FUTURE DESIGN

FUTURE DESIGN 2006 vol.6

 
 
今後数十年単位で都市型大規模地震の発生が予測されるなか、わが国の災害対策では具体的に何が進められているのか。特に、国の中枢機能を直撃する首都直下地震に対する取り組みを例に見てみよう。


図表提供:内閣府(防災担当)
 1995年の阪神・淡路大震災を直接のきっかけとして、わが国の防災対策、特に大規模地震への対策が進展してきた。2001年の中央省庁再編では、内閣府が政府全体の防災行政の連携を確保することとなり、「防災担当大臣」も新設された。
 もし災害が発生した場合、国や地方公共団体は、まず被害状況やその規模などの把握と応急対策体制の確立に努める。具体的には災害対策本部を設置し、避難勧告、被災者の救助、緊急輸送の確保、公共施設の復旧などを行う。
 一方、国では各省庁の代表が総理官邸に集まり、被災地の情報や地域被害早期評価システム(EES)を使って被害を推計、内閣総理大臣に基本方針を仰ぐ。地方公共団体の手に余る大規模災害の場合には、警察庁、消防庁、海上保安庁による広域的な応援が行われる。都道府県知事の派遣要請で自衛隊が出動する場合もある。

■震度分布

  ■液状化による建物被害





 こうした災害の中でも、現在最も懸念されているのが、首都直下地震である。今後200年以内に、首都周辺でM7クラスの大規模地震が数回発生するとされているのだ。もし東京湾北部でM7・3の地震が発生した場合、最悪で死者が約1万1000人、倒壊・焼失建物が約85万棟、復旧費用と経済損失の合計額が112兆円にまで達するという。
 中央防災会議は昨年9月、「首都直下地震対策大綱」を決定した。これは首都直下地震の被害を最小限に留めるためのマスタープランであり、国や自治体には建築物の耐震化や火災対策への環境整備、企業には、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定などを求めている。大綱によれば、首都の中枢機能を維持するために、国はおおむね2時間以内に、緊急災害対策本部を設置し、アナウンスを発表することになっている。
 また、都市機能の回復まで最速でも3日はかかるという専門家の判断に基づき、最低3日間分の非常用電源や食料を各機関、事業所ごとに確保することを求めている。企業や学校には、従業員や生徒らが一定期間過ごせるよう、食料の備蓄や家族への安否確認態勢をとることを求めている。
 避難所生活者は400万人以上と、阪神・淡路大震災(30万人)の10倍以上になる見込みだ。そこで避難所だけではなく、都内で約67万戸あるという空き家や空き部屋の活用、ホテルの利用なども想定されている。また、帰宅困難者は一都三県で約650万人。これだけの人数が移動するとかえって救急活動の妨げになるために、基本方針としては「むやみに移動を開始しない」ことを周知徹底するように求めている。



■都心部における焼失棟数の分布

  ■都心部における揺れによる全壊棟数の分布




今後の防災・危機管理の戦略には何が必要か?
「ICS」に基づくシステムの有効性に注目が集まっている。



 林 春男氏
 京都大学 教授
 防災研究所巨大災害研究センター
 センター長


 阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、鳥インフルエンザ……。さまざまな予想外の危機が頻発する中で、「どのような危機にも対応できる」一元的で包括的な危機対応システムづくりが求められている。しかしわが国では、こうした多様な危機に対して、各機関がそれぞれ縦割りで独自の危機管理を行っているのが現状だ。
 一方、米国を中心に欧米諸国で発達したのが「ICS(Incident Command System‥緊急時指令システム)」の概念に基づいた危機管理システム。ICSとは災害時に各機関がスムーズな協力体制をとるために、手順や指揮系統などを細かく標準化したものである。
 ICSの基本的な考え方では、組織の機能を指揮調整(Command)、事案処理(Operations)、資源管理(Logistics)、情報作戦(Planning)、財務管理(Finance)の5つに分け、この原則に沿って対策を講じる。
 ICSの大きな特徴として、危機の規模や原因を問わず効果的な危機対応ができる組織運営ができることにある。
 それは、関係するすべての組織が、危機対応に必要となる活動を5つの機能の集合体としてとらえる標準的な危機対応システムを共有することにより実現している。
 さまざまな原因による危機の違いは、事案処理部門が扱う活動の違いとして処理するため、危機対応の構造そのものは、どのような原因であれ変化しないようになっている。
 京都大学防災研究所の林春男教授は、日本の危機対応体制へのICS原則の導入を訴えている。林教授は、災害復興が発動する機会がまれであるにもかかわらず、復興戦略の有効性は「実際に災害対策本部を経験した人材にしかわからない」というジレンマを指摘する。その上で、平時の対応システムにもICS原則を反映させておくことで、ICSの考えに慣れ、有効性を確認しておくことが重要だとしている。


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