2009年授賞式
夢と現実の未来交通をめぐって(1)
〜応募作品を受賞者が解説する〜
若く柔軟な想像力が生み出した夢のあるアイデアで受賞を果たした学生たち。一方、リアルな現場で日々仕事と真剣に向き合っている東芝エレベータのエンジニアたち。普段交流することのない両者が、同じテーブルを囲んでエレベーターやエスカレーターの未来について語り合った。
受賞作品を
振り返って
司会 授賞式お疲れさまでした。そして、おめでとうございました。まず、受賞者の皆さんの自己紹介からお願いします。
常名 杉木君と二人で「東京水系2030」を提案しました早稲田大学院の常名慶一郎です。このコンテストは、建築と移動ツールをつなげるという応募テーマの切り口が斬新だったので今回の応募を決めました。
僕たちの作品では、自走式水系浄化装置〈KURAGE〉を使って、水質汚染の原因のひとつである有機的な廃棄物をエネルギーに変換し、そのエネルギーを人の移動にも、〈KURAGE〉自体の移動にも使えて水を浄化していくツールを提案しています。
杉木 常名君と「東京水系2030」を共同制作した早稲田大学大学院の杉木勇太です。補足すると、江戸の都市基盤であった川を〈KURAGE〉で再生させ、その周りに人が集まることでコミュニティーも生まれてくると考えました。
荻生 宮城大学大学院の荻生隼太郎と申します。
このコンテストに応募した動機は、未来という漠然とした空想的なことと、エレベーターという現実的な話との組み合わせから、何か面白いことができるのではないかと考えたからです。
私の作品「Endless Life Tree」は、生命の木のようなものを地方都市に作るという提案です。地上部に緑や自然環境の場を作ることで、生きている人たちが集まり何か行動を起こす場とし、地下には墓地を設けることで故人の記憶をつなぎ止め、今後そこで暮らしていく人たちにも、過去に生きた人の記録や地域の思い出などが提供できればと考えました。
峯村 日本大学の峯村祐貴です。
日本では、高度成長期から、郊外のニュータウンの建設により、ドーナツ化現象が続いてきました。しかし近年、都心回帰が起こり始め、将来は都心部への人口の高密度化に伴う建築物の高層化が予想されます。それに伴い、地面というグラウンドレベルが建築物の影に覆われて暗く、植物も育たないような住環境の悪化や、コミュニケーションの低下が考えられます。そこでエスカレーターを使って移動することで、採光を得て成立する菜園「5.6kmの移動菜園」を考えました。
田中 芝浦工業大学大学院に在籍しております田中慎一です。
私は去年、大学の卒業設計でエレベーターを使った広場を考えました。今回、エレベーターのコンペがあるということで、自分がそのとき考えたエレベーターの可能性にもう一度挑戦してみようと、参加しました。
応募作品の「elevator park」で舞台に選んだ場所は、東京駅の丸の内口です。東京駅界隈は地下通路がかなり張り巡らされています。エレベーターもありますが、あくまでも道筋の一部分です。商業施設もたくさんあるので、エレベーターをフル活用し、上下の移動を自由に行いながら行動していくことで、もっと楽しく過ごすことができないかと考えてみました。
荒井 芝浦工業大学大学院に在籍している荒井拓也です。同じく、大学院の野口直樹君と梅澤祐介君の3人で作品「Moses〜どこまでも歩いていくということ〜」を応募しました。
最初、エレベーターが建築とそれほどかかわりがあるのかと思ったのですが、考えれば考えるほどつながりが多く、そこに「未来」を重ね合わせたときに、建物単体ではなく都市規模で人の日常的な使い方や生活の仕方にまで関わってしまうという点に興味を引かれました。
梅澤 ビルを歩いてしまうという突飛な提案で、最初は自分たちでも現実には無理だろうと感じていました。
野口 最終的にどういう装置を考えたかというと、タイトルにある“モーゼ効果”を使用しました。モーゼ効果とは、水が磁石に反発する性質のことです。人間の体も約2/3は水分でできている、それならモーゼ効果を利用して人間を浮かせようということを考えました。
受賞作品に対する
エンジニアの声
司会 では次に、東芝エレベータのエンジニアの方々に自己紹介と、受賞作品に対する率直な感想をお願いします。
芳賀 設計部で意匠構造設計を担当している芳賀和博です。
私は機械工学科の出身で、都市開発を全般的に見るという視点がなかったものですから、どの応募作品を見ても面白く思いました。元来エレベーターは上下移動するための機械ですが、受賞作品は都市全体を巻き込んで、垂直方向に限らずいろいろな方向への移動や、街そのものをつくるというアイデアにまで発展していて、これからのエレベーターに対する期待がそれほど高いのかと思うと、今後の自分の仕事に対してプレッシャーを感じます。
特にハッと思ったのは、峯村さんの授賞式での一言でした。高層ビルによって日陰ができてしまって街全体が暗くなっている。だから、エレベーター、エスカレーターを使ってグラウンドレベル変えることで改善しようという視点は僕にはなかったものですから、正直うれしいショックでした。
小川 小川哲です。開発部の機械開発という部署に所属しています。
実際に仕事をしているとなかなか現実的なところから離れられないのですが、エレベーターを上下移動の道具だけではなく、居住空間の中で考えたり、人以外のものを移動させたりと、私ももう少し夢のあることを考えなければいけないと、改めて思ったところです。
早川 品質保証部信頼性評価センターの早川秀一です。
仕事では、エレベーターを安全に、かつ止めないで運転することが要求されますが、今回の受賞作品は、仕事も生活もせわしない都市で、いかにゆったりと過ごせるかという方向に視点を変えている作品が多いことから、今後はそうした方向性も視野に入れて商品を考える必要があるのかなと感じました。
いまは省エネ対策でエレベーターが止められることもあります。このコンテストで、エレベーターが前向きな都市のインフラだということを、もっとアピールできたらと思います。
菅野 設計部の電気設計に所属している菅野祥伸です。
海外では建物全体のシステムを考えて、それに応じたオペレーションを提案することがあります。今回発表された作品はエレベーター単体ではなく建物全体の中、また都市の一部として考えられているので、とても参考になりました。
曽我 開発部の電気開発担当の曽我宗則です。
私はもともと電気工学出身なので、建築という視点でエレベーターを見たことはありませんでした。日常業務のほかに特許を取ることも私たちの重要な仕事のひとつなのですが、そのためには自由な発想が必要となります。今回、受賞5作品を見せていただいて、街を含んだ移動手段のアイデアもあるということを知りました。このような柔軟な考え方を日々の仕事の参考にしたいと思いました。

