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よくわかるエレベーターと建物のこと

「夢の座談会」がついに実現! 
建築業界誌の編集長3名による掟破りトーク!

vol.1 ~パンデミックは雑誌編集部をどう変えたのか~

同じ業界の専門誌といえば、ある意味ライバル関係。
ひとつの企画で顔を合わせるのはタブーではなかったのでしょうか!
しかし、私たちは今回躊躇することなく3誌の編集長にお声をかけ、座談会を実施しました。
議論のテーマは新型コロナによる誌面の変化、業界動向、アフターコロナの将来展望などなど……、3回シリーズでお届けします。
1回目のテーマは「雑誌編集の現場に新型コロナがどう影響したか」。
さて、どんな議論が交わされるのか、ライバル3誌“ガチ対決”の始まりです。

ひろゆきさん

『建築知識』編集長/
株式会社エクスナレッジ取締役副社長
https://xknowledge-books.jp/kenchi

明治大学文学部卒業。業界誌の編集者を経て、2002年(株)エクスナレッジ入社。2002年より月刊『建築知識』の編集部員で、現在編集長。

西にしかわ なおさん

『建築ジャーナル』 編集長/
企業組合建築ジャーナル監事
http://www.kj-web.or.jp/gekkan/index.html

南山大学文学部卒業。1981年企業組合建築ジャーナル入社後、各地勤務を経て2003年2月~2008年3月企業組合建築ジャーナル代表理事。現在編集長。

ぬま よしさん

『設備と管理』編集⻑
https://www.ohmsha.co.jp/setukan/

明治大学文学部卒業。2000年より(株)オーム社。2007年『設備と管理』配属。2020年12月1日に編集長就任。

雑誌の個性を生み出す編集方針

三輪『建築知識』の三輪です。『建築知識』は、1つのテーマを紙面の大半を使って紹介する特集主義の月刊誌です。おさまりや法規、建築現場といった専門家向けの特集にとどまらず、カフェの作り方など、専門家以外の方にも楽しんでいただける企画を打ち出しながら作っています。きっかけは、2017年1月号の特集「猫のためのDIY家づくり」(以下、猫の特集)が当たったことでした。その号以降は意図的に実務者以外の読者にも伝わるように紙面は全部マンガや写真にするなど、ビジュアルを作り込んでいます。


特集「猫のためのDIY家づくり」(『建築知識』2020年5月号)のページイメージ。猫が快適に暮らせる家をつくるにはどうしたらよいかが徹底的に掘り下げられている

西川『建築ジャーナル』の西川です。『建築ジャーナル』も特集主義といわれています。誌面は4部構成で、特集のほか、シリーズで書き手が変わるリレー連載なども掲載しています。特集では、水害問題や外国人居住、山谷・寿町なども取り上げるので、社会問題の研究者にも売れていますね。また、卒業設計や卒業論文の時期にも売れます。知的好奇心を満たす、建築を哲学するという方向性で、毎号新書を1冊作るつもりで編集しています。

沼部『設備と管理』の沼部です。2020年の12月に編集長になったばかりのホヤホヤで、今日はベテラン編集長さんの話を聞きたくて参加しました。
 『設備と管理』では、空調、電気、給排水、衛生、防災からネズミ防除まで幅広く扱っていて、ビル管理者さんのほか、ビルオーナーさん、電気主任技術者さんなどにもお読みいただいています。ビル管理は、設計者の意図をくみ取りきれなくてうまくいかないこともあるので、設計側の意見も入れながら編集しています。
 『建築知識』さんは、猫の特集など若い世代を取り込んでいるところがすごいなと思います。『建築ジャーナル』さんは、以前私が狭小住宅を建てようと思った時に谷中の記事を拝見しました。

編集者の想いが特集や記事として結実

三輪『建築ジャーナル』さんは社会派ですよね。うちは読者層を広げる方向で考えてしまうので、突っ込んだテーマはやりづらいんですが、『建築ジャーナル』さんの特集はいつも攻めた内容になっているので、すごいなと尊敬しています。

西川うちも『建築知識』さんを参考にさせていただいています。猫の特集は「やられたー」と思いました。表現方法も参考になります。うちも遅ればせながらマンガなどを使い始めています。
 ところで沼部さん、『設備と管理』には「特設」というのがありますが……。

沼部はい。『設備と管理』は守備範囲が広く「多くのテーマを扱いたい」のと、「メインの解説記事は作りたい」のジレンマから、特別な解説記事、略して「特設」というのをひねり出したんですね。

『設備と管理』の「特設」は、それぞれ単独でも記事としても読み応え十分。「特設」を何本か集めると、さらに魅力的な特集に!

三輪特集といえば、『建築ジャーナル』さんは建築から遠いところまで扱われますが、テーマはどうやって決めているんですか?

西川建築に近いものから日本の将来まで、気になるテーマを満遍なくやっていて、1年前くらいからそれぞれの問題に詳しい人をつかまえて作戦会議をしながら具体化していきます。自宅がある谷中の路地を広げる地区計画が通りそうになったので、その計画を撤回させるために、谷中の路地の魅力を特集で取り上げたこともあります。そういった身近な問題から、諫早湾干拓といった大きな話題までと幅広いですね。
 一度特集をやると、そこからつながりが生まれ、別のテーマが生まれてくることもあります。難民として日本に来た外国人と会ったことがきっかけで、「どういうところに暮らしている?」「日本の生活、どう思います?」とか……。島が面白そうだと思ったら、「島に設計事務所はあるのかな」というところから始めて、島特集を考えたりします。

『建築ジャーナル』2021年1月号の特集は、隈研吾氏の仕事、言葉、行動から日本の現代社会の内側を透視する「隈研吾と日本社会」。社会派らしい独自の切り口で、日本社会の様子を浮き彫りにしている

三輪自由ですね。

西川お手本は『都市住宅』です。

三輪植田実※1さん!

西川勝手にライバル誌だと思っているのは『世界』と『週刊金曜日』※2です。

三輪リアルな社会派ですね。

1968年から1986年にかけて鹿島出版会から出版されていた月刊誌『都市住宅』。杉浦康平氏と磯崎新氏による印象的な表紙デザインで知られ、建築業界に多大な影響を与えた

※1 植田実(うえだ まこと):1935年生まれの建築評論家。早稲田大学卒業後、『建築』編集部を経て、1967年、鹿島出版会に入社。創刊号から1975年12月号まで『都市住宅』の編集長を務めた。2003年度日本建築学会文化賞も受賞している。

※2 『世界』と『週刊金曜日』:『世界』は岩波書店が発行する月刊誌(編集長:熊谷伸一郎氏)、『週刊金曜日』は金曜日が発行する週刊誌(編集長:小林和子氏)。

新型コロナによる変化は一長一短

沼部ところで皆さん、コロナの影響で編集作業や打ち合わせなどの方法は変わりましたか? うちは、編集作業自体は在宅でできたのですが、取材のお相手とは、できればお会いしたかったので、東京、神奈川、千葉など、首都圏の取材でまとめていました。事前打ち合わせを電話やメールでしっかり行い、現場では、できるだけ滞在時間を短くする方針です。4月の緊急事態宣言下でも半分くらいは出社していましたので、大きく変わった感じはありませんでした。
 大きく変わったのは編集委員会です。2カ月に1回、ビルオーナーさん、サブコンさんとか、病院・ホテル・ビル管理会社の方に業界のトレンドをお伺いしたり、執筆者をご紹介いただいたりするのですが、こうした集まりが一切できなくなりました。

三輪緊急事態宣言の時に、編集者全員にペンタブ付きのノートパソコンを渡して、出社は週1にしました。プリントアウトしなくても校正ができるなら、在宅でも作業ができますよね。今もルールは同じですが、在席率は3〜4割くらいじゃないでしょうか。働き方は大きく変わりました。
 編集会議もZoomやMicrosoft Teamsで問題なくできます。ただ、編集者というのは隣の人とくだらない話をしている時に何か秘策を思いつくことがありますよね。そういう機会が少なくなってきています。
 逆に遠隔地の取材はやりやすくなりました。遠隔地にいる方との書籍会議は2カ月に1回でしたが、今だと週に何回でもできます。ただ、これまでは遠隔地に取材に行ったら、お目当ての方以外に4〜5人会っていたので取材数が減っています。また、完成した建物の見学会は、デザインの潮流を知る上でも自身の勉強のためにも重要な機会なのでが、オーナーさんがコロナのことを心配していて、非常に少なくなってきています。たとえ見学会ができたとしても会場が密にならないように「この時間に来てください」と言われちゃう。その辺は不自由ですね。

東京・谷中に多い、“昭和”の雰囲気が漂う路地。幅約270cmの路地は子どもの最高の遊び場に! 「こんな路地のあるまちに住めるのは最高の贅沢」と西川さんは語る

西川緊急事態宣言の時、私はまったく出社せずリモート勤務でした。本を作る時、印刷は印刷会社、レイアウトはデザイナーさんに外注します。考えてみると、デザイナーさんとは1年くらい会っていないので、これまでもリモートだったと気がつきました。シンポジウムや委員会活動も全部Zoomになったのですが、逆にいろんな会合に参加できて良かった面もあります。
 谷中は猫の多いところで、家で仕事していると、路地で若い子がキャッチボールしているとか、昼間の路地の良さがわかって良かったです。

在宅勤務の増加と「読ませる広告」の登場

西川皆さんのところでは広告の出稿に変化はありましたか?
 『建築ジャーナル』では、コロナになって、広告を出すことによって、企業の側に設計事務所さんとのつながりをより強めていきたいという傾向があるような気がしています。在宅勤務により家で本を読む時間が増えるなど、紙への要求が増えています。また、建材メーカーさんなどが設計事務所を訪問して営業することができなくなったので、「この際、広告を出そう」ということになったのではないかと思います。

沼部『設備と管理』でも「読ませる広告」を作りたいという要望が増えてきました。今まではパッと見てわかる、ビジュアルに訴える広告が多かったのですが、最近はしっかりと読ませる広告が増えてきました。
 例えば、ボイラーの管理で「こういう機械を導入すると、清缶剤が不要になるよ」といった記事を広告主さんが自ら書かれる「記事広告」といわれるようなものですね。西川さんがおっしゃるように、紙の本や雑誌を読む機会が増えたんだと思いますが、こういったタイプの広告出稿が増えましたね。

新型コロナは雑誌広告の世界にも大きな影響を与えている。読み物として楽しめる記事広告や情報として役立つ記事広告などが増加中

三輪『建築知識』では、抗菌素材や換気扇メーカーの広告のほか、全熱交換のような高機能の換気を行う製品など、シックハウスが問題になっていた時に出ていて、一度消えていたものがまた戻ってきたという感じはありますね。換気については沼部さんにいろいろ聞きたいこともあるので、次回は換気を含めてコロナ下での業界動向について語り合いたいと思います。

大局では同じベクトルに向かう3誌。しかし、編集方針の違い、雑誌作りの裏話など、雑誌からは見えてこない話も飛び出しました。
次回は各編集長が熱い視線を送る業界の動向に突入!
「換気」「設計・ビル管理の変化」「書籍売上から見た読者ニーズの変化」などなど、激論が繰り広げられます。
さて、激論の行方はいかに?!

次回は編集長座談会vol.2「新型コロナで建設業界はどう変わったか」です。
乞うご期待!