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よくわかるエレベーターと建物のこと

SDGsと全国における
まちづくりの取り組み(第1回)

持続可能な発展を目指す全世界的な取り組み、SDGs(Sustainable Development Goals)が昨今、話題になっています。
そしてその中には、 「持続可能な都市」、「エネルギー」、「インフラ・産業・イノベーション」といった、都市や建築に深く関わる目標も含まれており、国内ではSDGsに後押しされた「まちづくり」が、全国的に進められています。
SDGsを取り込んだ「まちづくり」にはどのようなものがあるのかを5つのカテゴリーに分類し、建築家・稲垣拓さんの視点で、いくつかの事例を通して大きなトレンドを2回シリーズで概観していきます。

稲垣 拓 ( いながき たく )さん
itaru/taku/COL. 共同代表
https://www.itarutakucol.com/

1987年千葉県生まれ。2010年東京大学工学部建築学科卒業。2011年リスボン工科大学留学。2013年東京大学大学院修了。2013〜17年山下設計に勤務。2017年itaru/taku/COL.を設立。

日本におけるSDGsの取り組み

 2015年、国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」において、2030年までに世界規模で達成すべき目標としてSDGsは宣言されました。
 その内容は、17の目標と各目標に紐づけられた169のターゲットで構成され、社会・環境・技術の広い分野での課題解決を掲げています。

持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標
出典:内閣府地方創生推進室「地方創生に向けたSDGsの推進について」2021年7月(地方創生SDGsサイト

 まちづくりや都市再生を進めていく上でSDGsの理念を取り入れていくと、まちづくりや都市再生に新たな展開を期待できるため、日本においては「地方創生SDGs」が推進されています。そして、2021年7月までに、120もの「SDGs未来都市」および「自治体SDGsモデル事業」が選定されています。まちづくりの取り組み+SDGsを進めるためには、都市空間やコミュニティづくりといった従来のまちづくりの視点に加えて、産業・エネルギー・福祉といった幅広い課題を同じ俎上で議論していく必要があり、それを進められれば、これまでよりも、まちの大きな未来像を構築できるようになります。
 日本のまちづくりは、組織が縦割りになっていることによって横の連携が阻まれ、経済面、あるいは医療・福祉面など、特定の分野に絞った取り組みに終わることが往々にしてありました。しかし、SDGsの理念を取り込んでまちづくりを進めていくと、縦割りの壁を乗り越えられる可能性があり、これは大きなチャンスといえます。住民、企業、自治体が共有できる「まちのアイデンティティ」を築き、住民の中にシビックプライドを醸成することが、2030年以後もまちを元気に保ち続ける上での大きなポイントです。
 だからといって、SDGsという大義名分のもとで、まちづくりの軸となるコンセプトや一貫性に欠ける施策を闇雲に行うことは有効とはいえません。住民・企業・自治体が常に方向性を確認しながら施策を進めていくことが大事になってくるでしょう。

2018〜2021年度SDGs未来都市等選定都市
出典:内閣府地方創生推進室「地方創生に向けたSDGsの推進について」2021年7月(地方創生SDGsサイト

SDGs未来都市の様々な取り組み

 SDGs未来都市の取り組みは多岐にわたり、複数のSDGsの設定目標を横断する取り組みが多くみられます。ここではわかりやすく建築やまちづくりに関連づけて5つのカテゴリーに分類してみましょう。

 今回は①「新テクノロジーとスマートシティ」と②「地球環境とエコロジー」について詳しく見ていきたいと思います。

「新テクノロジーとスマートシティ」

 このカテゴリーに含まれる事例は、AIやIoT、Society 5.0など高度なテクノロジーが発達する中で、これらの技術を都市空間や交通インフラなど様々な局面に活かそうと試みるものです。それぞれの地域で直面している課題の解決に新テクノロジーを積極的に活かそうとする取り組みは全国で増えており、まちを活性化・再生するアプローチとして有効な方法のひとつと考えられています。

「新テクノロジーとスマートシティ」に含まれる主な事例
出典:内閣府地方創生推進室「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業 事例集」2021年6月(地方創生SDGsサイト)をもとに作成

 例えば、2018年度に「自治体SDGsモデル事業」に選定された富山県富山市は、もともとLRT※1導入などを通したコンパクトシティ政策で知られていました。近年はさらに、IoT技術を利用して歩く行動や公共交通の利用に応じてポイントが貯まる「とほ活」アプリを活用した市民の歩くライフスタイル推進や、AIとICTを活用したスマート農業にも力を入れるなど、テクノロジーを通して様々なレベルでSDGsに取り組んでいます。今後、この多岐にわたる取り組みが富山市としてのまちづくりの全体像をどのように形成し、どういった都市ブランディングへとつなげていけるかが、キーポイントになりそうです。

※1 LRT:Light Rail Transitの略。次世代型路面電車システムを指し、近年道路交通を補完する、人と環境に優しい公共交通として再評価されています。


富山駅─岩瀬浜をつなぐLRT「ポートラム」
画像提供:富山市

富山市内の中心市街地を周回するLRTの一つ「セントラム」
画像提供:富山市

「地球環境とエコロジー」

 「持続可能な開発」を実現する上で欠かせないのが地球環境の保全やサステイナビリティといったテーマです。次世代が住み続けられる環境を維持し続けることは長らく議論されてきましたが、「地球環境とエコロジー」には、地方創生やローカリティといった新しいキーワードとセットで様々な施策に取り組む事例が含まれます。

「地球環境とエコロジー」に含まれる主な事例
出典:内閣府地方創生推進室「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業 事例集」2021年6月(地方創生SDGsサイト)をもとに作成

 2018年度に「SDGs未来都市」に選定された徳島県上勝町は「ゼロ・ウェイスト」で世界的に注目を集めている町です。「SDGs未来都市」選定以前からリサイクル政策でリードしてきた上勝町ですが、選定されてからは2020年に環境型複合施設「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)」と併設の「HOTEL WHY」がオープンするなど、「ゼロ・ウェイスト」のブランド化を進めています。もともとはゴミの野焼き処理を適法化するという状況から出発していますが、まちづくりの主軸として取り組むことで、まちぐるみのエコや観光産業創出などにうまくつなげた好例といえます。ここから「ゼロ・ウェイスト」を軸にどうまちづくりを展開していくのか、楽しみです。


2020年4月にオープンしたゼロ・ウェイストの拠点「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)」。町民が自らゴミを持ち込み、13種類45分別を行うゴミステーションだけでなく、サテライトオフィスや、イベントなど多目的に活用できるホールなども備えている
画像提供:上勝町

WHY内にある「くるくるショップ」。町民が再利用可能なものをここに持ち込むと、それを使いたい人は自由に持ち帰ることができる(町外の人は持ち帰りのみ可)
画像提供:上勝町

ゼロ・ウェイスト活動を体験できる宿泊棟「HOTEL WHY」。滞在中に必要な石鹸と飲み物はチェックイン時に量り分けして提供されるのに対して、使い捨てのアメニティは提供されないなど、日々の暮らしをゴミから見つめ直せるようになっている
画像提供:Transit General Office Inc. SATOSHI MATSUO

社会全体で参画することが大事

 これまで見てきたように、「まちのアイデンティティ」を築き、住民の中にシビックプライドを醸成するには、自治体のみならず、企業や個人を含む社会全体がSDGsに参画することが大事です。東芝エレベータもSDGsの達成に貢献する事業活動を行っています。例えば、システムの効率化と回生電力機能(有償付加仕様)で旧機種より消費電力を最大50%削減し、鉛の使用量削減やLED照明の採用による水銀フリー化など有害物質を削減した環境性能の高い標準形エレベーター(SPACEL)の提供。ほかにも梱包材料のリサイクルなどを通した省資源化など、昇降機専業メーカーとしての取り組みは多岐にわたります。このような事業活動における工夫や取り組みの積み重ねを通して、次世代へとつなぐ「持続可能な開発目標」の達成が浮かび上がってくるのではないでしょうか。

 もうひとつのポイントは、住民・企業・自治体が、まちづくりの軸となる一貫性のあるコンセプトを共有しながら施策を進めていくことでした。例えば、コミュニティデザイナーの山崎亮さんは、積極的にまちに関わる主体を生み出す重要性にいち早く着目し、住民参加型のワークショップで思いを共有しながらまちづくりプランを策定していくプロジェクトに数多く取り組んでいます。将来どんなまちにしたいかを考える主役は、あくまでまちの住民・企業・自治体です。思いの共有こそ、自分たちにとっての「理想のまち」を実現する一番の近道だと思います。
 次回は、③「地域産業の活性化」、④「既存ストック・インフラの活用」、⑤「少子高齢化時代の健康福祉」について詳しく見ていきます。ポイントは、それぞれの地域に根差した資源を活かしながら安定した経済基盤を確立し、世代を問わず住みやすいまちにすることです。どんなアプローチを試みる事例が出てくるか、楽しみにしていてください!

次回は「SDGsと全国におけるまちづくりの取り組み(第2回)」です。
乞うご期待!