FUTURE DESIGN and NAVI
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エレベーターの階数表示や扉の開閉など、機械を操作するためにボタンは不可欠です。日常生活での使い勝手に直結するこの部分は、日常生活での使い勝手からお年寄りなどにも使いやすい操作を目指した試みなど近年注目を集める分野です。人に優しいインタフェースを考えてみました。
 

柏木 博氏
1970年、武蔵野美術大学産業デザイン学科卒。編集者などを経て、1983年から東京造形大学にて教鞭を執る。大学教授職と並行して、デザイン評論家としても活動する。その間に著書多数出版。1996年、武蔵野美術大学(近代デザイン史)の教授に就任。その他、企業や展示の監修も務める。2004年現在、武蔵野美術大学教授。企業デザインアドバイザー。

 私たちの周囲にある、さまざまなボタンは、ON/OFF式のものからスタートする。ボタンが凹んでいれば接触しているのでオン、出っ張っていれば接触していないのでオフという仕組みだ。長く、この方式が採られてきたが、電気信号を送る方式が考え出され、ボタンに画期的な変化が生まれた。物理的にボタンを押し込む必要がなくなったうえに、もっとたくさんの種類の信号を送ることができる装置へと変質したのだ。
 方式が変わることによって、ボタンは従来の姿からよりスマートなものへと進化した。プッシュ式やダブルノック式など、さまざまなボタンが誕生。同時に、ボタンは家電やIT製品のインタフェースとして、生活のあらゆる場面に増殖し、現在、ボタンに触れずに一日が終わることはない。
 一般的に、ボタンは使いやすく機能性を高める方向へ進んでいるが、その反面で、わざと使いにくいままにされているボタンもある。線路の切り替えポイントは、簡単には動かせないようになっているし、ビルの壁についた非常ボタンにはカバーが掛けられている。これらは、ボタンの役割から よく考えて 使うようにという、警告の意味合いがある。
 ダブルノック式のように、登場したものの現在ではほぼすたれてしまったボタンもある。しかし、ごくメジャーな家電に、この方式と似たボタンの姿を見つけられる。それが携帯電話だ。携帯でメールを打つには、一文字のために多いときで6回もキーを押さなければならない。非効率的なやり方に思えるが、実はそうとも限らない。多くの人は、小学校で五十音表を学ぶ。この情報は、非常にプリミティブ(基本)な記憶として、私たちの中に存在している。携帯での入力は、五十音表の記憶に沿って行われるのだ。
 仕組みとして、古い機械の名残を持っているボタンもある。パソコンのキーボードは、タイプライター時代の記憶のせいで、キー配置をずらして作られている。ずれたキーの記憶を持つ私たちは、その方が押しやすいと感じてしまう。
 こうしたことが起きるのは、私たちが持つ※アナロジーへの嗜好のせいだ。人間は異なる2つのものに共通性を見い出し、同じものとして扱うことによって、素早く操作を覚えたり、安心感を持つ傾向がある。比較的新しい時代に現れた機械式のボタンであっても、人間のアナロジー嗜好と無縁ではいられない。
 例えば、ボタンを押すと何かの反応があるのも、機能をボタンのアナロジーに寄り添わせたものだ。ボタンがプッシュ式に変わることで、凹凸の形状でオンとオフを見分けることはできなくなった。押したのにボタンに変化がないと、利用者はオンにできなかったのだと思って不安になる。ボタンは押したら変化があるものだと思っているからだ。だから、ライトがつく、音が鳴る、画面が変わる、手応えがあるなど、今では押すとオンになったことを利用者に伝えるボタンが増えることになったのだ。
 一時期、ある種のボタンは多機能化への道をたどった。ビデオでは、1つのボタンで複数の操作をすることができたが、現在、市場では単機能のボタンを並べたリモコンが目立つ。リモコン操作は、すでに私たちが持っている記憶だ。1つの複雑なリモコンより、同じような幾つもの単純なリモコンを使った方がわかりやすいし、便利ということになる。
 この流れの中で、ボタンはどう変わっていくのだろうか。未来のボタンとして、機能やデザインだけではなく、 操作する快感 が新しいテーマになるかもしれない。人間の身体性と精神性には強いつながりがあるが、私たちは、ふだん感じている 日常生活における心地よさ を記録も確認もしていない。たくさんの心地よさの記憶を整理していくと、その1つとして 押したときのボタンの快感 も見えてくるだろう。
 押して気持ちの良いボタンの研究は、未開拓の分野だ。ボタンは世界中に多くのバリエーションがあり、それぞれが固有のデザインと機能性を持っているものの、成熟した文化だとは言えない。
 オンとオフのボタンから始まり現在まで続く歴史で、私たちの中にはボタンのアナロジーが形成されている。その実態を知り、人間にとってどんな感触が快感なのかを解き明かすことで、ボタンは 押して気持ちのいいボタン に進化する可能性を持っている。(談)
※アナロジー 類推。異なるものの同士の共通点から、あるものを推理すること。

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