FUTURE DESIGN

FUTURE DESIGN vol.54

vol.54 連載●「わっしょいニッポン」

高知のブランド鶏「土佐ジロー」で限界集落を活気づける「はたやま夢楽(むら)」

皆が畑山を出る状況が納得いかんかった

(左上)土佐ジローの肉。炭火焼きを塩で。(右上)靖一さんと次男の晃大君。
(左下)食事と温泉が楽しめる宿「はたやま憩の家」。(右下)畑山の風景。

 車一台が通れるくねくねの山道を、安芸川に沿って走る。高知県安芸市の市街地から約40分、山間の畑山集落で小松靖一さんは育った。幼少期、川は最高の遊び場だった。「ただ泳ぐなんて無駄なことはせんよ」。ゴリ、ウグイ、アユ、アマゴ、ウナギ。潜って魚を捕まえるのだ。子どもたちは成長すると、捕れる魚もレベルアップしていった。「今は廃校になって畑山に学校がないんやけど、小学校入学の時同級生が13人おったんです。それが中学卒業の時はたった4人。皆が畑山を出て行く状況が、納得いかんかった。仕事がないき出て行くんやったら、自分で仕事を作ろうって中学の頃から思いよったです」
 大工の仕事に就いた靖一さんは、30歳で養鶏を始めた。畑山で産業をおこしたいと考えていた時に、たまたま出会ったのが土佐ジローだった。ユニークな名前の鶏は、天然記念物の土佐地鶏(雄)とロードアイランドレッド(雌)を交配した高知県の特産鶏だ。最初は採卵用に100羽雌を飼った。「体調なのか気分なのか、これがなかなか卵を産まんかった」。卵だけでは採算がとれない。現在、県内で土佐ジローを飼育する人は100人ほどだが、ほぼ全員が採卵目的だ。つまり、生まれたその日に雄雌を鑑別して、雌だけが飼育される。「じゃあ、雄を飼って肉にしよう」と靖一さんは考え、他の人がやらないことを始めた。鶏の言葉がわかりたい一心の靖一さんは、ひたすら観察し鶏小屋を3年おきに新しく建て直して、広さや集団の数を調整。土佐ジローは草や砂を食べるので、遊び場を作る。ただ、飛行機の音にも驚く鶏たちは、広すぎても不安を感じ、運動しすぎて肉が硬くなる。一般的な鶏の3倍、約150日飼育してから肉にする土佐ジローは手間も経費もかかるため、経営は大変だった。
 肉が評価されるようになると、今度は畑山に唯一あった市の保養施設の存続が危うくなった。人が来ない集落に、未来はない。靖一さんが子どもの頃800人いた集落は、高齢者ばかり70人ほどに減っていた。「はたやま夢楽」を立ち上げ、施設の管理を引き受けた。土佐ジローの飼育、肉の加工場、温泉宿の「はたやま憩の家」指定管理の3本柱ができあがる。
 8年前、靖一さんは25歳年下の圭子さんと結婚した。圭子さんは、愛媛県宇和島市の漁村、遊子(ゆす)の出身だ。昭和40年代、遊子ではハマチと真珠の養殖で潤い、その後バブルが弾けた。ハマチ養殖をしていた圭子さんの家は、小学5年生の時に廃業する。「景気が良かった時は、どこの家も帰ってきて後を継げって子どもに言うのに、景気が悪化した途端にいい学校を出て外で働けって言われました」。皆が故郷を捨て、出ていくのは畑山と同じだ。「家の裏手にあった段々畑を夜見上げたら、本当に綺麗で。お金じゃない価値観もあるはずだって思いました」当時は貧乏の象徴とされた段々畑だが、圭子さんには集落の宝に思え、学生時代1人で畑の草引きをした経験を持つ。
 元新聞記者の圭子さんが加わったはたやま夢楽は、彼女の発信力でたくさんの人を巻き込んでいく。まず蕎麦婚。蕎麦の種をまき、花見、収穫、蕎麦打ちを通して畑山で婚活をしようという試みだ。スタッフの慎二さんはこの出会いで結婚した。集落で22年ぶりに誕生した長男の尚太郎君や次男の晃大くんの友達家族が畑山にやってきて川遊びも復活。山間に歓声が響く。
 そして何より、今では土佐ジローを食べに年間3千人がはるばる畑山を目指して来るほどになった。飼育を始めて約30年、集落内の加工場で1羽ずつ包丁で手捌きしているからこそ、胸肉のタタキや心臓、精巣、トサカなんて部位までを炭火焼で味わえる。40人を切った小集落だが、畑山応援団は全国にいる。険しい山道なんて何のその、海外からもやってくる。小松夫妻に備長炭で肉を焼いてもらう時間は、畑山の風景も空気も、思いも味わえる時間だ。

阿部直美

1970年群馬生まれ。フリーライター。2007年より全日空機内誌の「翼の王国」で夫とともに「おべんとうの時間」連載スタート。今年の4月には「手仕事のはなし」を河出書房新社より出版。著書に「里の時間」(岩波新書)。

阿部 了

1963年東京生まれ。気象観測船「啓風丸」に機関員として乗船後、写真の道へ。著書の「おべんとうの時間」(1~3)(木楽舎)は今年の7月に4巻目が出版。2011年からはNHK「サラメシ」にてお弁当ハンターとして出演中。


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