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よくわかるエレベーターと建物のこと

設備と連携するロボットの導入で
施設管理とサービスはどう変わる?

荷物運搬、清掃、警備、接客など、近年、施設向けの新しいロボットが次々と開発されています。オフィスビルや商業施設、ホテルなどでもロボットの導入は進みつつありますが、効果的に活用するには異なるメーカーのロボット同士の連携や、ロボットと設備との連携が重要になります。
多様なロボットが人間とともに働くようになった時、施設で何が起こるのか。ロボットサービスのソリューションを展開するQBIT Robotics CTOの広屋修一さんに話を伺いました。

広屋ひろや 修一しゅういち さん
株式会社QBIT Robotics 常務執行役員CTO
https://www.qbit-robotics.jp/

NECにてソフトウェアの研究開発に従事(途中Stanford大学客員研究員を経験)。NEC子会社や電通子会社等で約10年間代表取締役を務め、デジタルマーケティングに精通。自宅では8台のロボットと暮らす大のロボット好き。QBIT Robotics創業メンバー。おもてなしエンジン発明者。NEDO自動走行ロボットプロジェクト主任研究員。

ニーズが高まる施設向けロボット

──施設向けに導入が進んでいるのはどんなロボットですか?

広屋ニーズが高いのは、荷物運搬、清掃、警備、接客ロボットです。現在の企業にとっては、人手不足の解消や非対面・非接触による感染症対策が喫緊の課題となっています。そこで、これらの解決策としてロボットを活用する動きが広がってきているのだと思います。
 例えば、飲食店向けの配膳ロボットの場合、お客さんがサラダバーを注文する時、テーブルに座ったまま好きな具材をセレクトすると、サラダ盛り付けスタッフが皿に盛り付け、配膳ロボットがテーブルまで運んでくれるものが実用化されています。このロボットは、子どもには大人気ですし、大人にとっても、店員に気兼ねなく、好きな具材のみを何度でも注文できると大変好評です。

株式会社三笠会館が運営するレストラン「THE GALLEY SEAFOOD & GRILL」(東京・二子玉川)に導入された配膳ロボット。ロボットの上部に手をかざすだけで、ロボットは定位置に戻る仕掛けになっており、非対面・非接触でサラダを何度でも注文できる
図版提供:QBIT Robotics

──荷物運搬ロボットが注目されている理由は?

広屋ビルや大型施設の場合、配送員が館内配送することが多いですから、必然的に施設内の滞留時間が長くなり、駐車場をトラックで占有する時間も長くなります。また、テナントには配送や集荷時間をもっとピンポイントに指定したいというニーズもあるのですが、配送員だとなかなかうまく応えられません。それらを解決するために、ロボットの活用が注目されているのです。

ロボットによる館内配送集荷サービス

──ロボットを活用した館内配送集荷サービスの実証実験※1を実施された狙いは?

広屋異なるメーカーのロボット群が館内設備と連携しながら、宅配荷物の配送集荷サービスを行うお手本はこれまでありませんでした。そこで、そのためのワークフローを組み立てる必要がありました。
 今回の実証実験では、ロボットとエレベーターを連携させ、ロボットがエレベーターを呼んだり、行き先の階数を指定したり、ドアを開けたりする制御を行いました。また、ロボットとセキュリティ付き自動ドアとの連携も行い、セキュリティカードが必要なドアの前にロボットが来ると、ドアが自動で開くようにもしました。ロボットがすれ違えない通路で、ロボット同士が遭遇しないように制御することもポイントのひとつでした。

 
2021年6月2日~実証実験における館内配送集荷サービスの全体像(イメージ)
図版提供:QBIT Robotics
異なるメーカーの複数のロボットを用いた館内配送集荷サービスの運用フローイメージ
図版提供:QBIT Robotics

※1 館内配送集荷サービスの実証実験:複数メーカーの自動搬送ロボットとロボットアームを使って、館内配送集荷サービスを行う実証実験。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス技術開発事業」の補助を受け、東京・虎ノ門にある城山トラストタワーで、2021年6月2日から1カ月間実施された。

──ロボットはどのように制御されているのですか?

広屋弊社では、館内配送集荷や接客など、ロボットが行う様々なサービスを短期間で開発できる「QBITロボットサービス開発基盤」というプラットフォームを提供しています。これを使って、複数のロボットを群制御したり、個々のロボットの位置を管理したり、最適ロボットを配車したりすることを実現しました。

──ロボットとエレベーターの連携はどうでしたか?

広屋ロボットがエレベーターに対して能動的に働きかける点では非常にうまくいきました。ただ、想定していなかったハプニングがいくつか発生したことも事実です。
 例えば、ロボットと連携済みのエレベーターがたまたまメンテナンスされていると、ロボットはエレベーターの前でずっと待っていて、いつまで経っても戻ってきませんでした。この場合、あらかじめメンテナンス時間をロボットに教えておき、その時間帯を集配スケジュールから外すことで解決できます。
 また、ロボットは安全第一で、人を避けるようにつくられていますから、エレベーター乗り場で人と一緒になった時、人が「どうぞ」と譲ってくれても、ロボットがそれを理解せず、乗れなかったこともありました。“気弱なロボット”がエレベーターに乗れる頻度・時間のシミュレーションも今後は必要です。

2021年6月2日~実証実験にて、搬送ロボットが自動ドアと連携し自動で通過する様子
図版提供:QBIT Robotics

──ほかの設備との連携についてはいかがですか?

広屋人感センサーはロボットに反応してしまうため、夜間配送を行う場合は照明や人感センサーとのオン/オフ連携が必要になります。こうした設備とロボットの連携は標準化がホットなトピックスで、ロボットとエレベーターの通信連携規格※2に関しては、2021年6月に公開されました。今回の実証実験と同時期であったため採用できませんでしたが、冬に向かってこの規格に則ったシステムを開発しています。これができると、ロボットとエレベーターの連携はもっと進むと思います。

※2 ロボットとエレベーターの通信連携規格:主要エレベーターメーカーや大手ゼネコン、大手ディベロッパー等がメンバーになっている「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」が策定した規格。今後は各種施設で活用されることで、規格の精度を高めていくとともに、国際標準化も目指していく。

ロボットを活用しやすい施設とは

──ロボットで実現できるサービスの未来は?

広屋シェアオフィスでプロジェクターなどの貸出備品を自動配送したり、お昼休みの弁当を配って回ったり、淹れたてのコーヒーを席まで届けたりすることは、今の技術ですぐに実用化できます。将来的には、伝票に館内届け先のバーコードが付いて、ピンポイントでデスクに届けられるようになると思います。

──建築家向けにロボットを活用するためのアドバイスをいただけますか?

広屋今回の実証実験ではWi-Fi等でロボットを制御していたのですが、駐車場や作業用通路等ではWi-Fiの電波が届かず、中継機を設置しようにも電源がどこにもないということがありました。施設を設計していただく際にはロボットがビルの裏動線でネットワークや電源を使いたくなることに留意していただけると助かります。
 もうひとつ、重要になるのは照明の問題です。画像マーカーで位置推定するロボットでは照度の高いライトがついていると、それが目くらましになってロボットが自分の位置を見失ってしまうことがあります。照明の問題は施設のエントランスでも起きていて、入館者の年齢や性別などを判断しようとしても、逆光だと、ロボットが顔を読み取れません。逆光方向でも顔がわかるような照明設置があると、ロボット活用が容易になります。

 ロボットが階段から転げ落ちたり、間違ってエスカレーターに乗ったりすることも防がないといけません。ロボットを制御する側が防止対策を施すことはもちろんですが、施設を設計する側もロボットが進入禁止エリアにアプローチできない構造にしていただけるとより安全です。
 ロボットは現在、ものすごい勢いで進化しています。ロボットが安全かつ自由に動き回れるような環境をつくっていただければ、施設の潜在能力が継続的に高まり、施設のブランディング向上にもつながっていくのではないでしょうか。

次回は「SDGsとまちづくりのこれから」です。
乞うご期待!