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今回、リニューアル探検隊が向かったのは、海産物がおいしいことで有名な富山県氷見市。1937年創業の老舗旅館「永芳閣」は氷見の魚を堪能できる宿として名が通っている。この地を400年ぶりの大地震が襲ったのは3月25日だった。地震時管制運転装置を装備したエレベーターにリニューアルしていた永芳閣は、地震の被害を最小限に食い止めることができた。
 
 

■平田 淑江氏
永芳閣
取締役
女将

 

 能登半島の玄関口にあり富山湾を望む氷見市は、寒ブリをはじめ魚がおいしい土地として知られている。その氷見浜の魚を中心とした手作り料理で人気の宿が「永芳閣」だ。1937年創業、70年の歴史を持つ老舗旅館である。3代目女将の平田淑江さんは語る。
 「氷見の魚は日本一。ここでは1年中いろいろな魚が楽しめます。そのため”魚めぐりの宿 永芳閣“と名付けたのです。『おいしかった、来てよかった』と思えるようなほっとできる旅館でありたいですね」
 永芳閣は「ホテル海光」(客室38室)と「旅館天遊」(客室19室)の2棟から成っているが、78年竣工の海光は5階建てで、お客さま用エレベーターが2台ある。
 この2台の制御リニューアルを実施したのが2004年12月のこと。なぜ、リニューアルを決断したかといえば、ちょうど、同じ年の10月に新潟県中越地震が発生し、最大震度7という激しい揺れを観測したからだ。平田さんは「永芳閣も何とかしなければならない」と思った。
 「阪神・淡路大震災のときには身近に危機感を感じなかったのですが、新潟県中越地震ではいくら天災とはいえ人間の力でやれることはやっておくべきだと思いました」
 そこで、平田さんは「地震時管制運転装置」と「停電時自動着床装置」の導入を最優先し、制御盤、モーターなどを交換する制御リニューアルを行った。
 
■エレベーター・5階ホールとかご室
かご室内は化粧シートのみを張り替え、光天井は既存のものをそのまま使用した。グレイの化粧シートが白い光天井とマッチしてシャープで清潔な印象を与える。
 
 このリニューアルが、今年力を発揮することになるとは平田さんも想像しなかったろう。3月25日午前9時42分、マグニチュード(M)6・9の大地震が能登半島を襲った。氷見市の隣の石川県七尾市では最大震度6強を記録。M7クラスの地震は過去400年間、この地域で起きたことはなかった。それだけに能登半島では地震への警戒感が弱くなりがちだった。
 氷見市も震度5弱の揺れに襲われたが、幸いにも永芳閣では施設への被害はなかった。リニューアルしたエレベーターも地震時管制運転装置が作動し、無事に役割を果たした。地震発生当時の午後早くには、東芝エレベータも永芳閣に駆けつけて運転を復旧させた。 「宿泊施設の根本を突き詰めたとき、やはり安心と安全は最優先するべきものだと思うのです。お客さまがさりげなくお泊まりに来られて、さりげなくお帰りいただける。それが宿としての最低限の機能だと思います」
  平田さんはエレーベーターの閉じ込めが発生したときのために、救出訓練も受けている。閉じ込めからの救出作業は危険が伴うため、東芝エレベータでは緊急性の高い建物と責任ある立場の管理職にしか訓練のサービスを提供していない。
  これも安心安全こそが第一という隠れたサービスに気を遣う平田さんの姿勢の現れだ。
  「安全やリニューアルは1回やったら終わりというものではないと思います。人間が毎日、お風呂に入って垢を落とすように、絶えず新陳代謝を繰り返していかなければなりません」
  地震時管制運転装置も停電時自動着床装置も、見た目にはリニューアルしたか否かは分からない。だが、宿泊客の安全に心を砕く女将や従業員の気持ちはきっと肌で感じることができるはずだ。
■エレベーター・本館1階ホール
インジケーター、のりばドアなどはリニューアルせず従来のものを使用している。

  ■かご操作盤
リニューアルによりユニバーサルデザイン対応となった。
ボタンの数字が立体的になっているため、視覚障害者のお客さまでも触れることでボタンの内容が理解できる。

 
永芳閣
1937年創業。初代は料理人だったため、天然の生け簀と呼ばれる富山湾の魚が食べられる「魚めぐりの宿」として人気を呼ぶようになった。女将の平田さんは自らブログも書いている。
■住所:富山県氷見市阿尾3257 
■TEL:0766-74-0700
■URL:http://www.eihokaku.com/



 
  建築の視点から見ると、エレベーターホールの表情が1階と2階、そして5階で違うのは面白いですね。2階の大広間に面したエレベーターホールも興味深いです。また、かご室に目を移すと、今回のリニューアルで張り替えた化粧シートがシャープでシンプルな印象を与えます。各階の案内などはエレベーターホールに掲示し、かご内部はすっきりとまとめています。天井はリニューアル前のものをそのまま使用しているとのことですが、照明部分が大きいため、かご全体が明るく見えます。かご内部ですが、リニューアルに際して、操作盤はバリアフリー対応になっていますが、手すりなどの設備は追加されていません。これは、お客さまの状況を細かく把握し、仲居さんによる手厚いサポートが期待できる旅館ならではです。設備ではなく人の手でケアすることで、お客さまに対する細やかな心遣いを見せられるとともに、手すりなどでかご室内を狭くすることなく、すっきりとしたかご室を十分に生かすことができます。こちらのエレベーターは6人乗りということもあり、最近は、旅行にキャリーバッグを利用する人も多いので、かご室を広く活用できることは大切なことだと考えます。
 今回のリニューアルの中心は地震時における安全対策が中心だったとのことですが、このような制御関係のリニューアルは目に見える効果が少ないため後まわしにされがちです。安全を第一に考える女将さんらしいリニューアルだと感じました。
 また、永芳閣では、アートイベント「Himming」などをはじめ、積極的に社会性を持つイベントに参加しているとのこと。全国から集まるお客さまに、細やかな心遣いと氷見のおいしい魚、そして温かみのある旅館で、これからも癒しのひとときを提供してもらえたらと思います。(談)

■隊長 篠ア正彦
東洋大学工学部建築学科准教授。 1968年東京都生まれ。
専門分野は、建築計画と環境行動研究。特に、都市での生活様式と住居、施設の関係を研究している。現在、ベトナムにおける集合住宅の調査研究を進めている。
■隊員 山田花子
篠崎先生の研究室でベトナム建築を学ぶ。趣味はピアノとフルート。

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