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都市と交通の未来形
 
フラックスタウン・熱海
 
 
2020年を見据えた「フラックスタウン・熱海」は、現状の熱海の特徴を活かした新時代の都市計画だ。
メインの交通は陸海空をシームレスに移動できる「シェアリング・ビークル」。
斜面と海に囲まれた熱海で、高齢者から観光客まで様々なニーズに応えられる、コンパクトでフレンドリーな乗り物だ。
 
 東京から近く歴史ある保養地としての熱海の価値を活かしつつ、別荘族、地域住民、観光客の三者にとって魅力ある街とすること。
 本プロジェクトは、どの地方都市でも行われるような無表情な再開発とは一線を画し、あくまで熱海ならではのコンパクトで立体的な構想とした。プロジェクトの対象エリアを小規模に集中することで、数ある温泉街のひとつというイメージを超え、観光と生活両面での熱海の独自性をより活かせるものとした。
 そして、個人商店が軒を連ねる街の活気や、自然に恵まれた地形による熱海の魅力は残し、個人が自由に移動できる安全な街を目指した。
  ▲Sharing Vehicle
   
  山と海に囲まれた熱海では交通手段の開拓は困難を極め、それゆえに多様な交通システムが検討されてきた。
 熱海の魅力を最大限に引き出す移動手段とは何か。
 本プロジェクトには、私たちがまだ見たことのない乗り物が登場する。それが「SV=Sharing Vehicle(シェアリング・ビークル。以下SV)」だ。
 「Sharing」の名前のとおり、熱海の公共交通として陸上、海上、空中をシームレスに運行し、散在するさまざまな観光ポイントを繋ぐ小さな乗り物である。これが熱海での移動を楽しく、自由にしてくれる。
 まるでSF小説に出てくる乗り物に思えるかも知れないが、実現する技術は2009年現在、すでに海外では実用化されている。決して絵空事ではない。イギリス・ヒースロー空港など現在ある海外の事例や、SVの仕様については、次のページを参照して欲しい。
 現状の熱海が持つさまざまな課題をクリアするSVは、熱海が持つ乗り物の歴史に新たな時代を拓くのだ。
  ▲SVステーション
観光や生活における拠点となるポイントごとに、SVへ乗り降りするステーションを設置。ステーションには足湯が設けられ、待ち合わせ場所や休憩場所としても機能する。
   
  SVの移動方法は5通りある。軌道上を走る無人タクシーである「PRT(Personal Rapid Transit)モード」、自動車として自由に移動する「自動車モード」、熱海を取り囲む山頂のうち5カ所を空中で繋いだ「ロープウェイモード」、熱海湾内を移動する「海上移動モード」、そして、それらのモードをつなぐ「エレベーターモード」だ。利用者はわざわざ乗り換えることなく、陸・海・空をシームレスに移動できる。
 海岸と市街地を分断する存在となっていた国道135号線は地中化し、地上はSVと歩行者のために開放する。
 SVはすべて中央センターで一括管理され、センターからの指示により自動運行し、街中を常に一定のスピードで動き回る。自動車モード以外では、自分で運転する必要はない。GPSの情報に基いて配車状況を自動で調整するので、渋滞が生じることも、衝突して事故が起きることもない。ひとたび乗ってしまえば、あとは行き先を入力するだけ。目的地に到着したら、そのまま乗り捨てることができる。空き車両となったSVは、次のニーズのある場所へと自動的に向かって行く。人々はSVを街中で気軽に拾えるだけでなく、携帯電話で空き車両の位置を確認したり、呼び出すこともできる。
 SVにより、個人単位で自由に移動できる「ネットワーク型パーソナル・トランジット」の世界が実現できる。
  ▲水上トラベーター
熱海の街には、東西方向に数本の川が西の山側から東の海側へとなだらかに流れている。今回はそのひとつの川の上に、透明な動く歩道を設置。山側の街路は狭く、歩道が十分に設けられていないなかで、この川の上の動く歩道は主要な歩行者専用道路として機能する。
   
 
  ▲テラス付き屋外エレベーター
海岸沿いは急斜面を持つ山肌を切り開くように急な角度の階段が海岸まで伸びている。階段の代わりにフラットな歩道とその先にエレベーターを設置。上部のエレベーター乗車レベルは展望台となる。また透明なエレベーターからも海岸への眺望を楽しむことができる。
   
  観光客を迎える熱海駅前。駅ロータリーの横に、SVステーションが作られる。待ち合わせ場所も兼ねたステーションには、温泉による足湯が設置されている。ほっと一息ついたら、いよいよSVに乗り込む。陸、海そして空。熱海の街のあらゆる場所を常に一定のスピードで、一定の台数が走り続けているSVには、待ち時間も時刻表もない。SVに乗車したら、行き先を入力。あとは細かく張り巡らされたルートに沿って自動的に目的地へと進行してくれる。
 SVの内部はインフォメーションセンターも兼ね、観光客は車内で観光ガイドなど必要な情報を引き出せる。乗り物としてだけでなくメディアの機能も持つSVは、外から見た場合、前面がLEDスクリーンとなり、広告などの情報を映し出す。乗っているときだけ恩恵を受けるものではなく、外から見たときには別の役割として機能する。
 時にはSVから降りて、熱海の街を自由に歩くのもいいだろう。SVはその場で乗り捨てれば、自動で最適なSVステーションに戻っていく。
 水上トラベーターで川のせせらぎを眼下にしながらそぞろ歩きを楽しんだ後は、SVステーションに戻り、再びSVに乗り込む。駅から市街へと進むと、海辺が見えてくる。ここでテラス付き屋外エレベーターからロープウェイルートへ乗り、熱海を上空から見渡してみるのもいいだろう。また、このまま「海上移動ルート」に乗り入れて海上散歩へと繰り出すこともできる。
 海から見渡す熱海市街の景色や、沖に浮かぶ初島を楽しんでいると、夜の帳が下りてくる。海上散歩の後は、淡く発光する海上のスパイラルエレベータータワーを伝って、ロープウェイルートに戻ってみる。SVの中からは熱海の花火が、外からはガラス玉のように発光するSVが空中を行き来する光景が楽しめるはずだ。
 SVはエネルギー問題にも配慮する。基本的な動力は空気と電気によるハイブリッドで、高所からの移動時には位置エネルギーを利用する。また温泉の熱エネルギーは、熱交換器を利用して車内の暖房などに活用する。地形による高低差や温泉の熱など、熱海だからこそ生まれる「ご当地エネルギー」を有効利用。このシステムは環境問題がますます重要になる将来において注目されるものとなるだろう。
 また、地震などの災害時後には、避難者のための簡易シェルターとして活用することも想定する。5人乗りのSVを500台運行する試算では、2500人を収容できることになる。さらに、地割れなどで陸地のインフラに甚大な被害があった場合には、SVを海上輸送に利用するなど、その用途は多様である。
 利用者の求めに柔軟に対応するSVは、住民にとって日常生活の足であり、またメディアでもある。観光客にとっても、SVそのものが観光要素となることは間違いない。人それぞれの移動支援するSVは、人の可能性、街の可能性を呼び起こす存在となるだろう。
 
 
▲スパイラルエレベータータワー
熱海の街を縦横無尽に駆け抜ける乗り物“ SV ” 。
陸と海を駆け回るその乗り物が、半透明のシャフトを潜り 抜けて空へ上る。高さ135mの“スパイラルエレベータータワー” は、熱海駅と陽和洞、そして熱海海岸とアタミロープウェイの八幡山駅をつなぐロープウェイを4カ所で支えている。熱海湾に微光を放ちながら建つシャフトが繋ぐのは、熱海の街と人の流れである。

▲メインストリート上をPRTで移動する
愛くるしい形のSVは熱海のキャラクター的存在だ。メインストリートではSVが上部を通過する光景が見られる。眼下には商店街の賑わいが。地上はできるかぎり歩行者に開放し、高齢者にもやさしい街へと生まれ変わる。

 
▲街の路地を自動車で移動する
SVは観光用だけではなく、地域住民の足として日々の暮らしにも溶け込んでいる。住民たちは、SVを個人的に購入するほか、地域で共有する。また、街の空き地にSVを製造、整備する施設を設置。インフラを整備するだけではなく、この乗り物を中心とした地産地消の産業をつくり街の活性化をねらう。

▲船として海上を走る
SVは海の上をも走る。既存の波止場がステーションとして機能し、人々はここでも乗り降りをすることができる。水中に軌道がつくられるのではなく、全てGPSやビーコンを利用したコンピューター制御により誘導される。

▲ロープウェイで移動する
既存ロープウェイのルートを使い、山を上り下りするSV。夏の間、定期的に開催される花火大会も街中を走るSVから楽しむことができる。

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