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よくわかるエレベーターと建物のこと

CNC木材加工機を基盤とした
「デジタル民家」で目指す「建築の民主化」

ウェブ上のアプリケーションで誰もが手軽に住宅を設計することが可能なVUILD株式会社のNESTING。木材加工機を持つ全国各地の製材所を活用することで、環境負荷を減らしながら地域に密着した住宅建設も可能になります。今回はこれらの事例から、VUILDの掲げる「建築の民主化」に迫ります。

山川やまかわ 知則とものり さん
VUILD株式会社
NESTINGディレクター

VUILD株式会社は、デジタルテクノロジーによって建築産業の変革を目指す2017年創業の設計集団。本社は神奈川県川崎市。建築設計のほか、木製品開発・製造および加工、デジタル家づくりプラットフォーム事業などを手がける。富山県南砺市の宿泊施設「まれびとの家」で2020年グッドデザイン金賞およびArchi-Neering Design AWARD 2021最優秀賞を受賞。秋吉浩気さんが代表取締役CEOを務める。
山川知則さんは、NESTING事業のディレクターの立場からデジタルファブリケーション×建築の領域で国産材の可能性を探る。
https://vuild.co.jp/

デジタルテクノロジーが「すべての人を『設計者』にする」

──最初に、VUILD株式会社についてお聞かせください。

山川VUILDは「建築の民主化」をキーワードに、デジタルテクノロジーで建築産業の変革を目指す設計集団です。「『生きる』と『つくる』がつながる社会」をヴィジョンに、「すべての人を『設計者』にする」ことをミッションとして掲げています。通常の建築事務所のように、施主からの依頼で一棟建てて応えるだけではなく、つくる人を増やす社会づくりをする会社です。

──具体的にはどのような事業を行われているのですか?

山川事業基盤のひとつに、ShopBotという加工機械の輸入販売があります。卓球台よりふたまわりくらい大きなサイズのもので、データを入稿すると木材を図面通りに削っていく機械です。すでに国内で100台以上の販売実績がありますが、VUILDは機械商社をやることが目的ではありません。全国の林産地近くの加工所でShopBotを運用してもらうことにより、生産基盤を作っていくイメージで展開しています。
 ShopBotで加工された部材の流通基盤がEMARFというサービスです。印刷業界には、DTPデータをネットで入稿するとチラシが届くサービスがありますが、これと同じように、デザイナーさんが内装デザインや家具、装飾などの設計データを入稿すると、全国各地のShopBotで切り出された木部材が手元に届くサービスです。


木材加工専用CNCルータのShopBot。2Dの切り出しだけではなく、3D加工も可能。
画像提供:VUILD株式会社

ShopBotを活用した木材加工サービスEMARF。データを入稿すると切り出された木部材が届く。家具やオブジェなど自分の作品やデータを全国販売することにも活用できる。
画像提供:VUILD株式会社

 こうした基盤をもとに、先端事例をつくっていくのがVUILD ARCHITECTSという設計チームです。当初は幾何学的なデザインを用いたパビリオンなどが多かったのですが、2020年頃から住宅や施設などの依頼が増えてきました。
 なかでも、富山県の南砺市利賀村にある「まれびとの家」が転機になりました。地域の木と地域のShopBotでつくった、地域に訪れる人のための家です。五箇山の近くなので、合掌造りの形にインスパイアされた、地域になじむデザインになっています。「まれびとの家」は、Airbnbで貸し出しも行っています。



富山県南砺市利賀村の「まれびとの家」。ShopBotと地元の木材で製作を地域完結させている。短期滞在型シェア別荘としての役割を担うことで、「都市」と「地方」を結ぶことも目的のひとつ。
https://architects.vuild.co.jp/works/house-for-marebito/
画像提供:VUILD株式会社

環境に配慮し、地域に根ざした家づくりを目指す「NESTING」

──新規事業のNESTINGは、こうした事業を元に立ち上げられたわけですね。

山川「まれびとの家」の経験をきっかけに、本格的に住宅事業に参入することになりました。2021年10月には北海道の弟子屈に住宅が一棟竣工したのですが、設計には専用のアプリケーションを使っています。アプリで作成した設計データを元に、ShopBotで小さい部材が切り出され、それらを集成したオリジナルの構造部材を組み立てていくという仕組みで、構想から約半年で完成しています。
 内装もふんだんに地域材を使うようにしています。断熱にもこだわっていて、暖房を18度に設定にするだけで部屋全体が温かくなります。デッキを豊かに使ってもらうために軒が長いのも特徴なのですが、昔の日本家屋のデザインにインスパイアされています。カウンターなどの家具もEMARFと連携して、空間にピッタリおさまる形で作ることができます。



北海道弟子屈の住宅。ShopBotで切り出した木部材をビス止めして作られた「ベッキーユ」と呼ばれる柱と梁を一体化した木材ユニットを組み合わせて躯体を組み上げていく。
画像提供:VUILD株式会社

 弟子屈の住宅で使用したアプリはベータ版で、2Dで作られた間取りを元に3Dモデルを立ち上げ、建具や仕上げを変えていくと見積もりが出るというものでした。今回のリニューアルではアプリケーションの機能をよりシンプルにすることで、より直感的に操作できるようになっています。プロダクトラインナップも、キャビンタイプのS、土間と離れを持つ平屋のM、2階建てで家族仕様のLと、3種類のテンプレートを用意しています。

──新規事業のNESTINGは、こうした事業を元に立ち上げられたわけですね。

山川注文住宅はどうしてもコミュニケーションコストがかかります。施主から出た要望について図面を持ち帰って修正するという作業の繰り返しになりますが、アプリを使って設計することで、見積もり金額も含めた修正結果がリアルタイムで反映されます。Zoomで繋げて打ち合わせをすることも容易で、施主の意見も取り入れやすくなります。アプリはウェブサイトに公開されていて誰でも自分で操作してみることができるので、そこから受注につながることも考えられます。


NESTINGの操作画面。
好みのスタイルを選択後、「金額を試算する」ボタンを押すことで見積金額が表示される。図はM Model。
画像提供:VUILD株式会社

鑑賞モードではモデルの中に入り込んで見回すことも可能。図はL Model。
画像提供:VUILD株式会社

──部材は地域の木材を使っているのですね。

山川多くの住宅メーカーは、プレカット工場で大量の資材を加工して、そこから部材を各地に分配していくのですが、VUILDは全国各地の製材所と組み、林産地近くにあるShopBotで分散加工する作り方にチャレンジしています。施工は地域の工務店とパートナーシップを組むのですが、スピーディーに作り込めるというメリットのほか、ウッドマイレージという木材運搬時に発生するCO2を低く抑えることもできます。

──デザインも含めてあくまでも地域に密着した建築を目指している。

山川変わった形のものが突然現れると風景を壊すことになります。パートナーとして、地域の方にお声がけいただくこともありますが、風景や自然になじむこだわった暮らし方や街づくりの思想を選ぶ方が増えてきている感覚があります。
 弟子屈の住宅でも、デジタルファブリケーションという技術を使いながら、日本の民家の思想を引き継いだヴァナキュラーな設計を行っています。もっとも、NESTINGを選んでいただくには、他との差別化も必要なので難しいところです。
 ユーザーさんにとって一番良いものを選ぶために、インタビューも多数実施しました。家を建てる際に大切にされているのはどこか。想定するペルソナで10人から20人くらいに話を聞かせてもらい、共通する部分を重視した設計を目指しています。
 Mタイプの住宅は、土間と離れとデッキによって、住環境に自然を取り込むデザインになっていますが、ヒアリングから得られた外部環境との関係性を重視した結果です。
 VUILDではデジタル民家と呼んでいるのですが、風景になじむ住宅のデザインデータを提供して、地域の木材を地域のデジタル加工機で全国自立分散的に製造できる状況づくりのためにいままでやってきました。
 こうした家づくりが当たり前になることを目指していきたいですね。

※ヴァナキュラー:英語表記はvernacularで、「その土地特有の」、「民芸風の」という意味。
 ヴァナキュラー建築とはその土地固有の文化や風土に密着した建築を指す。

次回は「エレベーターの不思議」です。
乞うご期待!