2009年審査員座談会
都市における交通とコミュニケーションのゆくえ(1)
〜応募作品とテーマ設定をめぐって〜
通常の建築のコンペとはひと味違い、応募者には交通を主軸に都市全体を視野に入れた独自の世界観が求められる──そんなユニークなこの未来エレベーターコンテストも回を重ねて早くも第3回目を迎えた。審査終了後の座談会で交わされた審査員5人による審査の様子とこのコンペに対する感想をレポートする。
年々レベルの上がる
コンテスト応募作品
今村 最初に、今回審査に参加された皆さんの感想からお聞きしたいと思います。今年は新しく審査員として小林さんに加わっていただきましたが、いかがでしたか。
小林 私は、普段は政府関係の調査に携わる仕事が多いのですが、今回このコンテストに審査員として参加させていただいて、普段の仕事では出てこないような、自由な発想が感じられて感銘を受けました。日ごろ使っていない部分の頭を使ったなと思っています。
原田 今回は、テーマとして「地域コミュニティーを活性化する未来の交通」を出させていただきました。応募していただいた皆さんからは、社会環境を含めてコミュニティーという言葉のもつ意味合いをしっかりと持った作品を出していただいた、という気がしています。
ただ、審査をする際の議論にもありましたが、コミュニティーの捉え方には、それぞれ少しずつズレがあって、それは作品のなかにも表れているという気がしました。
もうひとつ、これはこのコンテストの最初からしている話ですが、私はエレベーターやエスカレーターを単なる都市の移動手段としてではなく、都市と社会、そしてコミュニティーをつなぐ乗り物として捉えていただいた作品を期待しています。その点でも、だんだんと中身のある、私の思いに近いような、作品が増えてきているという気がしています。
田中 私は、年々レベルが上がってきているのを感じました。このコンテストでは、毎回、まったく分野の異なる審査員が集まって、それぞれの立場や観点からリクエストを出すのですが、応募者はその要求を大きく満たそうとして、全体のレベルが上がってきている感じがします。
といいますのも、このコンテストはジャンルが固定されていない。その分、広い意味で環境デザインというレベルまでをも含んだ、さまざまな要件を視野に入れてまとめる力が必要となってきますし、またそれに応えられる世代が出てきているというのは、結構心強いことだと思っています。
辛島 今年もたいへんな刺激を受けました。刺激を受けて、こちらのイメージが膨らみ、ずいぶん思い入れを込めた審査をさせていただきました。
私はこれまでビジュアル化を全面に出して提案するということに慣れていませんでした。私は安全学の仕事をしていますが、この分野では社会制度や安全を図る仕組みをビジュアルに提示することがとても難しく、努力自体に関心をもってきませんでした。
ところが、逆にこういう目に見える形で問題を提起していただけると「あっ、これがこういう避難の安全を確保するための大きな手段になり得るのだな」というヒントを与えていただき、たいへん勉強になりました。そういう意味では、他の審査員の方と少し違った視点で見ていると思います。
今回は、特にコミュニティーがテーマに含まれていたり、サスティナビリティーがキーワードになっていたりしたものですから、同じ移動でも速さではなく、むしろゆっくりと漂うという提案の作品が多かったと思いますし、それは21世紀の社会に、速さと同時に多様なスピードのものが共存できたら楽しいだろうなと思わせてくれる提案でもありました。
今村 私も、このコンテストが3回継続していることが、プラスの方向に働いていると思っています。先ほど田中さんがおっしゃったように、このコンテストは、第1回、第2回と過去の蓄積があり、今年の応募者はそれを咀嚼して提案してきているので、回数を重ねていくことで中身の濃いものになっています。特に今回上位に選ばれた作品は優れていると思いました。
全体のレベルが高かったことも驚きでした。普通のコンペの場合、審査をするとまず8割程度は最初の段階で落ちて、残りの2割から1割で票を争うのですが、今回、票の集中が少なかったのは、優秀な作品が多かったためということができます。皆さんそれだけテーマに対してきちんと取り組んでアプローチしてくれていて、非常にいいコンテストになったと思います。今後もこうした形で続いて、より密度が高い作品が出てくる希望がもてる気がします。
地域コミュニティーという
テーマ設定をめぐって
今村 今回のテーマは「地域コミュニティーを活性化する未来の交通」でした。地域コミュニティーというと、地方都市の街づくりのような、大勢の人たちがまとまった時間を過ごす場所としてのイメージを思い浮かべがちです。しかし、若い世代の人たちや実際の都市の現状において、そういうことが現実にそぐわなくなっているように思います。
コミュニティーという点に関連してもうひとつ言っておきたいのは、昨年のコンテストでは、カプセルを中心とした案が多く出ました。カプセルというのはエレベーターからすると、すごく発想がしやすいのですが、一方ではカプセルは閉じた空間で完結して移動できる。そうすると、そこからコミュニケーションが発生しないという問題が出ました。
それに比べると、今回は数人で場所をシェアする形が出てきたのはいいことだと思います。ただ、数人だけのコミュニケーションではなく、もう少しその範囲を拡げられる可能性があると思いました。
小林 私も、大家族であったり、地域全員が町内会であったりという形には、必ずしもとらわれていないという感じを持ちました。例えば、最優秀賞の「東京水系2030」は川に浮かぶ乗り物で、つかず離れずの微妙な関係にあります。誰かそばにいてほしいけれども、密接にかかわるのは避けたいというところが感じられます。目的別に友人を使い分けるけれども、誰かしらとはつながっていたい、というのが若者のリアルなコミュニティーに対するニーズなのかもしれません。そういう点が作品にはすごく表れていると思いました。
原田 自分は古い人間なので、もう少しコミュニケーションの対象となる人間を増やしてほしい。なにも大人数である必要はないと思いますが……。
田中 昨年は、IT技術の概念がそのまま延長されたような案がすごく多かったように思います。いまコミュニケーションのメディアというのは、ITでかなりシェアされているところがあって、情報端末の上で知り合いを見つけたり、友だちと連絡を取り合ったりということがメインになってきています。
ところが今年の作品をみると、エレベーターなどによる移動を提案の中心に据えることで生み出せるコミュニケーションというのは、IT技術がシェアしているようなタイプのコミュニケーションとは少し別の方向に向かっているような気がします。優秀賞の「Endless Life Tree」のような死者とのコミュニケーションは、誰かと会話をするといった直接的なコミュニケーションとは別のものです。また、コミュニケーションの困難さのひとつは、何をきっかけとして始めるかということがあると思うのですが、「5.6kmの移動菜園」は植物や菜園が最初のきっかけになる、ということですね。
コミュニケーションの未来については、いまの学生のほうが真剣だと思います。応募作品を見ると、具体的に踏み込んでこれまでのコミュニケーションに足りないものを補完しようという意志を感じました。

