鴨川館 千葉県鴨川市
マンションはエレベーター以外にもさまざまな修繕を必要としているため、住人全員の合意を得ることは簡単ではない。真江マンション元塩は、自治会の会長が住人たちの意見を取りまとめてリニューアルを成し遂げた。
エレベーター
ホテル
ロープ式
乗用
制御
仕様
物件名 | 鴨川館 |
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住所 | 千葉県鴨川市西町1179 |
概要 | 南房総鴨川市の海を望む数寄屋造りの宿。人気の大浴場では、ジャクジー、滝風呂、寝湯、桶風呂、箱蒸し風呂、遠赤中温サウナなどさまざまな風呂を楽しみながら疲れが癒せる。 |
東日本大震災と節電の義務でリニューアルを決断
鴨川館の開業は1981年。エレベーターはロビー側のお客様用に2台、裏側の厨房に従業員用に2台と計4台が稼働してきました。いつしか段差や揺れなどの不調も増え、部品の一部が2010年12月には供給停止となる可能性もあり、新機種になると消費電力が3分の1程度になるという話も聞いて、リニューアルの必要性を感じていました。
そんな矢先に従業員用エレベーターで不具合が発生し、リニューアルを決断しました。しかし旅館を稼働させながらエレベーターを止める判断は難しく、工事日程を決めかねているうちに2011年3月11日の東日本大震災が起きました。幸い建物や設備は被害を受けませんでしたが、自粛ムードで客足は途絶えてしまいました。
そこでリニューアル工事のために休館を決断し、繁忙期の夏休み前までに工事を行うことにしました。震災の影響で節電要請が高まる中、新機種で大幅な節電が期待できたこともリニューアルを後押ししました。
■武田 将次郎氏
株式会社吉田屋 社長
■武田 和香子氏
株式会社吉田屋 取締役 武田 和香子氏
お客様とスタッフにやさしい設計で節電にも貢献
エレベーターのリニューアル工事は7月4日〜21日とスケジュール。夏はもっとも忙しい季節なので、できるだけ工期を短くしたいと希望していました。また工期中は原則として休館にしていたものの、金曜日から日曜日は宿泊客を受け入れるので、この間はエレベーターを動かす必要もあります。最初の週末は宿泊客用と従業員用を1台ずつ動かし、次の週末には残りの1台ずつを動かして順次リニューアルを進めました。週末はカラーコーンや養生シートもすべてきれいに撤去してもらいました。
エレベーターが明るくなり、安全性も高まったことでお客様には好評です。昔のエレベーターのようにガクンと止まることもなくなり、大きくなったボタンは高齢のお客様でも押しやすくなりました。地震時・停電時の管制運転機能で安全性も高まり、階数が表示されたり、ドアが閉まるときにアナウンスがあるのも便利です。スタッフ用エレベーターも待ち時間が短縮され、ドアに多光軸センサー機能を搭載したので、両手に荷物やお盆などを持って移動する時も挟まれたりすることがなくなりました。
そしてリニューアルの大きなメリットのひとつが節電効果。電気代は前年から1割以上も減っており、そのうち3分の1はエレベーターのおかげです。
■1階のりばとかご室操作盤
操作盤はユニバーサルデザイン対応で文字が見やすくなった。また、現在位置は液晶表示に変わり、上の帯板からなくなった。
■かご室とかご室天井
化粧シートはリニューアル前と同じ色味の木目調で揃えた。リニューアル前に置いていたいすもそのまま元の位置に。しかし、天井の照明はデザインが新しくなり、かご室がより明るい印象になっている。また、かご室に手すりを追加した。
ここがポイント
休館の決意で宿泊客と従業員の双方にメリット
オフィスビルやテナントビルでは入居者がいる状態でエレベーターのリニューアルを行うため時間がかかります。それに比べると、旅館やホテルは休館日を決めて一気に進められるので合理的です。今回は、東日本大震災の苦境を乗り切るために思い切って長期の休館を決断し、エレベーターのリニューアルを一気に進めることができました。
ドアの多光軸センサー機能は、ホテル・旅館のバックヤードで大きなメリットを発揮します。従業員の皆さんは両手がふさがった状態でエレベーターを使うので、センサー機能によって従業員の安全性を高めることができます。
メーカーの立場から
低コストで短納期の制御リニューアルを採用
エレベーターは機種によって製造中止となってから一定の年数が経つと、メンテナンス用の部品も一部供給停止となります。それが2012年前後に多いことから、エレベーターの「2012年問題」とも呼ばれていました。
経営陣の皆さんにも部品供給の問題はお知らせしていました。しかし予算もかかり、宿泊客がいる中でエレベーターを停止させる難しさから計画が難航。工事日程を決めかねているなかで東日本大震災が発生し、休館時期を利用してリニューアルを進めることになりました。
客足が徐々に戻ってきている中で、繁忙期の夏休みが始まる7月20日ごろまでには工事を完了してほしいというのが武田将次郎社長のご要望でした。なるべく費用をかけずに短期間で済ませるため、巻き上げ機と制御盤だけを交換する制御リニューアルを採用しました。
リニューアルが安全性向上とコスト削減を実現
今回のリニューアルの背景には、7月1日から実施された政府による電力使用制限令の影響もありました。大口需要家に一律15%(旅館業では10%)の節電が求められ、故意に違反すると100万円以下の罰金が課せられるというものです。武田将次郎社長には、リニューアルで消費電力が大幅に下がることをお伝えしていました。
工事期間中は、宿泊用やミーティング用の部屋をご提供いただき、専用の冷蔵庫やランドリーも自由に使わせてもらいました。作業員が宿泊できたことで作業時間の延長も可能になり、予定通り夏休み開始前に工事を完了することができました。
新しいエレベーターでは地震の初期微動に反応するP波感知器付地震管制運転機能や停電時管制運転機能が標準で搭載され、新安全基準によってブレーキの二重化と扉が開いたまま走行する事故を防ぐ戸開走行保護装置もついています。
今後、東芝エレベータでは旅館・商業施設向けに、安全性と節電効果が低予算で期待できる制御リニューアルのパッケージ商品の販売も予定しています。