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よくわかるエレベーターと建物のこと

磯達雄・宮沢洋が送る
名作映画・ドラマの隠れた「主役たち」(第3回)

イラスト:宮沢 洋

逃げ遅れた人を救うもうひとりのヒーロー
「ザ・タワー 超高層ビル大火災」

108階建てのツインタワーで起こった惨事

 超高層ビルで起こる凶事を描いたパニック映画では、必ずといっていいほど、エレベーターのシーンが見せ場になる。そんな作品の一つとして、今回は韓国で作られた2012年の映画「ザ・タワー 超高層ビル大火災」を取り上げることにしよう。
 舞台となるのは、ソウルの汝矣島に立つ超高層ビル、その名もタワースカイだ。オフィス、商業、住宅などの機能を入れた複合用途ビルで、すぐ隣にはかつてアジアで一番高い建物だった63ビルが見えるが、108階建てのタワースカイはそれより格段に高く、ツインタワーのシルエットが存在感を放っている。その映像は非常にリアルで、実在しない建物であることが信じられないくらいだ。
 映画はクリスマス・イブの一日に、このビルで起こった出来事を描く。盛大なパーティーに集まった客を喜ばせる演出として、へリコプターから人工雪を降らせるのだが、その1台が上昇気流にあおられてビルに激突、炎上して火災が発生する。折あしく、寒波の影響で配管が凍結しており、スプリンクラーが作動しない。炎はあっという間に他の階へも広がっていく。逃げ遅れた人たちを、消防隊員は救うことができるのか、というストーリーである。
 エレベーターが出てくるのは、例えば火災が起こってすぐのこんなシーン。65階のレストランにいたメインキャストの一人が、子供を連れて逃げようとしてエレベーターに向かう。しかしそこには、人々が我先にと押し寄せている。「子供だけでも先に乗せて」と懇願するものの、無下に却下。扉が閉まってかごは降下を始めるが、エレベーターシャフトに火が回り、乗っていた人たちの方が先に犠牲となる。この手の映画でお約束と言っていい流れだが、災害の時にエレベーターで避難しようとしてはいけないと教える効果もありそうだ。

エレベーターの非常止め装置が作動

 エレベーターが一番の見せ場となるのは、終盤、主人公たちが延焼している下層階を抜けて地上へ降りようとする場面だ。階段は火の海となっていて使えず、隣の棟へつながる空中ブリッジも落ちてしまった。絶望的な状況でひらめいたのは、既に動かなくなっている荷物用エレベーターを使うという方法だった。
 かごを吊っているワイヤーロープを切断する。そのまま地面に激突すれば終わりだが、エレベーターにはなんらかの理由により想定以上の速さでかごが降下しているとき、自動的に制止させる安全装置が付いている。これはエレベーターシャフト内のガイドレールを両側から挟んで掴み、無理やり固定するというもの。この非常止め装置が作動することを信じ、かごを自由落下させて降りようといういうのだ。

 
イラスト:宮沢 洋

 乗っている人からは見えず、その存在も一般の人からは知られていない装置だが、この映画でははっきりと映っている。エレベーターのかごが落ちて登場人物が危機に陥る映画は多いが、安全装置の働きをきちんと描写した映画はめずらしい。火花を散らしながらかごを停止させる非常止め装置は、この映画のもうひとりのヒーローと言っていいのかもしれない。
 ほかにもこの映画では、外装メンテナンス用のゴンドラとか、専門家しか思いつかないような建築設備のあれこれが効果的に使われている。なかには、逃げ遅れた人を閉じ込めてしまう恐怖の防火シャッターなど、「いくらなんでもその設計はないだろ」というところもあるが、そのへんはフィクションなので大目に見ることとして、まずは建築的な見どころが多い映画として、この作品を薦めておこう。(文:磯 達雄)

DATA

映画「ザ・タワー 超高層ビル大火災」
原題:타워
監督:キム・ジフン
出演者:ソル・ギョング、ソン・イェジン、キム・サンギョン
公開:2012年

文:磯 達雄(いそ・たつお)

建築ジャーナリスト、Office Bunga共同主宰。1963年生まれ。1988年名古屋大学卒業。1988〜1999年日経アーキテクチュア編集部勤務後、2000年独立。2020年4月から宮沢洋とOffice Bungaを共同主宰。2001年〜桑沢デザイン研究所非常勤講師。2008年〜武蔵野美術大学非常勤講師。著書に『昭和モダン建築巡礼』、『ポストモダン建築巡礼』、『菊竹清訓巡礼』、『日本遺産巡礼』(いずれも宮沢洋との共著)など。

イラスト:宮沢 洋(みやざわ・ひろし)

画文家、編集者、BUNGA NET代表兼編集長。1967年東京生まれ。1990年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、日経BP社入社。日経アーキテクチュア編集部に配属。2016年〜19年まで日経アーキテクチュア編集長。2020年2月に独立。2020年4月から磯達雄とOffice Bungaを共同主宰。2021年5月、株式会社ブンガネット(BUNGA NET Inc.)を設立。著書に『隈研吾建築図鑑』など。

■東芝エレベータの災害対策

 安心・安全を最優先とする東芝エレベータでは、災害時の安全対策を複数ご用意しております。

 この映画のように建物で火災が発生した場合、エレベーターは、建物に設置された火災報知器と連動して火災時管制運転に切り替わります。火災時管制運転は、まず、乗客が押していた行先階ボタンはすべてキャンセルされます。そしてかご内の案内表示灯が点灯し、かごは避難階に自動で移動します。かごが避難階に到着するとドアが開いたまま休止し、乗客がかご内に閉じ込められる事態を未然に防ぎます。

 ほかにも、P波(初期微動)を感知した時点で最寄り階に移動し乗客へ避難をうながす地震時管制運転、停電が発生した場合に電源を専用バッテリーに切り替え最寄り階へ移動し乗客へ避難をうながす停電時自動着床装置など、エレベーターは、閉じ込めを未然に防ぐための機能を備えています。

 これらの機能については、ホームページでもご紹介しております。あわせてご覧ください。