どんな映画を観るか迷うことってありますよね。話題作の上映や地上波で放送などのタイミングもありますが、その時の気分や心境で選ぶこともあるはず。そんな時、この方のおすすめ映画を観たという方も多いのでは? そうです、今回は映画コメンテーターとしても大活躍のLiLiCoさんに、 映画の魅力や映画を観ることで得られるもの、さらには映画への“思い”などを伺いました。
profile●1970年、スウェーデン・ストックホルム生まれ。スウェーデン人の父と日本人の母を持つ。18歳で来日し、1989年から芸能活動スタート。2001年からTBS「王様のブランチ」に映画コメンテーターとしてレギュラー出演。J-WAVE「ALL GOOD FRIDAY」など出演番組も多数。アニメ「サウスパーク」カートマン役の声優やナレーション、俳優などマルチに活躍。
2024年、持続可能な社会づくりへの貢献で「HAPPY WOMAN賞」、外国映画の振興への寄与から「淀川長治賞」を受賞。ファッションにも意欲的に取り組み、服やジュエリーのデザイン、プロデュースも手掛ける。
●LiLiCoさんが映画コメンテーターになったいきさつを教えていただけますか?
私は、子ども時代スウェーデンで育ちましたが、テレビが国営放送2チャンネルだけで、エンターテインメントを感じるものが少なくて、コマーシャル観たさによく映画館に行っていたんです。それで映画も観ていたわけですが、上映前の約15分間は私にとって宝物のような時間でした。
中学生の頃、夏休みに祖母のいる日本に遊びに来た時、テレビを観て衝撃を受けました。映っているもの全てがキラキラして見えて、‟なんて素敵な夢の箱なの! 私もこの中に入りたい”って。それで18歳で日本に来て芸能界デビューしたんですが、女優としてはなかなか合う役柄がなく、歌手と声優もやっていたんです。そんな時、ある雑誌で「声優が選ぶ好きな映画3選」みたいな企画があって、私が挙げた作品が放送作家の目に留まり、なんと2週間後には「王様のブランチ」(TBSテレビ)で映画コメンテーターとしてテレビに登場していたってわけです。そこから早24年が経ちます。

●そうすると、LiLiCoさんにとって、映画は人生を変えるきっかけでもあったんですね。
そうですね。そのワンチャンスで映画コメンテーターという肩書きを持つことになったんです。 私、“スラッシャー”なんです(複数の肩書きや職業を持つ人を指す言葉)。つまり、タレント/俳優/歌手/声優/ラジオパーソナリティ/ジュエリーデザイナー/、/、…と全部で21個の職業があるんです。それも映画がいろんな世界の扉を開けてくれたおかげでもあリます。映画って、音楽やデザイン、翻訳、美術や衣装など、いろんな仕事の方が関わっていますし、もともと働くのが好きなこともあって、興味が湧いてついつい肩書きが増えちゃうんです。
私はよく、「なんでそんなに明るく、パワフルでいられるんですか?」って聞かれるんですけれど、「映画をたくさん観てるから」というのは大きいと思います。芸能の世界は人気商売ですし、人の顔色を気にするのってすごく疲れるんですよ。そんな時、私の中で人生ベスト映画と言っている『歓びを歌にのせて』を観ると、“人生は自分のものなんだ”って思えるんです。内容を一言で言うと、人生再生物語なんですが、観ると励まされるし、生きる勇気が湧いてくるんです。そうやって映画には人の考え方、生き方まで変える力があると思うんです。
●忙しい中、どうやって映画のインプット・アウトプットをされているのでしょう。
私は毎年400本ほど映画を観ます。最近は配信もあって自宅で観る時は誰にも邪魔されない早朝とかに。映画館に友だちと観に行くこともあります。新しい映画はどんどん出てきますし、勉強のために過去のものも観ます。ただ、ストックネタがどれだけあっても、紹介できる媒体が少なくて紹介しきれずに残念です。おすすめ映画は媒体やシチュエーションに合わせて紹介するので、例えば朝の番組や子ども新聞などに相応しくないものもありますし、そもそも国民性というか文化の違いもあってあまり日本で上映されないものもあります。アメリカ映画の『チョコレートドーナツ』もその一つでした。ゲイカップルとダウン症の孤児の物語で、本国では高評価にも関わらず日本では受け入れられにくいという理由で、上映は当初1館だけでした。それを私はどうしても日本の皆さんにも観てもらいたくて、「王様のブランチ」で大号泣しながら紹介したんですが、なんと翌週140館に上映が広まったんです。

●LiLiCoさんの、 “映画を観てもらいたい”という思いはどこからくるのでしょうか。
映画をたくさん観ると“人間の器”が大きくなるし、人としての感情が豊かになると私は思うんです。例えば、私が「今日ね、こんな変わった人に会ったの」なんて話をすると、「そんな人いないよ」って言う人がいるんですが、映画をたくさん観ているといろんなタイプの人が出てきます。世の中や世界には自分とは違う考え方の人もいるんだってことが、映画を観ても学べるんです。それと、やっぱり私は、人生のありがたみをもっと皆さんに感じてもらいたいなって思います。世界には、今日を生きられるかどうかさえわからない人々もいます。そう思うと今日を迎えられているだけで幸せだと思いたいし、この考え方が私の根本にあるんです。
今年話題の映画『国宝』を観て、上流階級とか歌舞伎だけの話だと思う人もいるかもしれないけれど、自分の人生で起きるさまざまなことに置き換えて考えることってできると思うんです。今うまくいかないことでも少しでもよくなりたいとか、もっと上手くなりたい、頑張りたい、自分を変えたいって思ってる人がいるなら、何かしら作品から掴み取れる人生のヒントがあるはずなんです。なので、映画を観てもらうことでそういう人を応援したいんです。