編集:有限会社バース
デジタル化が進み、必需品としての需要は減少しているといわれる文房具ですが、新たな可能性も広がっているようです。そこで今回は、幅広い文房具の世界の中から、暮らしに彩りを与えてくれる楽しみ方について、“文具のデパート”的存在である伊東屋さんで探ってみることにしました。また、需要が減る中にあっても売れ行きが好調といわれる高級筆記具について、大人気の文具系YouTuber“しーさー文房具”さんにお話を伺いました。
東京・銀座に本店を置く伊東屋は、1904年創業の文房具専門店。震災や戦災を乗り越え現在の地に店舗を構えてからは、自社での商品開発や事業の多角化などを行い、絶え間なく人が訪れる、言わずと知れた人気店だ。
大通り沿いには大きな回転扉が設けられ、開店する様子を撮影しようと、連日多くの方が開店前から待ち構えているという。2015年にリニューアルオープンした店内で、まず目に付くのがジューススタンドのコーナーだ。スライスされたレモンが入ったレモネードは、店一番の人気商品。ここで購入したジュースは飲みながら店内を巡ることができる。来店者層は実に多様で、取材時に店内を見渡すと、男女ともに年齢層が幅広く、外国の方も多かった。
階ごとにテーマがありバラエティ豊かだ。グリーティングカードや高級筆記具、手帳、オフィス文具などの実用品、暮らしを彩るアイテム、画材やクラフト用品など、「文房具」と総称される商品の幅広さに驚かされる。目当ての商品を購入するために来店する方はいうまでもなく、目的がなくてもここに来て、いろいろな商品を見て、手に取って店内を巡るだけでも楽しめそうだ。「これはどう使うのだろう?」、「こういう風に使ったら楽しそう!」など新しい発見があったり、アイデアが湧いたりして、ワクワクする。
グリーティングカードなどが並ぶ2階の奥には郵便ポストが。ポストカードや便箋を購入すれば、貸し出し用の筆記用具を使用し、その場で手紙を書いて投函できる。
好きなフィギュアに好きなクラフト紙を貼り付けて作るフランスのクラフト工作。紙や糊を使ってご自身ならではの小物作りを楽しむワークショップも開催。
書き心地の良さに驚く、“文具王”高畑さんもおすすめのガラスペン。「色とりどりのインクを集めるのも楽しい」と、特に女性に人気らしい。
お話を伺った株式会社伊東屋 企画開発本部 マーケティング部 広報室の市原美子さん曰く、「買う場所から過ごす場所へ」というコンセプトで、大人でも楽しめる仕掛けが随所に施されているのだそうだ。「買い物をされなくても、見に来られるだけでも大歓迎です。ご来店いただいたお客様に、また行こうと思ってもらえるような空間にしたいと思っています」と話す。館内には同社オリジナルBGMが心地よく流れる。爽やかな風味のレモネード片手に、新たな可能性を感じる文房具と出合い、小腹が空いたら最上階のカフェレストランで一休み。実用的な必需品としてだけではない文房具の新しい楽しみ方や、暮らしを豊かにするヒントが見つかるかもしれない。
最上階にあるカフェレストラン(右)。提供される食材の一部は階下のフロアで水耕栽培されていて、その様子も見ることができる。
店内で不定期に開催されるワークショップでは、アクリル絵の具を使ってゴッホの作品を描いてみる体験会が開催されていた。講師をされている相馬さんに、初心者が絵画に挑戦する際のアドバイスを伺った。
宇宙空間に浮かぶ星くずをイメージしたという相馬さんのアクリル画。「絵具の原料はもともと宝石などの鉱物で、昔は青色にラピスラズリなどが使われていたんです」と相馬さん。自然界の色彩の豊かさを感じさせられる。
絵画には大きく分けて、油絵(油彩画)、水彩画、アクリル画があって、皆さん一番描きたがるのは油絵ですね。最近では水彩画も人気ですが、油絵が上から重ねて消せるのに対して、水彩画は直しがきかないので直す技術も必要です。今回はその中間のようなアクリル画で、ゴッホの代表作「夜のカフェテラス」の模写に挑戦してもらいました。初心者の方で絵画をやってみたいと思われたら、地域の教室や今回のようなイベントに参加してみるのもおすすめです。教え方もさまざまあると思いますが、私の場合は色の三原色からどういう風に色ができていくかとか、デッサンの
際の鉛筆の削り方などから教えています。ある程度そういう基礎を学んでおけば、疑問が生じたときに解決しやすいですし、応用もきくと思います。
絵を描くときに、「なぜうまくいかないのかな?」、「何でこの色が出ないのかな?」といった疑問を持って考えることはとても大事なことなんです。ゴッホにしても、名作「夜のカフェテラス」などの作品に行き着くまで10年間で2,000枚ほど描いていて、それらを分析すると、さまざまな思考の痕跡がうかがえます。最初から正解があるわけじゃないんです。デジタル時代にあっても、実物の絵具を混ぜながら、思い通りの色をご自身で作り出していく工程は結構面白いと思いますよ。
伊東屋 銀座 本店
東京都中央区銀座2-7-15
店内に展示されている創業当時の店舗レプリカ(右)。看板には「和漢洋文房具」、「STATIONERY」と掲げられている。精巧に再現された商品の品揃えを見ると、当時から仕事と勉学を支えてきた様子がうかがえる。

