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[特集]DIYという選択肢(前編)

Do It Yourself! それは、生活空間を豊かにする選択肢

「失敗してもいい。何度でもやり直せるし、そもそも一生ものとかじゃない。取り外しも可能。言ってみれば、素人じゃないとできないDIY、それが私の原点です」そう語るのは、自らの体験をベースにSNSのDIY系アカウントで13万人ものフォロワーを持つ古田さん。

昨今人気が高まっているDIY(Do It Yourself)。プロではない一般の素人さんにとって、安全性や耐久性といった面で自己責任であったり失敗というリスクもあるわけだが、生活空間を豊かにする選択肢の一つとして興味がある人も多いだろう。さまざまな媒体でビフォアアフターの劇的な変化が紹介されているが、古田さんが発信するそれは、「自分にもできるかも!」と思わせてくれ、なぜか住み心地の良さや安らぎ感を覚えるのだ。その魅力とはなんなのか?多くのユーザーを引き付けるその実態に迫るべく、実際DIYされたご自宅にお邪魔した。

DIYの醍醐味を教えてくれたのは古田浩司さん

Profile

東京都在住。古家のイメージアップコンサルタント。新卒後、大手ハウスメーカーにて新築注文住宅の営業設計、現場監督、リフォームエンジニアを経験。その後、不動産売買、賃貸、リノベーション業に携わり、物件掲載サイトの制作運営を兼任。築40年の戸建の自宅をDIYしたSNSで注目を集め、Instagram「コージ/改活日記 (@tokyo.real.house)」のフォロワー数は13万人以上。現在、古い家のスタイリング・改装をSNSや電子書籍などで発信中。

不動産業を通し考えた、顧客の悩みをどう解決するか!

私は新卒で不動産会社に就職したんですが、そこで新築物件の営業や仲介、リノベーション事業などに携わりました。そんななかで感じていたのが、企業が仲介手数料や利益を追うがあまり、顧客が本当は何を求めているのかが置き去りにされているのではないかということでした。特に、リフォームとかリノベーションは、市場も大きく、さまざまな業種から参入していて、素人には訳の分からない項目が並ぶ高額の見積もりが出てくることもあります。ユーザーが悩んでいることを解決するためというより、リフォームありきで算出されてしまう。それで考えて、だったら自分でやればいいんじゃないかと。私自身、不動産にまつわるさまざまな仕事をしてきたこともあり、業界の仕事をコンプリートしてみたい気持ちもあって、それで大工になろうと真剣に考え始めたんです。ただ、どこで誰に習うのか見当もつきません。小学校の図工で木工などやったことはあっても、日常的に行うわけでもないため、大工はプロの仕事と思っていました。それで、リノベーション会社なら修行ができるかもと思い、再就職したんです。結局リノベーションそのものよりウェブの管理が主な仕事で、2年間勤めましたが大工仕事にはつけませんでした。だったら、自分で何か始めるしかないと。ちょうどコロナ禍で自宅にいたので、2世帯住宅の2階部分のDIYを始めたんです。

最初に手を付けたのは、和室の畳でした。不動産関係の知り合いにも手伝ってもらい、畳を撤去して合板を張り、その上にフローリング材を敷き詰めました。ただ、これは後から知ったのですが、畳を撤去せずに上に敷くだけのフローリング材もあり、他の部屋ではそれを採用しました。お金をかけるつもりも、大掛かりなことをするつもりもなかったのですが、畳は撤去するものと思い込んでいたので、ここだけは他の人の手を借りました。

砂壁の砂をしっかりそぎ落とすと現れた美しい下地(右)。そこにシンプルに白の水性塗料を塗っていく。

まずは、失敗してもいい場所からやってみる

そして、一番の問題は、和室にはつきものの砂壁。ボロボロ落ちるので、ブルーシートを敷いて表面の砂を刷毛などですべてそぎ落とし、その上から水性塗料を塗りました。砂の量がかなり多いので、一日一面、少しずつ進めました。他にもやり方はあります。例えば、かなり落ちてしまった砂壁なら、スプレー式の接着材などで表面を固め、その上から漆喰などを塗ってもいいと思います。砂の様態にもよりますが、砂が落ちないようにしっかりと固めて乾かすのが大切です。そうしないと後で落ちてくることもあるので、注意が必要です。ただ、失敗したらまたやり直せるので、失敗しても問題ないところから行えばいいです。
次に始めたのが押し入れの改装です。いわゆる和室に作り付けの押し入れは、奥行きもあり、ワークスペースにちょうどいい。中板がしっかりと取り付けてあるので、これを取り外すのは少し大変ですが、自分の場合は、電動ノコギリなどを使用して取り壊しました。奥の壁にはべニア板を張り、左右の壁はペンキで塗り、床には置くだけの薄いタイル調シートを敷きました。

元は押し入れだったワークスペース。中板を取って張ったべニア板に棚受けを付け、オーダーした天板を乗せる。脇壁は白で塗り床はタイル調シートを並べた。

テレビや動画サイトで見るDIYは結構大掛かりで、どう見ても素人にはできそうにありません。しかも、ハウツーものや企画ものだと、自分の悩みとは内容や規模感が違って、あまり参考になりません。私は、とにかく自宅の和室をどうにかおしゃれで居心地よくしたかったんです。不動産の仕事でいろいろな物件の良し悪しを見てきた経験や、雑誌やサイトを見てストックしてきた好きな部屋のイメージを参考に、個室2部屋を「ミッドセンチュリー」と「和モダン」、物置を「北欧」とコンセプトを決めました。
こういった経緯で始めた趣味のDIYをnoteというメディアプラットフォームに残していったんです。すると、それを見た30~40代の女性を中心にフォロワーが増えたんです。和室を洋風にしたいと思って工務店とかリフォーム会社に聞くと、見積もりが高額で動きが取れない。お金をかけずにどうにかしたい。そういった方々が、私のように和室の雰囲気を変えただけで簡単にできそうなDIYに興味を持つ。ただ、何をしたらいいか分からない。だから、和室の趣は残して魅力的なデザインにするにはどうしたらいいかと聞いてこられるんです。講習会もやっているので、実際、私が自宅でやっているのを見ていただきながらアドバイスしています。