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よくわかるエレベーターと建物のこと

新型コロナウイルスに備える!
オフィスで役立つコロナ対策

緊急事態宣言が解除され、人の流れも徐々に戻りつつあります。しかし、流行は完全に抑え込まれているわけではなく、今後も拡大が防げるよう警戒を続ける必要があります。
感染爆発を起こさないためにはどのような対策を行えばよいか。新型コロナウイルスの感染ルート別にオフィスで可能な対策についてご紹介します。

飛沫感染を防ぐには、デスク指定やパーティションが有効!

新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)は飛沫感染、接触感染といった感染ルートがあるといわれています。このうち、飛沫は比較的粒が大きく、放出されてもすぐに落下してしまうため、ソーシャルディスタンスを確保することで防ぐことができます。
2000年代頃まで日本のオフィスでは、デスクを向かい合わせに配置した島型レイアウトが多く採用されていました。デスクの周りにパーティションを立て、キュービクルと呼ばれる半個室を作る例も多く見られました。
飛沫感染対策には、キュービクルを作ることがある程度有効と考えられます。しかし、近年、コミュニケーション重視の観点から島型レイアウトからパーティションをなくしたり、社員が個人のデスクを持たず、働く席(ワークプレイス)を自由に選択するフリーアドレス方式や、オフィス内外を問わず、作業場所・時間を自由に選べるABW(Activity Based Working)などを採用する企業も増えてきています。

デスクの配置位置と作業場所による分類

フリーアドレス方式を採用している場合、出社率が低ければ事前にワークプレイスを予約するホテリングシステムを使うことで、適切なソーシャルディスタンスを確保し、飛沫感染を防ぐことができます。また、万が一感染者が出た場合でもワークプレイスの利用履歴を追跡することで、濃厚接触者を特定し警告を出すこともできます。
出社率が高くなってくると、オフィスにパーティションを立てる等の対策が必要になりますが、コラボレーションやコミュニケーションを高めるために、アクリルを用いたプレキシガラスなど、透明な素材のパーティションが多く使われるようになると考えられます。

出社率に応じた安全対策の例
出典:株式会社オカムラ
『アフターコロナにむけたワークプレイス戦略─コロナショックが変える働き方と働く場─』
デスク幅が日本のオフィスで一般的な1.2mの場合。出社率が50%以下の場合は、使用するデスクを飛び飛びにすることによってソーシャルディスタンスを確保できるが、50%を超えた場合はパーティションで物理的に仕切り、キュービクルを作る必要がある

また、新型コロナがエアロゾル化した場合には、限定空間で一定時間浮遊する可能性が指摘されています。こうした感染を防ぐためには十分な換気が必要です。
厚生労働省では必要な換気量として、換気回数2回/時以上、あるいは一人当たり30㎥/時以上の換気を行うことを推奨しています。
注意しないといけないのが「換気回数」という言葉です。換気回数2回/時というのは、1時間に2回窓を開けるということではありません。1時間に入ってくる空気の量が部屋の容積の2倍、すなわち30分で部屋の空気がすべて入れ替わるほどの外気が部屋に取り入れられることを意味します。

オフィスでは空調をフル稼働!

窓を開けられる建物では、2方向の窓を同時に開けて、空気を流す形で自然換気を行い、部屋の空気を完全に入れ替えることができれば十分な効果が得られます。しかし、窓が一方向にしかない部屋の場合は、ドアも開けて空気の流れを良くするか、換気の頻度を上げる必要があります。
一般的にワーカー一人当たりのオフィス占有面積は5㎡から10㎡とされています。天井高を3mとした場合、一人当たりの占める空間の体積は15㎥から30㎥となりますので、こうした環境であれば、前述した一人当たり30㎥/時の換気という推奨値はクリアされています。一人当たりの推奨換気量を確保できない場合は、オフィス内で働くワーカーの人数を減らす方法が有効です。
ちなみに、新幹線や飛行機は従来より充分な換気を行っていて、現在、東海道新幹線では、計算上6分から8分で車内の空気がすべて入れ替わる量の外気導入を行っています。これは換気回数に換算すると8回/時から10回/時に相当します。また、飛行機の換気量も意外と大きく、新型コロナが発生する前から、JALではおおむね2~3分で機内の空気がすべて入れ替わる換気を行っています。
密室と思われがちな映画館も換気について厳しい規定があります。東京都では床面積1㎡あたり75㎥/時の換気能力が求められていて、換気回数に換算するとおおむね5回/時から10回/時程度の換気が可能になっています。

接触感染を防ぐにはこまめな消毒を

飛沫が飛んだり、感染者が手で触ったりすることによって物の表面についたウイルスは、条件によってはかなり長時間生存します。新型コロナでは、段ボール表面で24時間、金属やプラスチックで2〜3日、ガラスでは4日の生存が確認されたという研究結果もあります。
物の表面についたウイルスを原因とした接触感染を防ぐには、手洗いに加えて、アルコールや次亜塩素酸ナトリウム、界面活性剤などを用いた消毒が有効で、オフィスでも共用機器などをこまめに消毒することが重要です。ドアノブや手すりなどの消毒には0.05%に薄めた次亜塩素酸ナトリウムが、木材や手指の消毒には消毒用アルコールが有効です。プラスチックなどには界面活性剤が適しています。薬剤による素材の腐食は消毒後に水拭きすることで避けることができます(例えば、金属に対して次亜塩素酸ナトリウムを用いた場合)。タッチパネルに対しては、アルコールや界面活性剤による腐食を防ぐための保護フィルムも発売されています。

消毒薬と一般的な用途
  金属器具 プラスチック等 木材 手指 保護フィルム付きタッチパネル
次亜塩素酸ナトリウム × × × ×
消毒用アルコール
界面活性剤

※濃度、使用方法など条件によって使えない場合があるので、実際に使用する場合は各メーカーが提供する情報を参照してください。

エレベーターやエスカレーターの感染対策

エレベーターでは、押しボタンや手すりに触れることがあります。感染を防ぐには手洗いやアルコール消毒が有効なので、オフィスビルではオフィスの入り口の他、エレベーター乗降ロビーに消毒用アルコールを設置しましょう。
エレベーター内で一定の距離を取るため、混んだエレベータは見送ります。さらに中では、会話を控えるとともに、壁に向かって立つことで飛沫感染を防ぐことができます。
エスカレーター対策も同じように消毒用アルコールの設置に加え、近距離の会話を控え、ステップを空けて立つことで感染を防ぐことができます。

エレベーター利用時の新型コロナ対策
エスカレーター利用時の新型コロナ対策

国が新型コロナを想定した「新しい生活様式」を提唱しているように、感染対策は長期化することも考えられます。しかし、抗ウイルス素材の開発や、飛沫を防ぐためのパーティション素材の開発、エレベーター、エスカレーターを安全に利用できる研究なども進められています。次なる感染爆発を起こさないためにも、オフィスでの対策を徹底し、皆さんでこの難局を乗り越えていきましょう。

-COLUMN-

- コロナ時代に思う、シェアオフィスの可能性 -

 

松井 一哲( まつい かずあき )さん

Design Architect

 

在宅勤務の普及によりオフィスは不要になる、ましてや不特定多数の人々が行き来するシェアオフィスは衛生面でのリスクが高くなおさら必要ない──最近、そんな声をちらほら聞くようになりました。
自粛生活の中、在宅勤務の多くの利点に気がついた一方で、通信環境の整備、Web会議の音声干渉、子どもと一緒に過ごす時間と仕事の両立など、自宅ならではの新たな課題も生じています。とはいえ、今となっては満員電車で都心のオフィスへ出社することに抵抗がある人も多いのではないでしょうか。実はシェアオフィスの中には、複数の拠点を同時に利用できるサービス(サテライトオフィス)もあります。徒歩や自転車など、公共交通機関を使わずに自宅から近い拠点に出社できる環境を整えることは、それぞれのライフスタイルに合わせた多様な働き方を可能にします。
また、イノベーションには予期せぬ出会いや雑談が重要という報告が多くの研究機関から発表されています。オフィスの撤廃は、短期的に影響がなくとも、中長期的には新たな事業が育たず、会社としての成長を阻害してしまう可能性があります。そのような懸念には、人が集い、出会える場としてのコミュニティ型シェアオフィスが解決策となるかもしれません。
オフィスのあり方は一様ではありません。新たな時代に向け、多様な選択肢からオフィス環境の整備を考えてみるのはいかがでしょうか。

※コロナ後の時代に望まれるオフィスについては、将来、掲載する記事でさらに詳しく取り上げる予定です。

 

次回は「パンデミックは都市をどう変えるのか」です。乞うご期待!