機会は、意外と少なくなっているように感じます。人は一人では生きてはいけません。地域や社会とつながることがさまざまな場面で必要になると思いますし、子育ても、家庭だけで抱えるのではなく、地域や社会の中にいろいろな人とのつながりがあって、子どもたちを緩やかに見守っていけたら、親にとっても子どもにとっても、少し生きやすくなるのではないでしょうか。景丘の家も、何か特別な目的がなくてもふらっと立ち寄れて、そこに行けば誰かと緩やかにつながることができる。そんな風に、地域の“第3の居場所”の一つでありたいと思っています。

季節によってさまざまなプログラムが用意されている「景丘の家」。子どもだけでなく大人にとっても、ちょっと一息つきたくなる憩いの場だ。

渋谷区こどもテーブル

https://shibuyaku-kodomo-table.jp/

東京・渋谷区内で子どもたちに「食事・学習・居場所」を提供する地域活動の総称で、子ども食堂やワークショップ、交流イベントなどを通じて、地域で子どもを育てる取り組み。渋谷区社会福祉協議会が支援し、区内で多数の団体が活動している。