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よくわかるエレベーターと建物のこと

磯達雄・宮沢洋が送る
名作映画・ドラマの隠れた「主役たち」(第2回)

イラスト:宮沢 洋

自由自在に移動するガラスのエレベーター
「チャーリーとチョコレート工場」

壁だけでなく天井も床もガラス張り

 ウィリー・ウォンカがつくるチョコレートは世界中の子供たちに大人気だ。しかし、その工場に入った者は誰もおらず、製造法は秘密のベールに包まれていた。ところが、商品に同封された黄金のチケットを引き当てた5人に、工場見学が許される。ウォンカが案内するチョコレート工場の内部とは、果たしてどんなところだったのか、というストーリー。天才で変人の工場長ウォンカをジョニー・デップが演じている。見どころは、カラフルでファンタジックな美術で、チョコレートが川となって流れる工場内の空間を見事につくり上げている。
 エレベーターが出てくるのは、映画の終盤。広い工場内を移動するために、ウォンカと子供たちが乗り込む。このエレベーターは、いろいろな点で驚くべきものとなっている。まずは、かごの全体がガラスでできていること。ガラス張りのエレベーターは今やそれほど珍しいものでもないが、この映画に出てくるそれは四方の壁だけでなく、天井も床も透明なガラスである。上部に付いている1箇所を除いて、機械装置はどこにも見えない。
 内側には非常に多くのボタンがある。工場内のどこへもボタンひとつで行けるという。さらにすごいことに、このエレベーターは、上下方向だけでなく、水平方向にも斜めにも動くことができる。広大な工場のそれぞれの部屋を、滑らかに突っ切っていく様子は、これぞ未来の移動手段という感じだ。

空へと飛び出すエレベーター

 クライマックスでは、ウォンカが「UP AND OUT」のボタンを押す。するとエレベーターのかごは急加速で上昇し、屋根を突き破って外へと脱出、ロケット噴射で空を飛んでいく。ちなみに、原作となっているロアルド・ダール『チョコレート工場の秘密』(1964年)には、『ガラスの大エレベーター』(1972年)という続編があり、そちらではこのエレベーターに乗って宇宙空間へも達してしまう。
 ここまでくると、これはエレベーターと呼んでいいのか、疑問を抱く人もいるかもしれない。でも小さな四角い箱で内側にボタンが並んでいれば、横に進もうが、空を飛ぼうが、エレベーター以外の何物でもないと思える。エレベーターの本質とは何か。それを考えさせる映画でもある。
 ガラス張りのシースルー・エレベーターといえば、実在の建物で採用した最も早い例のひとつが、ジョン・ポートマンの設計によるハイアット・リージェンシー・アトランタだ。

 
イラスト:宮沢 洋

 これが完成したのは1967年。ということは、ポートマンがダールの小説からインスパイアされて、これをつくったということも考えられるわけだ。ハイアット・リージェンシー・アトランタのエレベーターは、アトリウムの天井を突き抜けて屋上の回転レストランへと到達する。そんなところも、もしかしたら影響を受けているのかもしれない。(文:磯 達雄)

DATA

映画「チャーリーとチョコレート工場」
原題:Charlie and the Chocolate Factory
監督:ティム・バートン
出演者:フレディ・ハイモア、ジョニー・デップ
公開:2005年

文:磯 達雄(いそ・たつお)

建築ジャーナリスト、Office Bunga共同主宰。1963年生まれ。1988年名古屋大学卒業。1988〜1999年日経アーキテクチュア編集部勤務後、2000年独立。2020年4月から宮沢洋とOffice Bungaを共同主宰。2001年〜桑沢デザイン研究所非常勤講師。2008年〜武蔵野美術大学非常勤講師。著書に『昭和モダン建築巡礼』、『ポストモダン建築巡礼』、『菊竹清訓巡礼』、『日本遺産巡礼』(いずれも宮沢洋との共著)など。

イラスト:宮沢 洋(みやざわ・ひろし)

画文家、編集者、BUNGA NET代表兼編集長。1967年東京生まれ。1990年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、日経BP社入社。日経アーキテクチュア編集部に配属。2016年〜19年まで日経アーキテクチュア編集長。2020年2月に独立。2020年4月から磯達雄とOffice Bungaを共同主宰。2021年5月、株式会社ブンガネット(BUNGA NET Inc.)を設立。著書に『隈研吾建築図鑑』など。

次回は「セルフビルドの時代」です。
乞うご期待!