黒川ビル&新星ハイツ 横浜市港北区
かつて「東京の奥座敷」と呼ばれる温泉街だった綱島。80軒もあった宿泊施設の多くは、1980年代にテナントビルや分譲マンションなどに変わった。黒川ビルと新星ハイツもそんな建造物のひとつだ。
エレベーター
マンション
ロープ式
住宅用
準撤去
仕様
物件名 | 黒川ビル(有限会社黒川事務所) |
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住所 | 神奈川県横浜市港北区綱島西2-6-17 |
概要 | 綱島駅そばで1982年まで営業していた温泉旅館を取り壊し、翌83年に黒川ビルを竣工。10階建てと6階建ての分譲マンション2棟で計41戸。1~3階部分はテナント11軒に貸し出している。 |
物件名 | 新星ハイツ(新星商事株式会社) |
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住所 | 神奈川県横浜市港北区綱島東1-13-24 |
概要 | 1987年まで温泉旅館を経営するが、転業して跡地に6階建て、35 世帯の賃貸マンションを建設。計3棟の賃貸マンションを所有。 |
かつては「東京の奥座敷」として賑わう
1914年に黒湯と呼ばれる黒色のラジウム温泉が湧き出した綱島温泉は、「東京の奥座敷」と称される温泉街として賑わいました。最盛期は80軒ほどあった温泉旅館もすべて廃業。黒川ビルも1982年に旅館を取り壊して建てられたビルです。
広い敷地に10階建てと6階建ての分譲マンションが2棟あり、1~3階部分はテナントビルとして貸し出しています。マンションは全部で41戸、テナントは飲食店、塾、カルチャーセンターなど11軒が入居しています。
マンションが2棟になったのは、全室南向きにするため。10階建てにはロープ式のエレベーター、6階建てには油圧式エレベーターが導入されました。油圧式にしたのは、日当りへの配慮から屋上に機械室を作らないようにするためです。
しかし導入から25年も経つと、油圧式にはトラブルが出るようになりました。段差が生じ、乗り心地への不満が高まり、閉じ込めも起きて、入居者からもリニューアルの要望がありました。そこで、油圧式・ロープ式ともに準撤去リニューアルを決断。2009年3~4月にかけて、P波感知器付き地震時管制運転装置をはじめ停電時自動着床装置など最新鋭の安全装備を導入し、防犯カメラも新しいタイプに変えました。
■黒川 亮一氏
有限会社黒川事務所 代表取締役
安全はお金に替えられない
しかし実際に1台が停止する事態が起きたことで、危機感が高まりました。テナントからもクレームがあり、特別に予算措置を行って2台同時にリニューアルすることに決めました。
リニューアル工事は1台当たり12日間をかけて完了しました。工事に当たっての要望は、木を使うこと。そして見た目が一新されること。建築基準法の規定により、エレベーター周りに可燃材を使うことはできないので、エレベーターホール側ドアとかご室内に木目調の化粧シートを貼って天井の照明も交換しました。明るくて落ち着いた木目調は来客にもテナントにも好評です。
かご室内には木製のテナント案内板があり、デザインに一体感があります。以前はかご室内に掲示物が数多く貼られていましたが、美観を損ねるので1階ロビーに掲示板を新設しました。今回のリニューアルは、日本森林林業振興会らしいイメージづくりにも寄与しました。
■佐藤 誠三氏
新星商事株式会社 社長
■エレベーター・1階のりば
油圧式エレベーター1台とロープ式エレベーター1台の計2台をリニューアル。トランク扉も鏡張りにして、かご室内が一層明るくなっている。
■エレベーター・1階のりば
2009年9月発売の新安全基準に適合した最新型エレベーターを導入。
階数表示パネルがデジタル表示から液晶表示になり、日付などより詳細な情報が表示できるようになった。
ここがポイント
自然な監視と自発的監視のバランスが大事
マンションにおいて、リニューアルは単に老朽化への対処だけではありません。最近では防犯面の強化も重視されるようになっています。古いマンションほどエレベーターが奥まった所に隠れるように設置されており、防犯上の死角になりやすいからです。
黒川ビルも新星ハイツも、かご室内やエレベーターホールに防犯カメラを設置しており、防犯対策も万全を期しています。管理人室がエレベーター近くにあることも重要です。24時間365日の遠隔監視システムは、住人だけでなくオーナーにも安心をもたらします。
リニューアルでかご室内が明るくなれば防犯対策になりますが、可能であればエレベーターホールの照明もより明るくして、人目につきやすい環境を作ることが重要。防犯には自然な監視と自発的監視の両方が必要です。つまり通る人の目につきやすいことと、防犯カメラや管理人などによる積極的な警備のバランスを取ることが大事なのです。
メーカーの立場から
綱島温泉の元旅館業仲間という、古くからつながりの強いビルオーナーたちとじっくり対話。信頼関係を作り上げることでリニューアルを成功させた。
工期が長い油圧式リニューアルは高齢者への配慮が必要
油圧式のリニューアルは、1カ月間もエレベーターを停止しなければなりません。今回の工事は、6階住居棟に高齢者がいない現在がチャンスだと判断して行われました。足の不自由な高齢者が上階に住んでいたら、簡単にはリニューアルできません。
また、地元の商店会でも活動している社長は事務所を空けることも多く、その間に閉じ込めなどが起きたら大変です。24時間の遠隔監視は必要になると認識しておられました。
2棟あるマンションのうち、10階建ての棟にお住まいだった2人の高齢者には、1週間だけショートステイを利用してもらったり、家族さんの家に移ったりとご協力いただきました。
リニューアル時には各階の踊り場に椅子を置くなど、社長の細やかな配慮のおかげでクレームひとつなく工事を完了できました。
ゲリラ豪雨対策にもなる台風時パーキングシステム
黒川亮一社長から紹介を受けた佐藤誠三社長も、リニューアルの必要性やシステムについてよく理解しておられました。
遠隔監視システムにも関心を示され、また近くの川がかつて台風で氾濫したことがあったことから、冠水の危険が高まったときにスイッチを入れておくと冠水時に自動的にかごが最上階に上がる最新機能「台風時パーキングシステム」も採用することにしました。かごが冠水すると電気系統などに故障を生じる恐れがあるため、ゲリラ豪雨などが増えている今日には有効な機能です。