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株式会社太平洋シルバーサービス
 
 
  ■シルバーシティ石神井 外観
現在、全国で1000前後の施設があるとされている有料老人ホーム。なかでも太平洋シルバーサービスは、「都市型」の介護付有料老人ホームをテーマに、東京都内のJR・私鉄沿線に全7館の老人ホームを展開している企業である。今回は東京都練馬区にある「シルバーシティ石神井」を中心に、老人ホームにおけるエレベーターの安全とセキュリティーについて伺ってきた。
 
  ■代表取締役 理事長
 馬島 茂氏
 
  ■シルバーシティ石神井
 園長
 原澤 芳男氏
太平洋シルバーサービスの手がける「都市型」の介護付有料老人ホームとはどのようなものか。まずは代表取締役理事長の馬島茂氏に、第1号の「シルバーヴィラ哲学堂」(東京都中野区)がオープンした当時を振り返りながら説明していただいた。
 
■シルバーシティ石神井ロビーから中庭を臨む
 
 「1984年当時、一般には公的な老人ホーム(老人福祉法で定められた老人福祉施設)が多く、有料老人ホームは元気なお年寄りが高いお金を払って悠々自適に生活する場所、というイメージでした。しかし私には、郊外の豪華な有料老人ホームは、静かですが刺激がないように思えたのです。そこで私たちは都市型の有料老人ホームを提案し、その利点として、ご家族や社会との交流、医療機関をはじめとする社会的インフラとの提携を打ち出しました。ご家族の面会が多いことは私たちの自慢でもあります」
 現在、一館当たりの定員はおよそ50〜60人程度。また入居者の平均年齢は87歳弱で、うち女性が85パーセントを占めるという。
 「きめ細かいお世話が私たちの売りですから、あまり大きな施設は作れません。私たちはハードではなくソフト、人材育成に力を入れていると言いましたら、あるお客さまいわく『おたくの売りは"ハート"だよ』と」

 
  ■シルバーシティ石神井
 副園長
 堀川 俊美氏
 
  ■シルバーヴィラ石神井
 園長
 上野 チイ子氏
 今回伺った「シルバーシティ石神井」は、1992年のオープン。閑静な住宅街の一角にある。同社が運営する他の6つの「シルバーヴィラ」に比べ、居室・共有スペースを広く、付帯設備を充実させたのがこの「シティ」だという。
 シルバーシティ石神井園長の原澤芳男氏に案内していただいた。
「入居者の方が趣味を通じて交流できるよう、ギャラリー、図書室、茶室といった施設を設けてあります。ここでは、専門家をお呼びしてのサークル教室のほか、毎月1回コンサートも開いております」
 
■エレベーターを利用する際には、職員が必ず介添えする
 
 建物は中庭をぐるりと囲んで、東西南北に大きなガラス窓が面する設計。対角線上にそれぞれ配置された階段とエレベーターもガラス張りのシースルー仕様で、高齢者とヘルパーが館内のどこにいるかがお互いに一目でわかる。
 「基本的に、入居者の方がお部屋に閉じこもらず、他の方と交流していただけるようにプログラムを組んであります」(シルバーシティ石神井副園長 堀川俊美氏)
 食堂が1階にあるため、入居者は食事のたびに、2、3階にある居室との間をエレベーターで往復する。大浴場やサークル教室への移動も含めると、エレベーターはなくてはならない館内交通の要だ。
 運行速度やドアの開閉は、高齢者が乗りやすいように、非常にゆっくりと設定されている。また乗り降りの際には必ず職員が付き添い、ボタンを押したり、お迎えをするという。
 「基本的にうちのエレベーターは小さくて、病院用のようなストレッチャーも余裕で入るようなものではありません。しかしその不自由さが、必ず人手で案内するという温かさにもつながっています」(馬島氏)
 シルバーシティ石神井は入居者と地域住民の方々との協力関係を重視し、季節ごとに防災運動や農作物の即売会などを催したり、1階のギャラリーを無料開放したりしている。またシルバーヴィラ石神井では、地域の中学校の「ボランティア部」から、中学生が囲碁を打ちにくるという。
 「実のお孫さんのように交流できて、とってもいいですよ。入居者の方の表情がぱっと明るくなるんです」(シルバーヴィラ石神井園長 上野チイ子氏)
 こうした積極的な交流の一方で、気になるのがセキュリティー面だ。館内のカメラやモニター、館外の侵入者センサーについては、事務所とフロントで管理している。また入り口は自動ドアだが、開閉は職員が確認後、フロントで行う方式となっている。これにより、外部からの不審者の侵入を防ぐことはもちろん、職員が知らない間に、認知症(脳や身体の疾患を原因として、記憶や判断力などの障害が起こり、通常の社会生活が送れなくなった状態)の方が館外に外出するのを防ぐ役割もある。やはり人の目に勝る安全装置はないようだ。
 「必ず職員が手と声で確認します。それが私たちの考える"ハイタッチ・ハイケア"の一つだと思っております」(原澤氏)
 防災にも力を入れている。毎月「防災の日」を決め、管轄の消防署員を呼んで、避難訓練や防災のビデオ上映などを行っているという。
 「エレベーターだったら、緊急時は全部の階を押すとか、途中で止まったらどうすればいいか、ということも訓練します」(上野氏)
 これまでなにかトラブルはなかっただろうか。
 「おかげさまで特にありません。管理者としてはありがたいことに、東芝エレベータさんは地震があると確認の電話をかけてきてくださいます。また少し大きな地震の場合には、すぐに作業員の方がやって来てくださいました」(原澤氏)
 館内交通の要とはいえ、エレベーターは1台だけ。月に1回のメンテナンスにも気を遣う。
「エレベーター会社から1カ月前に日程をいただいて、お客さまには入居者懇談会でメンテナンス日を呼びかけたり、館内の掲示でお知らせします。メンテナンス中にどうしても階と階の間を移動しなければならないことが起きた場合には、外の非常スロープを解錠し、スタッフが付き添って車椅子でゆっくり移動していただく場合もあります」(原澤氏)
 入居者懇談会は社団法人全国有料老人ホーム協会の指導によるものだが、通常は3カ月に1回のところ、シルバーシティ石神井では毎月開催している。これが入居者の意見を聞くという本来の目的のほかに、各種催事のお知らせの場としても機能している。
 今回の取材で印象的だったのは、従業員の数の多さだ。すぐ見える位置に人がいる安心感は、代え難い価値だろう。馬島理事長に、今後について伺った。
「現在は当社の8号館を企画中です。東京都の有料老人ホームは、2000年には50程度だったものが、いまでは200以上もあります。われわれも20年の歴史に甘んじてはいられません。一方この仕事はモラルの面も大事。利益追求だけにとらわれないよう、今の路線を続けていければと思います」



2000年の介護保険の登場以来、有料老人ホームの状況は劇的に変化しつつある。日本における有料老人ホームの歴史と今後の状況を中心に、多様化する老人福祉サービスの現状について、社会福祉学の研究者である白澤政和教授に解説していただいた。

 1963年の「老人福祉法」によって、現在主流の「特別養護老人ホーム」である、公的な老人ホームができました。一方、お金のある人が自費で入る「有料老人ホーム」についても定義されました。
 2000年4月に始まった「介護保険」によって、有料老人ホームの状況は急激に変化しました。入居者の介護が必要になった場合、有料老人ホームでも、都道府県から「介護保険特定施設」の事業者指定を受ければ、入所者は介護保険を利用し、1割の自己負担で介護を受けられるようになったのです。これにより入居料自体も安くなり、有料老人ホームが一般化し、施設数も急速に増えていきました。
 さらに今回の改正で、一方の特別養護老人ホームでは、食事代・光熱費などを「ホテルコスト」として全額自己負担するようになりました。こうなると、ひと月あたりの支払い額だけを見れば、有料老人ホームと特別養護老人ホームの差はあまりなくなってきています。このようなボーダーレス化の結果、有料老人ホームを選ぶ人が増えつつあります。
 有料老人ホーム自体も、従来のような豪華なものからリーズナブルなものまで二極化しています。駅から近い、都市型志向の有料老人ホームも、2000年以降は圧倒的に増えています。
 また2006年4月からは、30床以下の小規模な施設については、都道府県ではなく市町村が「特定施設」指定を行うようになります。その代わり、その市町村の人しか使えなくなります。有料老人ホームも住み慣れたコミュニティーの中に位置づけられるようになっていくことが予想されます。制度とともに、老人ホームの形態も変化していくのです。
■大阪市立大学大学院教授
 白澤 政和 さん

1949年生まれ。大阪市立大学大学院生活科学研究科修士課程修了。現在は大阪市立大学大学院生活科学研究科教授。日本在宅ケア学会副理事長、日本ケアマネジメント学会理事などを務める。社会学博士。著著は『ケースマネジメントの理論と実践』(中央法規出版)、『介護支援専門員のためのケアプラン作成講座』(環境新聞社)他多数。

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