笑うことで、自分もまわりも幸せに。

よく運動する人や、野菜と魚をよく食べる人は、よく笑う。

よく笑う人に共通点はありますか?

まず一つには運動ですね。笑いと生活習慣の関係を長年見ていますが、間違いなく運動は笑いに大きく影響します。運動にはストレス解消効果もありますし、うつ予防にもなり精神的に良い効果があります。ですから日頃から散歩でもいいので運動を続けている人はよく笑う傾向にあります。あと、面白いのは野菜と魚を組み合わせた食事です。よく笑う人は野菜をよく食べています。ビタミンはストレス予防になりますし、葉酸は神経伝達速度を早め、うつ予防にもなります。逆に肉はヒートアップしたり攻撃性を高めます。アメリカで調査したところ、肉をたくさん食べると攻撃性が強まり、しかも、いつも肉を食べている人に野菜ばかり食べさせたら攻撃性が弱まり落ち着いてきたことから、肉を食べるから攻撃性が高いという結論になりました。また、野菜や魚が並ぶ食卓は、いわゆる「笑い飯」が多いのだと思います。野菜と魚の料理を作るのは手間もかかり一人暮らしではなかなか難しく、やはり家族で食べる場合が多く、そうなると自然と会話も弾むのだと思われます。

人と話す機会が少ない人は、犬を飼うと良い。

日常生活で話す相手や機会が少ない人は、どうすればいいのでしょうか?

女性の場合は、割合、喋るきっかけを作りやすいのですが、特に高齢の男性の一人暮らしですよね。一番笑う材料になりやすい、日常生活の中での会話がないわけですからね。そこでそんな方におすすめしているのは、犬を飼うことです。必ず散歩に行かなくてはいけませんから、毎日外に出ますよね。そして犬の散歩をしている人同士で挨拶したりします。一人で散歩をするだけでは誰とも挨拶しないのに、なぜか犬を連れていると「こんにちは」とか「名前は何ですか?」とか会話が生まれるわけです。それからペットショップや病院などでは誰かと喋らなければなりません。ただ、この場合、同じ飼うでも猫はおすすめしていない。散歩しなくていいですからね。

「笑い」というと、なぜか関西のイメージが強いのですが、笑いに地域性はあるのでしょうか?

実は笑いの地域差も調査していたのですが、結論から言うと地域差はほぼありません。大阪と秋田で数十年毎年健診時に調査をして、これは実証されています。それより性別や年齢による違いがあります。女性より男性の方があまり笑いません。2000年代、私がミネソタ大学時代にアメリカ人で測定した際には男女差はなかったので、これは日本の文化的な背景が関係していると思われます。少なくとも戦後しばらくは男性が笑うことは好まれない風潮があったと思います。それが、1980年代の漫才ブームあたりから、笑いに対する世間の許容度が高くなってきたように感じます。「男性」とひとくくりにしていますが、年齢による違いもあります。実際に、今の20代では男女差はほぼありませんが、男性管理職の方々を対象とした講演会は一番苦労します(笑)

笑いは伝染する。だからこそ、自分が笑うことが大事。

あまり笑わない世代の人がもっと笑うには、どうすればいいのでしょうか?

そうですね。笑いは伝染するので、やはり環境も大事ですね。よくテレビ番組で音響のように笑い声が入る作り方がされていますが、あれも笑いを助長させる効果があります。「いつも不機嫌そうで笑わない夫をどうしたらいいですか?」と相談されることがありますが、「あなたが笑うと、それを見るだけで相手のストレス度が下がるので、まずはあなたが笑ってみてください。あなたはご主人の鏡です」と伝えています。また、現代人は何かとストレスが多く、特に男性は溜め込みやすい傾向があります。ストレスの元となるネガティブな要素を減らせない場合は、ポジティブな行動を取るのが大事です。その一環として、その人なりのストレス解消法を持つことが有効なのですが、調査したところ、男性の場合、一番が「お酒を飲む」で、女性は圧倒的に「家族や友だちと話す」という結果でした。男性の3人に一人はストレス解消法が特にないということも気になるのですが、ポジティブな行動として、最近、多くのエビデンスが出ているのが、なんと笑いについてなんです。

笑う運動である「笑いヨガ」がおすすめ。

それでもあまり笑わないという人は、どうすればいいのでしょうか?

そこなんですよね。これもよく相談されるのが、「いろんなお笑いネタを観飽きてしまった。どうすれば笑えますか?」と。そこで、私がおすすめするのは「笑いヨガ」。「ラフターヨガ」ともいい、もともと1995年にインドで始まり、2005年にニューヨークで流行り始め、私が帰国した2006年にちょうど日本に上陸。今では各地に広がっています。ヨガといってもきついポーズなどをするわけではなく、腹式呼吸で行う笑いの体操のような内容です。ですから、誰でもどこでも簡単にできます。ただ、「ワッハッハッ」と声を出すので、その点は工夫が必要ですね。インターネットで調べると、方法やイベントの紹介があると思いますし、私自身は大変興味があったので、二日間の養成講座に通い、リーダーの資格を取得しました。それで被験者20人に笑いヨガをやってもらったところ、ストレスホルモンの値が半分以下に減り、落語や漫才などよりも大幅に下がったのには驚きました。ここで確信したのが、「笑う」という行動・運動の重要性です。気分が落ち込み笑う気になれないときでも、笑うことを行動・運動として捉えて、笑顔を作って「ワッハッハッ」と声に出す。それを脳が笑いだと錯覚し、勝手にストレスホルモンが低下するというわけです。やっていくうちにうつなどが良くなるという体験者も多く、軽い運動だと思ってトライしてみるのもいいと思います。

笑うことで良い効果がたくさんあることに驚きました。より多くの方々に伝わるといいですね。

そうですね。それこそが疫学の果たす役割でもあります。脳卒中や心筋梗塞、糖尿病などは、特に自分でコントロールすることがとても大事です。一人ひとりがもっとその重要性を理解し、実践できれば、現在、男性72.68歳、女性75.38歳といわれる日本人の健康寿命はもっと延びるはずです。要介護になる原因は、1位が認知症、2位が脳卒中です。この両方に効くのが「笑い」です。特別な技術も、道具も、お金も必要ありません。ぜひ、皆さんの生活の中に、笑う習慣を取り入れてみてください。少しでもあなたの、そしてあなたの大切な方々の幸せにつながるように。

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