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村松 伸 (建築史家・東京生産技術研究所助手) × 淺川 敏 (写真)
一見、ここには何も変わらぬ東京という都市が広がっているように映る。「失われた10年」と揶揄される日本は、でも「失った」から得たものもある。それは低成長の智恵である。ゆっくりと大地の下で胎動する東京の建築の姿を追った「建築ニューウェイブ」東京編の第2弾。
六本木ヒルズは都市の景観を変えた
4月22日夕刻、久しぶりに六本木に向かった。数年前までこの町の真ん中に職場があったから、六本木、乃木坂は自分の庭だった。細い路地にある小さなバー、開店したばかりの新しいレストラン、そんな場所を、情報ではなく、歩きながら身体に刻みこんでいったものだ。ぼくがこの六本木という街に親しんでいたのは、バブルが真っ最中の80年代末期から約10年間だった。
それがどうだろう。地下鉄の乃木坂駅から出ると風景が一変していた。方角さえもわからない。第一、以前の職場はナショナルギャラリーができるとかで、さら地になってしまっている。防衛庁も移転し、地下鉄の新しい駅が開通していた。ふと南の空を見上げると、六本木ヒルズが巨体を現している。この日、六本木ヒルズのオープニングパーティが開かれていた。招待された連れ合いに付き添って、ゆっくりと真新しい超高層ビルを見ることができた。
六本木ヒルズは、建物自体も新しい(上) (下)
一言でそれを評すれば、前回のタイトル「アップグレイドする東京」である。ここには、ニューヨークのマンハッタン、上海の浦東(プートン)に勝とうという気概が溢れている。ちまちまと細切れにされ、規制でがんじがらめの上、やっとの思いで建ちあがる満身創痍の再開発とは一線を画している。好い意味で「ディクテイター」的な森ビル社長の強靭な意志と明確なビジョンの勝利である。
森タワーから見た朝日の昇る東京
地権者たちとの長く粘り強い対話、街を好くしようという大義、世界の大都市と景観で覇を競おうとする気概、一流のデザイナーに自由に創造させたセンスと度量、そんなものの結晶がここにはある。日を変えて何度かここを訪れた。訪問客の多さには圧倒されるけれど、みんなこの街の新鮮さと広々とした光景に堪能していた。新しい路地がビルの中にでき、バーやレストランが誕生している。だが、ここにあるのはバブルの浮かれた繁栄ではない。虚構の繁栄を乗り越えて、少し賢くなった都市の姿である。
六本木ヒルズ。地下からのエスカレーター(左)、展望台(中)、並木道(右)
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