赤羽シティハイツ 東京都北区
1982年に竣工した「赤羽シティハイツ」は、閑静な住宅地にある地上5階建て57世帯の分譲マンション。油圧式のエレベーターは設置後29年目を迎え、冬季に段差が生じるようになっていた。高齢化が進む住民は、1カ月のエレベーター停止期間にどう対応したのか。
エレベーター
マンション
油圧式
乗用
準撤去
仕様
物件名 | 赤羽シティハイツ |
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住所 | 東京都北区岩淵町25-5 |
概要 | 荒川にも近い住宅地にある57世帯の分譲マンション。地上5階建てのしっかりとした構造で、周囲の敷地にもゆとりがある。 |
高齢化を見据えてリニューアルを前倒し
長期修繕計画では、エレベーターのリニューアル予定が2年後に設定されていました。しかし油圧式のエレベーターは設置後29年目を迎え、冬季に段差が生じるようになってきました。マンションの住人はみな50代以上で、最高齢は90歳になる女性。車いすがないと外出ができない住人や、足に不安を抱える住人も増えつつありました。そんな時、独り暮らしの高齢者が玄関で転倒する事故が起きたことから、前倒しのリニューアルが動き出しました。
問題となったのはリニューアル工事に伴う停止期間の長さです。まずは管理組合の依頼で、管理会社主催による現場説明会を開催。メーカー3社に相見積もりを取り、東芝エレベータに決まりました。油圧式エレベーターのリニューアルには通常1カ月ほどの完全停止が必要になりますが、一番短い工期を提案したのが東芝エレベータでした。
工事前に5カ月間の周知期間を設けました。管理組合では月1回「エレベーターリニューアル工事のお知らせ」を各戸に配り、掲示板やエレベーター内にもお知らせを掲示。外部から来る介護スタッフや業者、親戚の方々にも周知しました。
■工藤 圓枝氏
管理組合理事長
■西村 和枝氏
管理組合理事
大震災を乗り切り、運用コストも削減
リニューアル工事に先立って、マンションの内階段に手すりを設置しました。2月1日から28日までの工事期間中に、雪が降って足元が悪くなる可能性があったからです。
騒音が出る工事が行われる時間は、東芝エレベータが作った一覧表を掲示しました。近隣住人にもあいさつ回りをして工事中のクレームを未然に防ぎました。
2月末にリニューアル工事を完了し、そのおよそ10日後に東日本大震災が起こりました。もしリニューアルしていなかったら、閉じ込め事故があったかもしれません。大きな余震もありましたが、エレベーターには管制運転機能がついていたので安心でした。
各機器の機能や運行状態を24時間365日遠隔監視する機能もあり、万が一のため契約していた警備会社の費用が不要になりました。電気代も削減でき、4月分だけで前年より4割近く安くなっています。またドアに防犯用の窓をつけたことで、かご室内が明るくなりました。以前よりも待ち時間が短縮されてスムーズになり、気になっていた機械室のモーター音も静かです。
■片倉 隆志氏
管理員
■1階のりば
ドアに防犯窓がつき、のりばからかごの中の様子が見えるようになった。防犯窓は、エレベーター特有の閉塞感の軽減にとても効果的だ。また、新しいのりば戸の色は、リニューアル前とできるだけ近い色にした。化粧シート貼り加工は発色が美しく、三方枠の境目ときれいに色を揃えることができる。
■かご室天井
天井の照明も明るくなったが、ドアに防犯窓が付いたため、日中のかご室内は外光が差し込み、とても明るくなった。のりばからエレベーターが動き出すまで乗客を見送ることができる。
■操作盤
文字盤が大きく見やすくなった。従来は扉の上にあった階数表示も操作盤の上に移動している。また、開閉ボタンが下に移動して、子どもでも押しやすくなった。
ここがポイント
管理組合と管理員の情報共有でしっかりと合意形成
赤羽シティハイツの管理組合は、1~5階の各階から1人ずつ順番で理事が選ばれ、その5人の中から理事長(任期1年)が選出されます。
リニューアルを成功に導く要因のひとつは、管理組合のみなさんの取り組みです。住人や管理組合と管理会社をつなぐ管理員が住人の意向を管理会社に伝え、管理の質を上げることはマンションの資産価値向上にもつながります。
赤羽シティハイツでは毎月理事会を開催し、議事録を全戸に配布しています。エレベーターリニューアルのお知らせも議事録と一緒に配布され、管理員が住人たちに「準備はしていますか」と声を掛けることで周知が徹底できました。
メーカーの立場から
コンサルタントの役割を果たした管理会社
当初の長期修繕計画ではリニューアルが2012年と決まっていましたが、交換部品の供給に不安が生じていました。2009年末から2010年初頭にかけて管理組合が動き出し、管理組合からの信頼が厚い管理会社がコンサルティング的な役割を果たしてくれました。
採用の決め手となったのは、工期の短さでした。他社の製品を導入するとホール側の三方枠もすべて撤去することになり、エレベーターの完全停止期間は30~35日。東芝エレベータなら25日間で完了することも可能で、工費も安くできます。
エレベーターに25~30年の耐用年数があることもあまり知られておらず、建物と同じくらい長持ちすると考えている住人も少なくありません。古いエレベーターは、部品の経年劣化などにより故障頻度も高まってきます。安全基準も随時見直されており、最新機種は新基準に沿った地震時対応機能や安全対策を備えています。
また製造中止から約25年以上経過した機種を中心に保守部品の供給期限を迎える「2012年問題」もありました。東芝エレベータでは1969年に発売した6機種の部品が2014年から供給停止となるため、早急なリニューアルを勧めていました。
短工期と地道な営業活動が ユーザーの理解を獲得
リニューアル工事の前に確認するべきポイントは、工期、停止期間、作業区画、資材の搬入計画、騒音、におい、ホコリなど。停止期間と騒音の出る工事だけを色分けして、わかりやすくした工程表を玄関横の掲示板とエレベーター近くに張り出しました。
搬入用の道路が狭かったので、通常より小型の2トントラックを数台使って資材を運び込みました。お客様の安全を図るために警備員が誘導し、作業区画はパーティションの仕切りを設置。住人へのあいさつや声掛けも徹底し、工事はクレームもなく完了しました。
ドアの防犯窓はエレベーター特有の閉塞感の軽減に効果的です。日中のかご室内は外光が差し込んで、とても明るくなりました。文字盤や階数表示も見やすくなり、開閉ボタンは下に移動して子どもでも押せるように。新しいエレベーターは住人のみなさまにも好評です。