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よくわかるエレベーターと建物のこと

SDGsと全国における
まちづくりの取り組み(第2回)

2回シリーズでお届けする「SDGsと全国におけるまちづくりの取り組み」。
2回目となる今回も、全国の「SDGs未来都市」や「自治体SDGsモデル事業」の紹介を通して、SDGsによるまちづくり活動の現在とこれからの展望を見ていきます。

稲垣 拓 ( いながき たく )さん
itaru/taku/COL. 共同代表
https://www.itarutakucol.com/

1987年千葉県生まれ。2010年東京大学工学部建築学科卒業。2011年リスボン工科大学留学。2013年東京大学大学院修了。2013〜17年山下設計に勤務。2017年itaru/taku/COL.を設立。

SDGs未来都市の様々な取り組み

 今回は、前編で設定した5つのテーマ設定のうちの残り3項目である「地域産業の活性化」「既存ストック・インフラの活用」「少子高齢化時代の健康福祉」を見ていきます。前編で紹介した5つのデータ設定については、以下の表にある項目です。

 今回は③「地域産業の活性化」と④「既存ストック・インフラの活用」そして⑤「少子高齢化時代の健康福祉」について詳しく見ていきたいと思います。

地域産業の活性化

 地域産業の育成と活性化は、地方創生のカギとなるポイントです。地域に根付いた産業は雇用を生むだけでなく、地域のアイデンティティを育みます。また、新規事業は地域内外から人、技術、資本が集まることで活気をもたらします。見過ごされがちな地域のポテンシャルや強みをうまく活用しながら産業育成をどう進めるか、が大事になってくるでしょう。

「地域産業の活性化」に含まれる主な事例
出典:内閣府地方創生推進室「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業 事例集」2021年6月(地方創生SDGsサイト)をもとに作成

 岩手県岩手郡にある岩手町は、奥州街道の宿場町として栄えた歴史や石上の丘美術館に見られる彫刻アートの聖地といった顔をもつ町です。2020年にSDGs未来都市に選定された岩手町では、「岩手町リビングラボ(いわて町ラボ)」という枠組みで農業や森林資源などを活かす様々なプロジェクトが始動しています。
 例えば、岩手町は森林資源に恵まれながらも産業の担い手の減少に悩まされていましたが、それを解消すべく、若い担い手の育成や木材を通したものづくり・まちづくりに取り組んでいます。私もその「森林ラボ」にコーディネーターとして参加しており、地産材を使ったストリートファニチャーを地元の方や大学生などと一緒に考えるワークショップを実施中です。この活動を通して森林資源からものづくり、ものづくりからまちづくりへとつなげることを目指しています。課題把握から仕組みづくりに至るまでのプロセスをしっかりと議論し、産業の様々な側面や可能性を岩手町の方々と模索していきたいと考えています。

2020年度いわて町ラボの様子。岩手町役場職員の方が中心となって、グループの進行係(ファシリテーター)を務めた。
画像提供:いわて町ラボ

既存ストック・インフラの活用

 「持続可能な開発」を実現する上で欠かせないのが、既存ストックの活用です。リノベーションや古民家再生、街並み保存はまちづくりの手法としてだいぶ根付いてきましたが、多くは店舗や住宅です。コミュニティのハブとなる施設や公共性の高いプログラムを行政頼みではなく地域ぐるみでどのように再生・運用していくか、が今後重要になってくるでしょう。

「既存ストック・インフラの活用」に含まれる主な事例
出典:内閣府地方創生推進室「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業 事例集」2021年6月(地方創生SDGsサイト)をもとに作成

 神奈川県鎌倉市といえば、古都、寺社仏閣のある古い町並み、観光地や別荘地をみなさんは思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、それだけではありません。2018年にSDGs未来都市に選定された鎌倉市は、市に寄贈された歴史的建築物である旧村上邸を拠点に「鎌倉みらいラボ」を展開し、市民活動や文化活動、集会や研修の場として運用しています。そして、大事なのがこの旧村上邸―鎌倉みらいラボ―の運営主体が、行政ではなく公募型コンペによって選定された地元企業である株式会社エンジョイワークスだということです。
 SDGsは自治体だけではなく企業や個人を含めた社会全体で目標達成を目指すことが不可欠です。公共性の高いプログラムであっても行政主導ではなく、積極的に民間企業に機会を与えることで今後のストック活用に活かせるノウハウやネットワーク、コミュニティ、そして仕組みづくりが育まれるのではないかと思います。

旧村上邸は明治末期に建てられた伝統的な様式の和風木造住宅。
能舞台や大きな庭、広い畳の間をもつ。
画像提供:東涌写真事務所

少子高齢化時代の健康福祉

 少子高齢化が進む地方都市において、地域住民の健康福祉は大きな社会問題です。公共交通空白地やコミュニティ喪失による孤立高齢者、育児子育てのサポート不足に悩む子育て世代など、枚挙に暇がありません。こういった問題に正面から向き合った事例を見ていきましょう。

「少子高齢化時代の健康福祉」に含まれる主な事例
出典:内閣府地方創生推進室「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業 事例集」2021年6月(地方創生SDGsサイト)をもとに作成

 新潟県見附市はウォーカブルなまちづくりの深化を掲げ、2019年のSDGs未来都市に選ばれています。ウォーカブルなコンパクトシティの取り組みは他にも事例はありますが、見附市が特徴的なのはSDGs以前から長年「スマートウエルネスみつけ」という健康促進施策を実施しており、その延長でウォーカブルなまちづくり像を提示していることです。コストもかからず手軽にできるプログラムを通して、例えば歩く歩数と病気予防・健康改善の相関といった目に見える効果があり、その成果を使って今後より多くの地域住民に参加を促していくようです。
 SDGs未来都市に選定された今、次なるステップである都市空間にどう落とし込んでいくか、今後の展開が楽しみです。

「スマートウエルネスみつけ」では、住んでいるだけで健幸になれるまちづくりを目指す。
画像提供:見附市

長いスパンをかけて取り組むタウン・アーキテクトとSDGs

 2回に渡り5つのテーマに沿って全国のまちづくりを見てきましたが、いかがでしたでしょうか?
SDGsに限らずまちづくりは長い時間と地域住民の理解や参加があることで初めて現実のものとなります。享受するだけでなく自らが参加する意識としての「シビックプライド」が育たなければ、トップダウンの施策は決してうまくいかないように思えます。
 SDGsはすでに地域ぐるみでまちづくりに取り組んでいる地域には大きな後押しであり、これからそういった取り組みをはじめていく地域にはスタートを切るチャンスとなります。
 そして、建築家には長い目で地域と付き合っていく、いわばタウン・アーキテクトとしての役割がより一層求められるようになるでしょう。
 私自身も、SDGsが掲げる2030年そしてその先にあるまちの姿を思い描きながら、地域と向き合っていこうと思います。

次回は「名作映画・ドラマの隠れた『主役たち』(第1回)」です。
乞うご期待!