今村 コンテストを終えて、まずはみなさんから一言ずついただけたらと思います。四方さんからいかがですか。 四方 短期間にたくさんのいいものが集まったな、というのが最初の感想です。特に最後に残った3つの作品(注1)はお互いに似ておらず、方向性という点でもユニークなものがあったと思います。 今村 10作品それぞれが自分たちの伝えたいことを短い時間のなかで整理し提案してくれたことに、僕も審査員として嬉しく思います。 審査の最初に横矢さんから、どの提案も安全面に問題があるとのご指摘がありました。安全というのは事故が起こってから初めてこれは問題だと気づくもので、前提としてはなかなか目を向けにくいところがあります。特にこうしたアイデア・コンテストの場合は、それぞれがいままでにないものを作ろうというスタンスに立つので、安全という面は抜け落ちやすい。ただ、そこで割り切ってしまわないで、子どもが乗るときに危険がないようにするにはどうしたらいいのかなどを、課題の設定を工夫することでみんなのアイデアを引き出せるプログラムを作っていけたらと思います。 原田 自分自身がエレベーターに携わってきた者として、コンテストを通して大学生の方たちに真剣にエレベーターについて考えていただき、たいへん嬉しいというのが本音です。 全体的に見ると環境や心のやすらぎというような現代的視点はどの作品にも入っていると思われました。ただ、いま言われたように、我々が切実に感じているのが安全の問題です。乗り物としてお客さまを運ぶときにいかに安全に運ぶか、この点を我々は最も重要な課題として考えています。来年以降は提案のなかにそうした視点も入れていただけるといいと思っています。 アニリール 私は未来を想像することは楽しいことだと思っています。このコンテストで作品を準備してくださったみなさんにもそのきっかけをつかんでいただけたのではないでしょうか。 今回は10年後の社会というテーマ設定がありましたが、10年後の未来がいまとものすごく変わっているかといえば、私は必ずしもそうは思いません。現在使われている技術のベースは第二次世界大戦の時代に開発されたものですが、それが今後変わっていくかというと、そうではない。何故ならエレベーターも含めて、大方のものはすでにプライオリティが決まっているからです。それを変えようとすると、大幅にコストがかかるでしょうし、社会的にも難しいでしょう。むしろ、今回のコンテストは実際にこれを作るというよりは、考える機会を作ること、意見を出し合うことの方が大切で、それが新しい技術を生むきっかけになれば面白いと思っています。 横矢 将来的に子どもに生かせる、実生活に生かせそうで楽しみなアイデアが多くあったので、このコンテストに参加できてよかったと思いました。 ただ、私は子どもの安全を守るという立場にありますので、エレベーターの事故や犯罪、あるいは災害時に未来のエレベーターはどう対応できるのか、その可能性に期待しています。
今村 都市のなかで移動手段がますます速くなるということは、ビジネスマンには使いやすいけれども、その反面、高齢者が使いやすいとは言えない。子どもの安全面も大切ですが、そうした高齢者の問題も今後考えていく必要があると思います。 四方 インターネットが世界中に普及しましたが、インターネットの場合はどこかのラインが不通になっても別のラインに代替可能です。つまり中心がないようにしておくことで、全体的なシステムは破綻を免れるような仕組みになっています。1つの状況が駄目になった場合に、バックアップを作っておいて、それを使う。子どもの事故に関して単純には当てはめられませんが、そういうことも考えるヒントになるかもしれません。フレキシブルなシステムを作っていくというのは、これからの前提だと思うんです。ハードウエア、ソフトウエアの両面から、そうした方向性を考える必要があります。 原田 従来のエレベーターは、地震が起こるとまず止めるという考え方が基本でした。しかし、これからは新しい技術を使うことによって、地震などの災害時にも、エレベーターを安全に動かせないだろうか、むしろ災害時に動かすことで人々を救っていけないだろうかという方向にいま我々の研究は向かっています。 四方 いまは人間が機械のスピードに合わせざるを得ない状況になってしまっています。機械の処理スピードは速い。それに人間が合わせていくと人間の方もどんどん速くなってしまいます。歩く速度も速いし、精神的にも余裕がなくなってきています。今回たくさんのプランがありましたが、人間のペースは均質じゃないという面から、いろいろな速度、さまざまな身体をもっている人がいるという前提で、どうすれば安全に使ってもらえるのかということを考えていくことも重要ではないかと思います。 原田 実際、そういうニーズも増えています。駅のエスカレーターの例で申し上げますと、朝の混雑時には動くスピードを速くしたいわけです。ところがお昼時はお子さまやお年寄り、身体の不自由な方もお使いになる。その時間にはスピードを遅くする。エレベーターの場合ですと、扉の開閉速度を速いときと遅いときで使い分けしていく。こうした制御可能なエスカレーター、エレベーターは一部で使われていますけれども、まだまだ充分な状態ではありません。 横矢 場所によると思うんです。これはエスカレーターの場合ですが、あるところでスピードが速いと事故が起きるから、ゆっくり動かしましょうという実験をしてみたら、今度は走る人が増えてしまって危険度が増したという例もあります。 それとは別ですが、エレベーターは犯罪面から親が乗せたがらない。そのイメージを変えられるような大きな転換が欲しいですね。 原田 現在でもテレビ・カメラがついているエレベーターはあります。通常管理人の方が見ておられますが、四六時中監視しているわけにはいかない。そこで画像処理技術を使って、エレベーター内で人が暴れた場合、最寄りの階に止まって扉を開けたり、大きな音を出すものがあります。コンピューター技術を使って危険を回避する、そういうことも今やろうとしています。 横矢 いろいろ研究はされているんでしょうけれども、もう一歩何か斬新なアイデアをこうしたコンテストに期待したいですね。 原田 子どもが安心して乗れるエレベーターということですね。たしかにまだまだエレベーターはお子さんが一人で乗られるには多くのリスクを持った乗り物だと思います。女性に関してもそうですが、安心して乗れるエレベーターは、我々の夢でもあるんです。 今村 エレベーターに対する要求は、日本と諸外国では違うんでしょうか。 原田 乗り心地という面から言いますと、日本のお客さまは、音や振動に対して非常にシビアです。欧米では昔からエレベーターを使っているので、ある程度の振動や音は、機械はそういうものだとの認識があるので、強く要求はされません。ただ最近では、欧米にもいい製品は増えてきています。また、責任という面で、欧米社会は個人の責任、管理者の責任、メーカーの責任、この三者が長い歴史のなかではっきりと区別されています。